■すべてはプラン通りのこと
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ヒディンク監督はオーソドックスながら的確な采配で、オーストラリアに勝利を手繰り寄せた【 Photo by 大友良行 】
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日本戦でオーストラリアは、キューウェルが先発した以外は、6月4日に行われたオランダ戦(1−1で引き分け)と同じラインナップで臨んできた。しかしシステムは4−3−3から3−5−1−1に大きくシフトチェンジした。
ドイツ対日本の親善試合が行われた5月30日、ヒディンク監督は現地でスカウティング活動を行っている。ヒディンクはDVDを活用して、「自チーム、相手チームの分析」「選手、チームへのフィードバック」「戦術決定」「ゲームプランの設定」を行っているが、これが素晴らしい。アーノルド・コーチはコーチングスタッフのミーティングについて、「これは前日の夜に行われる。気持ちの高ぶりがない中で、すべてが確認される」と証言している。 ヒディンク監督は日本戦の後、次のように語っている。 「ドイツは中盤を支配された。2トップの柳沢と高原はスピードがあり、危険だ。普通は『日本のFWをマークしろ』と言いたくなるだろう。しかしわれわれは、FWへのボールの供給を断つことが重要と考え、中村と中田英を密着マークすることにした」
こうしてオーストラリアは、オランダ戦とほぼ同じメンバーながら、大きくシステムを変えることになった。中村には中盤のエースキラーであるグレッラが、中田英に対しては右サイドの職人エマートンが中に絞ってマーク。そして福西に対してブレシアーノが付いたことにより、この3−5−1−1は中盤でグレッラを底辺にする逆三角形となった。
オランダ戦でグレッラとセントラルMFのコンビを組んだウィルクシャーは右に張り出し、対面の三都主をつぶしにきた。ヒディンクの“日本の中盤壊し”の肝となったのは、エマートンとウィルクシャーのコンバートだった。
「エマートンとグレッラが素晴らしいプレーをした」とヒディンクは語った。エマートンが得意とするサイドアタックが減るというデメリットはあったが、日本の武器を封じることができたことは、それ以上のメリットがあった。しかもオランダ的な逆三角形のMFによって、パスコースも増えた。エマートンはかつてフェイエノールトでプレーしていたから、そのあたりの理解も的確だったのだろう。 日本の3バックに対し、ヒディンクは「われわれは(ビドゥカとキューウェルの)2トップで戦った」とコメント。ヒディンクはまた、“前半のプラン”と“ピッチ上の現象”について、「キューウェルは実際には少し引いた位置でフリーに動かした。これで日本は、3人のDFでビドゥカ1人をマークすることになり、キューウェルが余る形になった。しかし、前半は得点に至らず、効率で劣った」と分析。 よって後半途中からは「2トップ、いや“明らかな2トップ(ビドゥカ、ケネディ)”にした。キューウェルは左MFに下げ、そこから自由にやらせた。前日の練習でもやっていた、プラン通りのこと」と語っている。
「前半を0−1で折り返すことは、プランに入っていなかったよ」とヒディンクは笑う。だが、それは恐らくジョークだろう。リードされたときのプランは、これまで何度もヒディンクが見せてきたものと同じだからだ。この日も1枚1枚前線に選手を増やしていき、相手守備陣の前に“ストライカーの壁”を作った。 「ハーフタイムに、選手たちには『後半開始10分に1人(カーヒル、実際には後半開始8分後だった)、それから2人(16分、ケネディ)、3人(30分、アロイージ)と入れていくぞ』と伝えた」
スローインからのゴールも練習通り。ジーコ監督は、「オーストラリアのゴールはロングボールが誰かに当たって、また当たって決まったようなもの」と不運を嘆いた。しかしオーストラリアからすれば、これはロジカル(論理的)なゴール。相手ペナルティーエリア内に選手が密集する状態を作っておけば、サッカーでは何かが起こる。スローインはキックほどスピードがない分、相手DFはヘディングを遠くに飛ばせないし、クリアするためにはしっかり足を振り切る必要がある。オーストラリアは、スローインからの混乱をあえて作り出したことにより、同点ゴールを決めた。 ヒディンク監督は、難しい状況から追いつき、逆転し、さらに追加点を奪っての勝利に「ネバーギブアップの精神が素晴らしかった。チームに大きな賛辞を与えたい」と喜んだ。その喜びの大きさは、鍵となる試合で勝ったときに見せる“アッパーカットポーズ”を派手にやったことからも分かる。
■試合前から勝負は決まっていた
一方で、オーストラリアには誤算もあった。後半、あまりにロングボールが多くなったことで、サッカーの質が下がってしまったことだ。
前半のオーストラリアは、日本陣内で“ボールを持ったプレッシング”という戦術を使っていた。日本のマークは、オーストラリアのMF3人に対し、ややあいまいだった。ボールがさらにワイドに行くと、遅れ気味に日本のマークが付いて行く。そうするとオーストラリアは中盤にボールを戻し、今度は逆サイドにボールを開く。日本のDFは方向を変えてボールホルダーをマークしにくるが、オーストラリアはまた中盤に素早くボールを戻し、再び逆サイドへ……という展開を続ける。 するとどうなるか。守っている日本の選手たちは、後手後手にボールへ行かざるを得ないから、自然とジリジリと後ろへ下がることになる。このとき、オーストラリアはボールを持った状態でありながら、相手陣内に密集状態を作っている。
日本はボールを拾っても、目の前にオーストラリアが密集地帯を作っているから、パス回しを放棄して大きくクリアせざるを得ない。こうしてオーストラリアは難なくボールを拾い、2次、3次攻撃へとつなげていくのだ。これは、オランダ的な“ボールを持ったプレッシング”と言える。私は、エクアドルが見せた“引いた状態でのプレッシング”に続いて、2つ目のプレッシングサッカーを今大会で目撃したことになる。ぜひ「オランダ通信――オランダサッカー5つのエッセンス」と読み合わせてほしい。これらに加えて“前線からのプレッシング”を見れば、3つのプレッシングが出そろう。
ところが後半は、後半16分に投入された長身FWケネディのストロングポイントである(日本のウイークポイントでもある)“高さ”を選手が意識し過ぎてしまった。これにはヒディンク監督も「あまりに真っすぐ蹴り過ぎた。左右につないで、対角的なパスを交えないと。この点はアンハッピーだ」と答えている。後半のオーストラリアは大型FWをそろえ、ロングボールで日本DFをペナルティーエリア近辺に釘付けにした。だが、これではDFラインとFWまでの距離が開き過ぎ、密集状態を作れない。これは“プレッシングサッカー”とは言わず、“オポチュニズム・フットボール”と言う。日本語でよく“縦ポン”と呼ばれるものが、それにあたる。このサッカーを使うのは、最後の緊急事態においてである。
この日の勝利には、運もあったオーストラリア。ヒディンクはそれを認めた上で、こう言った。 「確かに運はあった。だがわれわれは、試合がどのように展開していくか、それに対するプランがあった。プランがあり、準備をし、それを実行した。こうして運を引き寄せたのだ。選手たちのネバーギブアップの精神、そして戦術の実行力は素晴らしかった。選手交代もうまく決まった」
日本の中盤をつぶしにくるなど、ヒディンクの戦術、采配(さいはい)はオーソドックスなものだった。それだけに、日本の対応策が乏しかったのは何とも残念だった。試合の前から、勝負のあやは決まっていたといえる。
<この項、了>
中田徹/Toru NAKATA 1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。メキシコW杯を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。2002年ワールドカップ、ユーロ2004をはじめ、ヘラクレスの平山相太を中心にオランダリーグのコラムなどをリポートしている
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