コラム  
青嶋ひろの
スポーツナビ

高橋、小塚から見えた確信と安藤に感じた不安 (2/2)
フィギュアスケート・NHK杯総括

2009年11月8日(日)

■なぜ力を発揮できなかったのか?

グランプリファイナル進出を決めた安藤美姫だが、実力は発揮できなかった
グランプリファイナル進出を決めた安藤美姫だが、実力は発揮できなかった【坂本清】

 一方の女子シングル。高橋・小塚ほどの大乱調ではなかったが、安藤美姫はジャンプの助走から勢いがなく、独特の表現技術とスピード感は十分に発揮できず。中野友加里は大きなミスはサルコウの転倒くらいだったものの、ジャンプのダウングレードやエレメンツのレベル取りこぼしなどが多く、得点につながらなかったのが残念だった。

 しかし、シーズン前のトレーニング状況、オリンピックシーズンに向かう気持ちの強さなどを本人や関係者に取材してきた立場から見ると、ここまで二人が力を発揮できないのはおかしい! とどうしても思ってしまう。また高橋や小塚に対してのように、「次はきっと大丈夫!」と言いきれない不安も感じた。

 準備ができているはずの安藤、中野は、なぜ力を発揮できなかったのか? 
 一番の原因は、やはりこのグランプリシリーズにオリンピック代表選考が懸かっているためではないか、と思う。

「ファイナルに出場したい、その気持ちはどうしてもありました。だから気持ちをしっかり持てなくて、フリーが終わった今、自分が何をやったか覚えていないほどなんです」(安藤)

「自分では意識していないつもりだったけれど、やはりどうしても『ここで順位を取ってファイナルへ』という思いが頭をよぎりました。その結果、心と身体がうまくかみ合わず、気持ちばかりが先走りしてしまったかもしれない」(中野)

 男子同様五輪出場枠「3」を持つ、日本の女子シングル。ここを狙ってくる実力者は男子以上に多く、代表争いは熾烈(しれつ)を極めていることは、よく知られている。今年のグランプリシリーズはファイナル進出者のうち日本人最上位者(かつ表彰台に手が届いたもの)がまず一人内定する、そんな形で代表選考に直接絡む試合となっている。これが多くの日本選手たち、特に女子選手たちを今、苦しめているのではないだろうか。

 まずファイナルに進むために、グランプリ2試合から落とせない。ファイナルに出られれば、そこで日本人首位を狙わねばならず、気が抜けない。そしてもちろん全日本選手権は、全員が全力投球――日本選手、特に女子の五輪代表候補たちは、シーズン中ほとんどの試合をコンディション調整や大技の挑戦などに使うことができないのだ。これは「グランプリシリーズは課題を見つける場」、「焦点は国内選手権に定めている」と口をそろえて語る海外勢とは大きく状況が異なっている。

■シーズン序盤から張り詰めた状況が裏目に出なければ…

ファイナル進出を果たせず「ちょっと情けないですね」と中野友加里
ファイナル進出を果たせず「ちょっと情けないですね」と中野友加里【坂本清】

 五輪代表選考は難しい。国内選手権の一発勝負ではどうしても本当の実力者を選べない可能性があるし、ポイント制などですべての試合を選考対象にしていたら、選手たちの負担が大きい。どんな選考方法がベストかは難しいところだが、せっかくシーズン初めに用意されている国際試合、グランプリシリーズ。ここは選手たちがリラックスして階段を上がるための試合だったらもっとよかったのに、と考えてしまう。
 代表争いまでの厳しい戦いを、気を抜かずに戦い抜いた、そんな日本選手たちだけが、五輪本番にはもう疲れ切ってしまっていた……、そんなことにならなければいいのだが。

 とにかく、まずはオリンピック出場権を! その気持ちが強いあまり力を発揮できていない安藤、中野。二人ともが、本当は心身ともにいいシーズンを送れるだけの準備ができているのは確かだ。

「2年続けて出場していたファイナルに出られないことが残念。ちょっと情けないですね」
 フリー後にそんなことを語っていた中野だが、シーズン前の言葉は全く違っていた。
「これまでのいい成績があるから、プレッシャーが大きくなる。過去のことは忘れて、今年はスケートを楽しみたいんです」
 今、中野が忘れがちなのは、「楽しみたい」この気持ちの方だろう。

 シーズンに入り、気持ちが不安定になりがちな今、彼女たちには、シーズン前にこなしてきた練習、充実していた気持ちを、ぜひ今、思い出してほしい。きっとそれぞれのコーチたちも同じことを言っているだろうが、「あなたがしてきたことを信じれば、きっと大丈夫!」そんなことを、外野からも思う。

 オリンピックを前にしたチームジャパン。スターも実力者も一人や二人ではない。多くの選手が世界で戦える力を持っているし、力を発揮できるだけの万全の準備を、今シーズンはしてきた。あとは彼らが五輪前、心配なく一試合一試合で成長していける、そんな状況こそが必要だ。

<了>

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青嶋ひろの

静岡県浜松市出身。97年よりフリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材し、04年より日本スケート連盟オフィシャルブックの企画・執筆を担当。今シーズンは『日本女子フィギュアスケートファンブック2010』(扶桑社刊)、『日本男子フィギュアスケートファンブック Cutting Edge 2010』(スキージャーナル刊)などを制作。スポーツ以外の編著書に『逢いたくなっちゃだめ』、『誰かいませんか』、『無敵の俳句生活』などがある

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