コラム
敗北の浅田真央、栄光への旅立ち (1/2)
宿敵と歩み続けたスケート人生
■「ずーっと一緒にスケートやるんだなあ」
「あのね、ユナちゃんと真央、同じ年ってだけじゃなくて、誕生日も同じ月なの。ユナちゃんも9月生まれって言ってた。それを聞いて、あ、この子とは、ずーっと一緒にスケートやるんだなあって思ったよ」
ライバル、キム・ヨナ(韓国)と初めて戦ったシーズン。14歳の浅田真央(中京大)の言葉を、五輪の表彰台に立つ二人を見つめながら思い出した。
この年、2004−05シーズン。ジュニアグランプリ(GP)ファイナルは浅田1位、キム・ヨナ2位。世界ジュニア選手権も浅田1位、キム・ヨナ2位。ぴたりと後ろについてくる年も背格好も近いアジアの友人のことを、「スケートが……すごく上手。滑ってる曲もすごくいい曲だったけれど、それで踊ってるユナちゃんも、すごくきれいだったんです」と浅田は語った。その「すごく上手」な選手に、あなたは2回も勝ったじゃない、と冷やかすと、ちょっと考え込むように彼女は言った。
「うーん、でも、今年は負けなかったけれど、次は負けるかもしれないし……」
この後、ジュニアの年齢でGPファイナルを制し、快進撃を見せる浅田が、まさか同い年のジュニア選手に敗れる日が来るなんて、周囲は考えもしなかった。しかしこのころから彼女自身は、予想していたのだ。「ユナちゃん」に、「次は負けるかもしれない」と。キム・ヨナはそれだけの強さを持ったスケーターだと、誰よりも早く、浅田が認めていたのだ。
それから5年後、二人が初めて迎える五輪の舞台。よくぞここまで、二人ともが特別なアクシデントに見舞われることなく、「ずーっと一緒にスケート」してきてくれたな、と思った。
■チャンピオンにふさわしい精神力
女子シングルフリー。キム・ヨナの得点表には、見たこともないほどたくさんの+2、+3が並んでいた。
12のエレメンツの基礎点合計は60.90、エレメンツスコアの合計は78.30。つまり17点以上の加点を、エレメンツの出来栄え評価だけで獲得。難しいジャンプを跳ばずに、できるエレメンツの質を上げて、得点を稼ぐ――新採点システムでの勝ち方をよく心得たヨナ陣営の作戦はピタリとはまった。そしてそんな質の高いエレメンツで構成されたプログラムを、大重圧の中、キム・ヨナがこれ以上ないくらいパーフェクトに滑り切ったことが素晴らしい。
五輪開幕前、優勝候補筆頭であるキム・ヨナに付け入るすきはないかと聞かれれば、それは彼女のメンタル面にしかない、と答えていた。日本勢が3人のメダル候補で五輪に乗りこむのに対し、彼女はたった一人で祖国の期待を背負ってこの舞台に立つ。さらに、噂されているように「今シーズン限りで引退、プロ転向」を考えているのならば、絶対にここで金メダルを取りたい気持ちも、内側からのプレッシャーとなって彼女を襲っただろう。もしキム・ヨナにすきができるとすれば、それは彼女の精神面……そんな安易な予想を一気に覆してしまうキム・ヨナの心の強さは、まさに五輪チャンピオンにふさわしいものだった。
■勝者以上に観客を沸かせたトリプルアクセル
一方で敗れはしたものの、浅田のフリーも素晴らしかった。トリプルアクセル2回、これを成功させなければ浅田に勝ち目はない、などと簡単に言われてきたが、この世で跳べる者のほとんどいないジャンプを、五輪で2度も跳ぶなど、一体どれだけ大変なことか。
浅田自身も何度も挑戦し、過去に2度しか認定されていないクリーンな「アクセル2回」を、本当にこの舞台で跳んでしまうとは、思わなかった。さらにこの日の浅田が素晴らしかったのは、信じられないようなジャンプを見る快感を観客に与えただけでなく、「鐘」という彼女自身が選んだプログラムをきちんと演じ切ったこと。ポジショニングのしっかりできたスパイラルには、強く重厚なオーケストラ曲に負けない凄みがあった。ストレートラインステップもシーズン前半にはなかった力強さで、見る人々の心のひだを大きく揺さぶるように、彼女の身体も大きく揺れた。
これは自国選手に対するひいき目かもしれないが、キム・ヨナよりも浅田の演技に対して、パシフィックコロシアムの観客はより沸いていたように思う。やはり得点の上でそれほどのアドバンテージは得られなかったとしても、トリプルアクセルを2度も見せたことで、観客を「プログラムの行方を見守る気持ち」にさせていたのだ。多くの人々が浅田のパーフェクトを見たい思いで、ジャンプが成功するたびに大きな歓声を上げたし、2度のアクセルが生んだテンションはプログラムの他の部分にも波及し、4分間をパワーに満ちた時間に変えていた。たとえ負けたとしても、五輪でトリプルアクセル2度、この挑戦は歴史的な快挙だし、浅田の「鐘」を完成させるうえでも大きな意味のあるエレメンツだった――何よりも観客の大きな反応に、そんなことを感じた。
<続く>

