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西部謙司 スポーツナビ

「西部謙司の眼」 ナビスコカップ決勝
FC東京、耐えて勝つ(FC東京 0−0[PK4−2] 浦和)

2004年11月04日

F東京―浦和 延長後半、GK土肥らF東京DF陣の懸命の守りにシュートを阻まれる浦和・田中達=国立競技場
F東京―浦和 延長後半、GK土肥らF東京DF陣の懸命の守りにシュートを阻まれる浦和・田中達=国立競技場【 共同 】


■法を守るか、ゲームを守るか


「こんなにタイトルがうれしいもんだとは思わなかった」
 FC東京の原博実監督が、初タイトルの味を噛みしめるように言った。120分間を戦って0−0、PK戦による勝利だった。人気クラブ同士の決勝に、国立競技場は5万3236人の大入り。延長戦を前にこだました東京側のコーラス、林立する浦和サポーターの赤い旗、Jリーグが世界に誇れる美しいファイナルの風景があった。

「最高の舞台。浦和の良さを消すよりも、こちらの良さを出そう」
 試合前、原監督は選手たちを前にそう話したという。最初のシュートは浦和の三都主アレサンドロのFK、それまでの13分間はシュートがなかった。攻め合いのファイナルを予期させる対戦のわりにはむしろ、つぶし合いの立ち上がりだった。「浦和は接戦を経験していない。接戦に持ち込めば勝機はある」というのが、原監督の腹づもりだった。FW3人で点を取れてしまう浦和は、リスクを負って後方が攻撃に出る経験をあまりしていない。少なくとも前半を同点で折り返せば、浦和は後ろの選手が出てくる。出てくることでバランスが崩れる。それが原監督の分析だった。厳しくプレッシャーをかけてくる東京に対して、浦和は「最初の30分間が難しかった」(ブッフバルト監督)とリズムをつかみ損ねた。

 15分を過ぎてからは、徐々に両チームとも攻撃でいい形が出始めた。東京は戸田光洋が鋭いクロスを入れる。浦和はカウンターから最初の決定機を作ったが、三都主のシュートが枠を外れる。ボールポゼッションは東京、浦和はカウンター以外の場面ではFWの足が止まっていた。やや東京優位で迎えた29分、ジャーンがエメルソンのドリブルにファウル。早くも2枚目のイエローが出て退場になってしまった。立ち上がりから厳しくいくという作戦が、ある意味、裏目に出たともいえる。

 吉田寿光主審の判定は正しかったと思う。ただし、正しいことが良いことだったかどうか。このケースで、誰が「正しい」ことを期待していただろうか。ひょっとしたら、浦和のサポーターの中にもジャーンの退場を望まない人もいたのではないだろうか。攻撃的な決勝が期待できるカードで、しかも双方とも十分その気だった。立ち上がりこそ堅かったが、いよいよほぐれてきた時間帯。正直、2枚目のイエローは我慢してほしかった。注目を集める試合だからこそ、正しいジャッジの基準を示す機会だともいえる。それも理解できる。しかし、これは決勝なのだ。法を守るよりも、ゲームを守る方を優先してほしい場面だった。もちろん、それも場合によるのだが、このケースではジャーンを退場にしなくてもよかったのではないか。難しい注文かもしれないが、やはりこれは決勝なのだ。

 10人になった東京は三浦文丈に代えて藤山竜仁をピッチに送る。藤山はジャーンの抜けたセンターバックのポジションに入り、あとのポジションは基本的にスタート時のままとした。スタート時の4−2−3−1からボランチが1枚欠けた布陣である。「前の選手を削ったら、浦和が余計に攻め込んでくると思った」という原監督の交代策は悪くなかったようだ。東京は混乱を最小限に食い止め、0−0で前半を終了した。


■念願のタイトルを獲り、FC東京はどう変わっていくのか


 後半、ボールがタッチアウトしたスキに、ブッフバルト監督は永井雄一郎と山田暢久を呼び寄せた。トップ下に入っていた永井は右サイドに開き、右アウトサイドの山田は少し中へポジションを絞り込む。「東京の4バックをサイドへ寄せるため」(ブッフバルト監督)という作戦だった。東京のCKを防いだ浦和がカウンターに転じ、エメルソンが疾風のドリブルで2人を外して永井へパス、決定的な場面だったが得点に至らず。続いて、永井が単独ドリブルで右サイドを脅かす。右ウイングとなった永井のドリブルが利き始める。60分にはエメルソンが裏へ抜け、GK土肥洋一と1対1になったが大きく右へ外してしまう。その直後、久々に攻めに出た東京は左サイドから金沢浄が柔らかいパスで戸田を走らせ、ゴールラインまで食い込んだ戸田のクロスが浦和のゴール前を通過、ファーで石川直宏が合わせたが、GK山岸範宏が防ぐ。さらに、東京の左CKに対して飛び出した山岸がボールに触れず、茂庭照幸がフリーでシュートしたが、ゴールの中にいた田中達也がクリアした。

 浦和は攻撃に絡めない三都主に代えて、スピードのある平川忠亮を左サイドに入れ、打開を図る。平川は果敢なドリブルで左からチャンスを作り、最後はエメルソンのクロスから鈴木啓太が狙うもヘディングシュートはバーの上。この後も、浦和の決定機が続く。永井のクロスは東京DFの体を張った守備に阻まれ、アルパイの放ったヘディングシュートも、ゴールカバーに入った戸田にヘディングで掻き出された。最後は田中達也のヘディングシュートが右ポストに当たって90分間が終了、延長に突入した。

 延長に入っても展開は変わらない。浦和の圧倒的な攻勢が続く。しかし、東京の守備はスキを見せず、浦和はどうしても1点が奪えない。前半に1人少なくなった東京は、時間の経過とともに防戦一方となっていた。これは致し方ないところ。後半の半ばからは、東京が浦和の猛攻にどこまで耐えられるかだけが焦点だった。そして、東京は120分間をついに失点ゼロで乗り切った。

「東京の守備をたたえたい。攻めに攻めたが、どうしてもボールがゴールに入ってくれなかった」と、ブッフバルト監督。浦和のシュートは120分間で27本、1点も入らなかったのはツキに見放された感もある。ただし、東京の守備が見事だったのも間違いない。耐えてつかんだ初タイトルは、攻めダルマの東京らしくはないが、原監督が言うように「これまでほんのちょっとで越えられなかったところを、越えることができたのは今後の自信につながる」。力があったから勝てたわけだが、勝つと力を出しやすくなるのも確かである。念願のタイトルを手に入れ、ハクをつけた東京がどう変わっていくのか、今後に期待したい。

<この項、了>

■西部謙司/Kenji NISHIBE
1962年9月27日、東京生まれ。少年期を台東区入谷というサッカー不毛の地で過ごすが、小学校6年時にテレビでベッケンバウアーを見て感化される。以来、サッカー一筋26年、早稲田大学教育学部を卒業し、商事会社に就職するも3年で退社。サッカー専門誌の編集記者となる。95〜98年までフランスのパリに在住し、欧州サッカーを堪能。主な著作に『Eat foot おいしいサッカー生活』『スローフット なぜ人は、サッカーを愛するのか』(共に双葉社)、『サッカーがウマくなる!かもしれない本』『監督力』(共に出版芸術社)がある



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