コラム

キム・ミョンウ
スポーツナビ

静かな4度目の南北コリア対決 (1/2)
2010年W杯・南アフリカ大会アジア最終予選

2008年9月17日(水)

■中立地・上海での不思議な空間

北朝鮮国旗を掲げて応援する女性サポーター
北朝鮮国旗を掲げて応援する女性サポーター【Photo:ロイター/アフロ】

 9月10日の虹口足球場はとても不思議な空間だった。2010年ワールドカップ(W杯)・アジア最終予選グループ2、北朝鮮対韓国の試合を控えた中国・上海の虹口足球場周辺には、赤いTシャツを着た上海在住の北朝鮮応援団と、韓国の“レッド・デビル”率いる応援団、そして現地の中国人らが徐々に姿を見せ始めていた。
 上海在住の北朝鮮の人々と、韓国人サポーターが目と鼻の先に、しかも声をかければすぐに話せる場所にいる。ピョンヤンとソウルで取材経験がある私にとって、決して見慣れない光景だった。

 分断国家の韓国と北朝鮮。1953年7月27日の休戦協定により発効された朝鮮戦争の休戦ライン・軍事境界線を隔てて、両国は異なる政治体制を維持しながら半世紀以上が経った今も対峙(たいじ)している。
 そんな両国だからこそ、一般人が話す機会など皆無に等しい。しかし、ここ上海なら可能だと思った。北朝鮮と国交のある中国にビジネスで来ている北朝鮮の人やその家族たちが多く暮らしているため、行動も自由で声をかけやすい。現に中国人のダフ屋が北朝鮮の人に「チケットを買わないか」としきりに話しかけている姿が見受けられた。
 もっとも、北と南の人たちの和やかな風景が広がるのではとひそかに期待を寄せていたのだが、その予想は完全に裏切られた。

 韓国テレビ局のMBCリポーターとカメラが北朝鮮女性たちにインタビューを取ろうとするも、なかなか近づけず、いざ声をかけると、きっぱりと断られる始末。北朝鮮の人たちと写真を撮りたい韓国人が声もかけず、北朝鮮の人たちをバックに写真を撮るしかなかった。韓国と北朝鮮は、やはり分断国家であるという現実を突きつけられた瞬間でもあった。
 そんなぎこちない風景を言い表していたのが、今回の第3国開催だ。W杯3次予選でも朝鮮は同組であったが、「ピョンヤンで韓国の国歌吹奏と国旗掲揚はできない」との政治的理由から、3次予選と最終予選の北朝鮮ホームの韓国戦は上海開催となった。

■同じ民族であっても試合には負けられない

「在日同胞3世で、今回の南北戦の取材で上海まで来ました。ピョンヤンに滞在して取材経験もあります」
 この言葉を発した瞬間、10人ほどの北朝鮮“美女軍団”は私の顔を見て目をまるくしていた。北朝鮮の人と話すのは実に3年ぶりだ。
 応援に訪れていた“美女軍団”はすべて上海在住の北朝鮮直営レストラン従業員。彼女たちを引率していた中国人商社マンによると、上海市内には約7つの北朝鮮レストランがあるという。そこで働く女性たちは10代から20代前半の若い女性たちで、2〜3年働いて国に帰るらしい。
 そんな話を聞いているうちに、彼女たちは突然、アイスクリームをほおばり、手にはソニーのデジタルカメラ『サイバーショット』を手に記念撮影を始めたのだ。正直、驚いた。彼女たちの上海での暮らしぶりの一端を見た瞬間だった。

「みんな奇麗でしょ? 取材にも熱が入りますよね(笑)」(中国人商社マン)
 そんな言葉をよそに、実際、サッカーの北朝鮮代表についてどれだけ知っているのか聞いてみた。
「どの選手に注目していますか?」
「チョン・テセとホン・ヨンジョ選手です」
 23歳のソ・リョンさんと22歳のリ・ソンフィさんはとにかく、この2選手が好きだという。
「国内でもチョン・テセ選手はとても有名です。日本で育ちながらも朝鮮代表になるなんてすごいことじゃないですか。いつか祖国が一つになって“統一チーム”で出てくれれば……」

“統一チーム”。過去、ピョンヤンで祖国統一を願う北朝鮮の人々から聞いたことがある懐かしいフレーズだなと思いつつ、「それでも今日は負けたくないでしょう?」と間髪いれずに言葉を返してみた。すると彼女たちは「もちろん、われわれが勝たなくてはいけません」と笑顔で答えた。
 なるほど。それなら韓国サポーターたちはどうなのか。“レッド・デビル”応援団のなかにいたカップルに話を聞いた。
「北朝鮮は総合力で韓国代表より落ちるでしょ? 韓国代表が負けることないですよ」
 悲しいかな、同じ民族であっても試合には負けられない。

 <続く>


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