偉大なチームと肩を並べたドイツ (6月24日@ミュンヘン)
2006年06月25日 |
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■取材者にとっても正念場の決勝トーナメント
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さりげなくドイツ国旗をペインティングしたDBの職員。代表への思いを秘めて職務に励む【 photo by 宇都宮徹壱 】
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ベルリンから飛行機で、開幕戦以来となるミュンヘンに戻ってきた。 グループリーグを首位で通過したドイツは、ここでスウェーデンとベスト8進出を懸けたゲームに臨む。あれほどイングランドを恐れさせたスウェーデンが相手とあって、ドイツの人々は祝祭ムードに身を委ねながらも、どこか緊張した面持ちを隠せずにいた。興味深かったのが、Sバーンの乗客整理に汗を流すDB(ドイツ鉄道)の職員も、メディアセンターでかいがいしく働くボランティアスタッフも、ほおに小さくドイツ国旗の黒・赤・黄をペインティングしていたことである。一般のファンとは異なり、職務上おおっぴらに声援を送ることができない人々の思いが、その小さな国旗から感じられる。
選手同様、われわれ取材者にとっても、この日から始まる決勝トーナメントは正念場だ。というのも、配布されるメディアチケットの数が、極めて限定されるからである。事実この日も、私を含む多くの日本の取材者がメディアチケットがもらえないまま、長い行列に並ぶことになった。メディアセンターの空気も、いつになく殺伐としている。 チケットを求めて、ぎらぎらした目をした大勢の記者を前に、FIFA(国際サッカー連盟)の担当者が、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語を交えながら、ウエイティングリストの優先順位を説明している。まず当該国のメディアと記者、次に決勝トーナメントに進出した国、さらに本大会に出場した国、それ以外の国と続く。日本はもちろん、3番目のカテゴリー。ウクライナやガーナやオーストラリアの記者よりも、プライオリティーは低いのである。今さらながらに、敗者の悲哀を痛感する。
ちなみに私はといえば、このウエイティングリストから漏れてしまったのだが、受付が用意したリストに名前を書き込んだら、キックオフ30分前に何とかチケットを手にすることができた。ホッとした反面、今後ファイナルまでずっと、こうした気苦労を味わうのかと思うと、何やら沈んだ気分になる。
■終わってみればドイツの完勝
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いいところなく敗れたスウェーデン。だがサポーターは祭典の雰囲気と夏の日差しを満喫していた【 photo by 宇都宮徹壱 】
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ドイツもスウェーデンも、共にベストメンバーで臨んだこの試合。だが、結果は思いもよらぬ一方的なものとなった。 「特に最初の30分間がよかった。最後にドイツが、あれほどのサッカーをしたのはいつだったのだろう。正直、思い出せないくらいだ」 試合後にクリンスマン監督がこう語ったように、この日のドイツは“電撃戦”とでもいうべき、序盤からの積極的な攻撃が光っていた。
前半4分、いきなりドイツが先制する。自陣からのロングボールをクローゼが前線で落とし、さらにバラックがペナルティーエリアへスルーパス。これを受けたクローゼが相手DF2人をかわして抜け出すが、GKイサクションが勇気ある飛び出しでこれを止める。だが、すでに二の矢は放たれていた。こぼれ球にポドルスキーが詰めて、あっけなくスウェーデンのゴールネットは揺れた。これで1−0。
待望の先制ゴールを挙げてからも、ドイツは攻撃の手を緩めることはなかった。12分、今度はポドルスキーがペナルティーエリア手前にいたクローゼに長いパスを通す。これを受けたクローゼが中央に切れ込む動きを見せると、DF3人が見事につられて中央にぽっかりとスペースが出現。そこに飛び込んできたポドルスキーにボールが渡り、またしても豪快にネットが揺さぶられる。これで2−0。このシーンは、決めたポドルスキーよりも、自らが放つ存在感でスウェーデンの守備陣を操ってしまったクローゼを褒めるべきだろう(実際、この試合のマン・オブ・ザ・マッチはクローゼであった)。 クローゼが仕掛けて、ポドルスキーが決める。このポーランド系の2トップによる「ゴールへの方程式」は、この日の試合でしっかり確立されたように思える。
ドイツの勝利を決定的なものにしたのは、前半35分のルチッチの退場であろう。この経験豊かなスウェーデンのセンターバックは、クローゼを押さえ込んでしまい、痛恨の2枚目のイエローでピッチを去ることを余儀なくされた。この日の主審は、ブラジル人のカルロス・サイモン氏。客観的に見ても、かなりホーム寄りの笛を吹いている印象を受けた。もう少しゲームに緊張感を持たせる意味でも、余計なカードだったようにも思う。
後半は8分にスウェーデンにPKのチャンスが与えられたものの、圧倒的な数を誇るドイツサポーターのブーイングに屈するかのように、ラーションのキックはクロスバーを越えてしまう。以後は、ドイツが積極的にミドルシュートを狙い、イサクションがファインセーブを連発するという大味な展開が続き、そのままタイムアップ。スコアこそ2−0だったが、ドイツの完勝といってよい内容であった。ボールポゼッションが63対37、シュート数が26対5。数字を見れば一目瞭然(りょうぜん)である。
この日の勝利で、いち早くベスト8進出を決めたドイツ。これで、戦後初の出場となった54年大会から続くベスト8進出連続記録は「14」に伸びた(西ドイツ時代を含む)。あのブラジルやイタリアでさえ、この間にグループリーグ敗退を経験している(いずれも66年大会)ことを思えば、どれだけ偉大な記録であるか容易に理解できよう。 その夜、ドイツ国民の喜びようは尋常ではなかった。そりゃそうだろう。今までさんざん国民に心配をかけてきた代表が、ようやく過去の偉大なチームと肩を並べたのだから。土曜日ということもあって、ミュンヘンの街中は夜を徹してのお祭り騒ぎとなった。異常な数の乗降客に、この日はてんてこまいだったDBの職員たちも、今ごろは静かに喜びをかみしめていることだろう。
■「世紀の大失言」に思うこと
最後に、日本から飛び込んできた代表関連のニュースについて、どうしても言及しておきたい。言うまでもなく、チームとともに帰国した川淵キャプテンの「あ、オシムって言ってしまった」発言に関してである。スポーツナビに掲載されていた会見の内容を読んで、私は川淵キャプテンのこの発言に猛烈な違和感と失望感を覚えた。もっとも、あくまで2次情報なので、ここでは以下の3点に集約して、この「失言」の問題点を指摘しておく。
まず「失言」が意図的ではなかったと仮定する。次期代表監督という、協会人事の中でも最も神経を使わなければならない機密事項を、このような場で「失言」するというのは、常識的に考えれば大失態である。少なくとも、年間数十億の予算を持つ組織の長がすることとは、およそ思えない。当のオシムも、こうした守秘義務が守れない組織で仕事をすることに、少なからずの危機感を覚えるだろう。
では「失言」が意図的だったと仮定しよう。すると、なぜ、今このタイミングなのかという疑念が浮上してくる。そうなると、あらゆる状況をかんがみて、今大会の惨敗という現実からファンの関心をそらすため、と判断されても仕方がないだろう。そこで「世界のオシム」がダシにされたのでは、たまったものではない。ジーコの後任がオシムであれ、ほかの人間であれ、まずは今大会の総括と反省が何よりも優先されるべきである。
そして「失言」が意図的か否か以前に、ジェフ千葉のクラブ関係者、選手、そして何よりもサポーターの心情というものを、あまりにも無視した発言であったことが、私にはどうにも納得できない。彼らがこの3年半の間、どんな思いでオシムとともに戦い、どれだけ苦しみと喜びを分かち合ってきたか――ジェフのサポーターではない私でも、それなりの理解と想像はできる。そうした大切な思い出を踏みにじるかのような今回の「失言」を、少なくともジェフのゴール裏の住人たちは、決して許すことはないだろう。
果たして「失言」の真意はどこにあったのか。いずれにせよ、何とも暗澹(あんたん)とさせられるニュースである。
<翌日に続く>
宇都宮徹壱/Tetsuichi Utsunomiya 1966年福岡県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、欧州を中心に「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旧共産圏のうらぶれたスタジアムと、現地で飲む酒をこよなく愛する。著書に『幻のサッカー王国』『サポーター新世紀』(いずれも勁草書房)、『ディナモ・フットボール』(みすず書房)。自身のWEBサイト(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でコラム&写真を掲載中
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