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西部謙司

「西部謙司の眼」J1ファーストステージ第1節
横浜F・マリノス 1−1 浦和レッズ

変わった浦和、変わらぬ力で同点に

2004年3月15日

横浜M―浦和 後半13分、浦和・エメルソンが同点シュートを決める=横浜国際【共同】

■先制点をもたらした安貞桓の個人技


 快晴。5万1052人、ホームの青とアウエーの赤。Jリーグが開幕した。
 横浜国際総合競技場のカードは、昨季完全優勝を成し遂げた横浜F・マリノスと、大型補強を敢行し新監督ブッフバルトも迎えて話題性十分の浦和レッズ。いきなり優勝候補同士の対決となったわけだが、両チームともベストの状態とは言い難い。AFCチャンピオンズリーグとA3に参戦していた横浜はじっくりとチーム作りをする余裕がなかったし、浦和は浦和で、日本代表や五輪代表に選手を取られていた。開幕戦も、翌日に五輪予選を控えた田中達也、鈴木啓太、山瀬功治、闘莉王が欠場であった。

 横浜のフォーメーションは4−4−2。久保竜彦と安貞桓の強力2トップに、中盤をダイヤモンドにした形。中盤の底にはジェフ市原から加入した中西永輔が入り、右に遠藤彰弘、左に奥大介、2トップ下に清水範久。中西と2人のセンターバック(中澤佑二、松田直樹)の3人が中央でトライアングルを組むのは、昨季開幕で那須大亮を抜てきしたのと同じ形。今季開幕は、ベテランの中西が務めたが(那須は五輪代表で欠場)、もうこの形は横浜の守備戦術としてすっかり定着している。
 一方の浦和は、昨季とはフォーメーションも戦術も変わっていた。まず、フォーメーションは3−4−3を採用。昨季はカウンターアタックが主体だったが、今季は攻めに人数をかけるつもりのようだ。FWは左に新加入の三都主アレサンドロ、右に永井雄一郎、センターには昨季のJリーグMVP、エメルソン。

 前半は、三都主やエメルソンの個人技による浦和の攻め込みが目立ったが、決定的チャンスは横浜の方が多かった。中澤のロングパスを受けた安が、左サイドから真横に切り込みながら右足を一閃、ゴール左隅にミドルシュートを決めて先制。シュート自体はそれほど強力なものではなかったが、ゴールラインと平行にドリブルしながら右足で巻き込むように蹴って、近い方のサイドを狙ったので、GKとしては動きの逆を突かれる格好になった。安は、サイドから中へドリブルするときに、ゴールから遠ざかるような戻り気味のコース取りをすることもよくある。ゴールへ向かっていくコースではないので、DFは間合いを空けてしまうことが多い。そこで、安はすかさず速いスイングの、抑えの利いたシュートを打ち込んでくる。横浜の先制ゴールは、安の個人技がもたらしたものだった。


■スペースを得て生き返ったエメルソン


 後半、浦和の攻撃が変化した。三都主が前半よりも少しポジションを下げて、エメルソンと永井の2トップに近い形になっていた。3トップだった前半、エメルソンにはボールを受けられるスペースがなかったのだが、後半は三都主が引いたことで左サイドに大きなスペースが出来た。エメルソンは再三、その左のスペースに開いてパスを受け、得意のドリブルを仕掛けていった。前半は大人しかったエメルソンが本来のリズムを取り戻すと、浦和の攻撃は一気に迫力が増していく。右サイドの三都主のスローインを横浜DFがクリアし損ねたところを、ゴール前にいたエメルソンが決めて1−1に追いついた。浮き球を素早くコントロールしてボレーで決めたエメルソンの巧技が光った。

 安とエメルソン、両エースのゴールで1−1。横浜、浦和ともチャンスは作ったが決め切れず、そのまま引き分け。万全とは言い難い両チームだったが、活発に攻め合っていいゲームを見せてくれた。新機軸を打ち出した浦和は、エメルソンが活躍した後半の方が出来がよかった。しかし、浦和が新しかったのは前半で、後半の浦和はむしろ昨季までのカウンター中心の戦法に近い。新しい方はまだこなれていないし、メンバーもそろっていないからこれからなのだろう。ただ、やはりエメルソンはスペースを持った方が怖い選手だ。彼を生かすなら、やはり後半のようにスペースを空けたほうがよさそう。大量補強した浦和が、これからどう変わっていくかは興味深い。

<この項、了>

■西部謙司(にしべ けんじ)
1962年9月27日、東京生まれ。少年期を台東区入谷というサッカー不毛の地で過ごすが、小学校6年時にテレビでベッケンバウアーを見て感化される。以来、サッカー一筋26年、早稲田大学教育学部を卒業し、商事会社に就職するも3年で退社。サッカー専門誌の編集記者となる。95〜98年までフランスのパリに在住し、欧州サッカーを堪能。主な著作に『Eat foot おいしいサッカー生活』(双葉社)、『サッカーがウマくなる!かもしれない本』(出版芸術社)、『スローフット なぜ人は、サッカーを愛するのか』(双葉社)がある


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