フィギュアスケート、グランプリシリーズ展望 (1/2)
高橋ら金メダル候補は10人以上 男子編
フィギュアスケート男子シングル。注目度においては女子に一歩、二歩譲ることの多いこの種目だが、グランプリシリーズが10月15日から始まる今シーズンは何十年に一度かの充実期、と言っていいかもしれない。
2006年トリノ五輪でトップを競った世代がほぼそのまま競技に残り、バンクーバー五輪も同じメンバーで競われるだろうと予想されていた4年前。昨シーズンはジェフリー・バトル(カナダ)、ステファン・ランビエール(スイス)の引退、高橋大輔(関西大学大学院)のけがによる戦線離脱といったショッキングな出来事はあったが、その代わりにパトリック・チャン(カナダ)、小塚崇彦(トヨタ自動車)といった若手、ジェレミー・アボット(米国)、サミュエル・コンテスティ(イタリア)ら新顔のベテランも実力を伸ばしてきた。ここにさらに、世界選手権初出場で8位のデニス・テン(カザフスタン)、世界ジュニア2連覇のアダム・リッポン(米国)といったさらなる若手も加わり、五輪シーズンは面白くなるぞ、と思った矢先――トリノ五輪金メダリスト、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、同じく銀メダリストのランビエールの競技復帰が相次いで発表され、世界中のスケートファンを驚愕(きょうがく)させた。そして日本の高橋も、右ひざ前十字じん帯断裂のけがから満を持して復帰する――。
もう役者がそろいすぎて、どこに注目していいのか見当もつかない。ベテラン、復帰組、躍進組、若手、超若手と入り乱れて、金メダル候補が10人、いやそれ以上いる、と言ってもいいほどだ。
■個性派ぞろいの「ベテラン世代トップ6」
まずはトリノ五輪1位から8位までの選手中、現役で残っている6人。彼らがまずは「ベテラン世代のトップ6」といっていいだろう。
トリノ優勝のプルシェンコ、2位のランビエール、4位のエヴァン・ライザチェク(米国)、5位のジョニー・ウィアー(米国)、6位のブライアン・ジュベール(フランス)、そして8位の高橋。
トリノ五輪では、王者プルシェンコの一人勝ちが始まる前から予想できたが、今シーズンはそうはいかない。プルシェンコがけがの療養などで試合に出なかった3年間に、ランビエール、ジュベール、ライザチェクは世界チャンピオンとなり、ウィアーと高橋もそれぞれ世界選手権メダリストとなるほど成長。かつてのライバルたちがプルシェンコに追い付き、実力が拮抗(きっこう)する中、グランプリシリーズでも一戦一戦で勝者が変わるほどの激戦を見せてくれるだろう(注:ランビエールのみ、グランプリシリーズへのエントリーはない)。
彼らは年齢でいえば23歳から26歳。高橋に言わせると、「ずっと一緒に戦ってきたオジサン世代」とのことだが、この6人、高い技術を持つだけでなく、それぞれが超個性派だったことも、今、男子フィギュアスケートを面白くしている要因の一つだ。
■ジャンプのジュベール、存在感光る米2選手
まずは男子スケート最大の魅力である、4回転ジャンプの申し子、ジュベール。筋肉の塊のような彼の体がパワフルに4回回って着氷した瞬間、リンクは勝どきに似た大歓声に包まれる。今年もフランス国内で行われたローカル試合からトゥループ、サルコウと2種類の4回転に挑んだようで、シーズン初めからジャンプでこの時代を制する者たらんと、意欲的だ。
一方で4回転ジャンプを回避することは多いものの、プログラムの芸術性や氷の上での存在感で大きくアピールできるのが、米国の二人。ウィアーは誰から教えられたものでもない、生まれ持った気品を滑ることで表現できるスケーターで、これまでは本人も愛してやまないロシア系振付師の作品を滑ることが多かった。それがオリンピックシーズン、キム・ヨナ(韓国)の振付師としておなじみのデービッド・ウィルソンに振付けを依頼したことで大きな話題に。グランプリシリーズではウィアーの新プログラム、新境地に要注目だ。
トリプルアクセルまでのジャンプで昨シーズンの世界チャンピオンとなったライザチェクもまた、長い手足を生かして青年の感情をほとばしる演技で、強い存在感を持つ。今年は北米での五輪開催ということで、バンクーバーオリンピックの顔として、米国内からも強い期待を寄せられている一人。五輪CMなどへの登場も本人が存分に楽しんでいるようで、現世界チャンピオンの誇りを持ってシーズンインしてきそうだ。
■復帰果たすプルシェンコ、高橋、ランビエール
否が応にも注目度抜群の、ここ2シーズンの世界メダリストたち。しかし彼ら以上に今年のグランプリシリーズでの演技が楽しみな選手は、プルシェンコ、そして日本の高橋だろう。
プルシェンコの競技復帰、グランプリシリーズへの参戦。その発表は、誰もが「さすがにもうない」と思っていたことが現実になってしまった、そんな驚きの瞬間だった。トリノ後、一時はアスリートらしからぬ体形を見せてもいたが、現在は体のコンディションも整え、4回転のコンビネーションジャンプも難なく決めているという。ファンとしては、競技者としてのプルシェンコが再び見られると思うとわくわくが止まらない。また彼と戦う選手にとっても、「あのプルシェンコと戦える!」という喜びは何よりも大きいに違いない。プルシェンコに勝ってこそ、本当の王者――彼の復帰は、今シーズンの男子シングルの価値をいっそう高めたともいえる。
そしてグランプリシリーズ、日本中の、いや世界のスケートファンが復活を待ちに待ったもう一人が、高橋だ。すでに日本国内では、『フレンズ・オン・アイス』、『カーニバル・オン・アイス』などで元気な姿を見せ、いっそう柔らかさを増した演技、さらに伸びやかになったスケートで、「やはり大輔!」と見る者をうならせた。特に『カーニバル・オン・アイス』では、プログラムの中でトリプルアクセルにも成功。この一年間、リハビリも、その後の氷上練習もいい調子でこなしてきた中、『フレンズ・オン・アイス』後に一度、ジャンプの調子を落とした時期もあったという。その影響で、4回転ジャンプを取り戻すところまでは現時点(10月上旬)では達していないが、シリーズ登場は4戦目NHK杯と6戦目のスケートカナダ。そこまでには間に合わせたい、と意欲は十分だ。あとは1年のブランクで失っていた試合勘を、取り戻せるかどうか。
グランプリシリーズには出場しないが、ここに加わってくるのが、二度の世界チャンピオン経験者、ランビエール。この同世代の6人、全員が勢ぞろいするだけでも、バンクーバー五輪シーズンの男子シングルは、本当に見逃せないものとなりそうだ。
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