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コラム  

アサノビッチの言葉(1/2)
(6月18日@ニュルンベルク)

2006年06月19日

■かつてのライバル、日本戦を語る

試合前のニュルンベルク中央駅にて。この日も多くの日本人サポーターが集結
試合前のニュルンベルク中央駅にて。この日も多くの日本人サポーターが集結【 photo by 宇都宮徹壱 】

 クロアチア戦を前にして、ふと思い立ってアサノビッチのインタビューメモを読み返してみた。アサノビッチというのはもちろん、8年前に日本が対戦したときに、クロアチアの中盤の一角を担っていた背番号7、アリョーシャ・アサノビッチその人である。決勝点となるシューケルのゴールをアシストしたのも、この男の左足であった。

 2000年に現役引退後、「教授(アサノビッチの愛称)」はアドリア海に面した出身地のスプリトでカフェとレストランを経営しながら、僚友のスラベン・ビリッチを補佐する形でU−21代表のコーチも務めている。いわゆる黄金の「98年組」は、現役引退後、代理人になったり(シューケル)、ジャーナリストを志したり(プロシネチキ)、スポーツ紙の株主になったり(ボバン)と、活躍の場は多岐にわたっている。だが引退後、協会のスタッフとして後進の指導に当たっているのは、今のところアサノビッチとビリッチのみ。そんなアサノビッチに、8年前と現在の代表について比較してもらおうというのが、その時のインタビューの主旨であった。

「教授」は、1998年6月20日、ナントでの日本戦のことを今でもよく覚えていた。

「あの試合、体感温度は40度近くあった。それに日本は素晴らしく走るチームで、われわれを困らせるのに十分なだった。本当は、できるだけゴールを早く決めたかったが、結果として非常に苦しめられることになった。あれから8年経ったが、今は日本はさらに進歩したチームであることを、私は希望している」

 インタビューしたのは、今年の3月上旬。折からの異常寒波で、港町・スプリトの風景は、どんよりと曇った空と鉛色の海で覆われて、とっても寒かったことを覚えている。酷暑が続く6月のドイツにいると、もう随分と昔のことのように思える。
 あれから3カ月がたって、アサノビッチの言葉を読み返してみると、この日本対クロアチアの試合を予見したかのような言葉を再発見して、あらためてこの人の眼力の鋭さと分析力の確かさを思い知った次第である。そこで今回はいつもと趣向を変えて、教授の言葉を枕に置きながら、この試合のポイントを振り返ってみることにしたい。

■明暗を分けた川口のPK阻止

「非常にタフな試合になることは間違いない。だが、“ちょっとしたニュアンス”が明暗を分けると思う」(日本とクロアチア、どちらが勝つかという質問に対して)

 4バックでこの試合に臨んだ日本。序盤は両サイドバックの攻撃参加を控え、「真ん中に人数をかける」(宮本)ことで、クロアチアの猛攻を何とかしのいでいた。しかし、そのラインコントロールの任をつかさどる宮本が、この日はプレーにいつもの落ち着きが見られない。何というか、彼がボールに触るたびに、見ていて危なっかしいのである。

 そういえば試合前、記者席のモニターで選手入場前の映像を見ていたのだが、宮本の視線が、何やら極限状態に追い込まれた人間の目をしているのが気になっていた。無理もない。衝撃的なオーストラリア戦の敗北以来、彼が背負ってきた呵責(かしゃく)と重圧と心労は、尋常ではなったはずだ。その意味では、私は彼に心から同情する。しかしながら、それが「絶対に勝たなければならない」この日の試合において、悪い影響を与えてしまうことだけは、断じて避けなければなるまい。
 しかし、この日の日本は必死で守ってはいるものの、あってはならない場所とタイミングで、あってはならないミスも見られた。そしてついに前半21分、宮本の不用意なファウルによって、日本はクロアチアに痛恨のPKを献上してしまう。キッカーは、正確無比なプレースキックを得意とするスルナ。

 私は日本のため、というよりも、むしろ宮本のために祈った。ここで先制点を決められてしまえば、日本の勝利は厳しくなる。そればかりか、今大会における失点すべての責任が「ディフェンスリーダー」宮本ひとりに課せられる恐れさえある。そうなれば、このチームはブラジル戦を待たずして、完全に崩壊してしまうだろう。たとえ次戦、累積警告で出場がかなわなくなっても、それでも強烈な個性をひとつのチームにまとめあげる、宮本のリーダーシップは不可欠である。ゆえに、ここで宮本をつぶしてしまってはならない。

 そんな宮本の、そしてチームの窮地を左手一本で救ったのが、川口のファインセーブであったことは周知の通り。川口いわく「ビデオで事前に研究していたが、本番になって忘れてしまい、本能で左に飛んだらボールに当たった」そうである。それでも、この神業によって宮本が、そしてチームが息を吹き返したことだけは間違いない。一方で、日本が最も警戒すべきプレーヤーであるスルナは、このPK失敗ですっかり“ただの選手”に堕してしまった。まさに川口の「無意識に左に飛んだら当たった」という“ちょっとしたニュアンス”、1つのプレーが、両チームに大きな心理的影響を及ぼした、典型的なケースであるといえよう。

<続く>


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