島沢優子
スポーツナビ

日本に創造性豊かな選手が育つ土壌はあるか (1/2)
京都アドバイサー・池上正の育成改革論

2012年1月26日(木)

■制度の変更よりも大切な指導の哲学

「世界のトップ10を目指すのなら、今現在の日本のサッカーを基準にして、子どもに模倣させてはいけない」という池上氏
「世界のトップ10を目指すのなら、今現在の日本のサッカーを基準にして、子どもに模倣させてはいけない」という池上氏【『サッカー批評』編集部】

 電話の声は低く、くぐもっていた。
「少年サッカーをなんとかしなくては、日本の未来はないですよ」

 日本の未来を担う少年サッカーは2011年、大きな転換期を迎えた。8人制を軸とした少人数制への移行を推進、頂点となる全日本少年サッカー大会もこのルールにのっとって行われた。決勝を見届けた関係者からは「見事なパスサッカーが展開された。日本サッカーの未来は明るい」と評価された。現場の指導者も胸を張って言った。
「この年代でこれだけ大人のサッカーができるということを、見てもらえたと思う」

 しかしながら、電話の声の主である池上正(京都サンガF.C.アドバイザー)は異なる見方をしていた。
「大人のサッカーとは日本の大人、Jリーグということでしょう? コーチの方は一生懸命やっているのにそこに水を差すようで申し訳ないけれど、皆さんが指導するモデルはJのサッカー。広島やセレッソなどトライしているチームはあるが完成されてはいない。多くが創造性豊かなサッカーをしていない。日本が将来的に世界のトップ10を目指すのなら、今現在の日本のサッカーを基準にして子どもに模倣させてはいけない」

 8人制へ転換した理由は、ボールに触れられる回数、シュート数が増えること、攻守の切り替えが速くなることが挙げられる。試合環境は以前から少人数制で育成してきた欧州などのサッカー先進国と同じものになった。

 だが、池上は苦言を呈す。
「わたしにはあまり変わっていないように映る。人数やピッチのサイズを変えても、指導の内容を変えなくてはその効果は生まれません」

 全少の試合は彼からすれば、個々が自分のポジションに縛られているように映った印象だった。例えば中盤やディフェンスの選手がチャンスと見て前に飛び出したりといったダイナミックな動きが見られなかった。要するに「面白い選手だな」とワクワクさせてくれるプレーヤ―は不在だったのだ。
「小学生年代にもっと自由に感じたままに動く習慣をつけなければ、クリエーティブな選手は出てこない。全員がゴールを狙うために迷わず前線に飛び出していく。そういったことを許す、認める感覚が指導者にほしい。自由に自分で考えさせる指導スタイルをもって、そういったチャレンジにもっと時間を使わせてあげるべき。その時間が後の成長につながるのだから。より大胆にピッチで動きまわるプレーヤーを育てなくてはいけない」

 池上は千葉県予選も視察しているが、準決勝では2試合ともパスがつながらずドリブルを多用するか、中盤を省略したロングキックに終始する場面がほとんどだったという。3本以上のパスがつながるのは、日本一になった柏レイソルのみだった。

 ハイレベルといわれる千葉県の4強でさえそういった状況なら、全国の地方大会はどうなのだろうか。ゴール前の攻防が増えるよう指導されているのか、選手が自分で考えてプレーできる環境なのだろうか。池上に言わせれば、その答えは残念ながら「ノー」である。

■指示命令や怒鳴り声ばかりの指導になってしまう現状

 元ジェフ千葉の育成コーチで当時のオシム監督から世界基準の指導を学んだ池上は、欧州や南米などの育成現場への視察経験も豊富だ。YMCAコーチ時代から30数年にわたって少年サッカーに寄り添ってきた指導歴をもとにつづった『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(08年・小学館)は7万部に迫るベストセラーとなった。11年秋に上梓したDVDブック『サッカーで子どもの力をひきだすオトナのおきて10』(カンゼン)を含めた3冊の本はすべて重版され、少年サッカーにかかわる指導者や保護者から大きな支持を得ている。

 書籍によって広まったその独自の指導法に感銘を受けた人々から講演や講習会の要請が次々と舞い込むようになり、全国各地を飛び回ってきた。そこで実際に耳にするのはこんな現場の声だ。
「試合に勝とうとするあまり、ロングボールを蹴って中盤を省略するサッカーになっている」
「子どもが主体と口では言いながら、指示命令や怒鳴り声ばかりの指導になってしまう」
 そんな反省の弁ならまだしも、「8人制で勝つ方法を教えてください」となりふり構わぬ質問を受けることさえある。「勝利はひとつの目標。でも、子どもにサッカーを教える目的ではありませんよね?」池上は大人たちにこう問いかける。

 すそ野の現状を知っているから真の課題が見える。だからこそ実感をもって警鐘を鳴らすのだ。「育成現場を変えなくてはいけない」と。

 さかのぼること5年前。池上は現場改革を試みたことがある。ジェフのスクール責任者として、こう提案した。
「育成のあり方を変えなくてはいけない。違うことをやろう」
 ホワイトボードの前で黒マジックを手にした池上は、育成スタッフに投げかけた。「日本の少年サッカーのダメなところを挙げてください」

・すぐに蹴る
・すぐに外に出す
・コーチの言われた通りのプレーしかしない
・創造性(クリエーティビティ)がない
・ドリブルしかしない
・パスをつなぐ意識がない
・顔が上がらない
・DFは大きく蹴るだけでフィードできない

 真っ白なホワイトボードは、みるみるうちに真っ黒な文字で埋め尽くされた。
「これは、今までやってきた育成方法ではダメだということですね。じゃあ、変えていこう」
 相手がいない状況でのクローズドスキルではなく、対人で変化に対応するオープンスキルなど実戦的なメニューを増やした。1対1ではなく、2対1の練習を追究した。「実戦的なメニューが少ない」「どうして日本人は数的優位のある練習をしないのかね」。トップチームのコーチやフロントと交わすオシム監督の言葉をつかみとり、育成に生かした。

 3年弱続けたトレーニング改革の結果は出ていたものの、トップが替わり育成にかかわっていたスタッフ11人が退団。池上もチームを後にした。

 <続く>


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