コラム
宇都宮徹壱
スポーツナビ

フットボール・ファミリーの底力が試される時 (2/2)
東日本大震災に寄せて

2011年3月14日(月)

■Jリーグはいつ再開されるのか? そして代表戦は?

Jリーグ再開の見通しはまだ立っていないが、スポーツが人々から必要とされる日はきっと来る
Jリーグ再開の見通しはまだ立っていないが、スポーツが人々から必要とされる日はきっと来る【写真は共同】

 果たして、この状況はいつまで続くのだろうか。現時点での情報から判断すると、原状復帰は想像以上に厳しそうである。今回の大震災が、阪神大震災や新潟県中越地震と大きく異なるのは、被災地が広範囲にわたることだ。震源域は500キロ×200キロにも及んだため、北関東から東北全域にかけて競技施設に被害が出ており、交通インフラも寸断されたままである。すでにAFC(アジアサッカー連盟)は、16日に行われるACL(アジアチャンピオンズリーグ)の名古屋グランパスと鹿島のホームゲームの中止を発表。このうち、鹿島の競技施設については、コンクリート部分の亀裂や天井からの落下物などが見つかり、観客の安全が確保できるまで、試合の開催にはしばらく時間がかかりそうな状況だ。

 仮に、被害のなかった会場で開催しようにも、仙台や鹿島にずっとアウエー戦を強いるわけにもいくまい。また電力不足が懸念される中、キックオフが16時以降となる試合は自粛せざるを得なくなるだろう。今後、Jリーグがどのような判断を下すかを見守るしかないが、リーグ再開の見通しが立たないとなると、ただでさえタイトな日程がさらに厳しくなってしまうのは必至。当然、日本代表の日程にも影響は出てくることが予想される(一部報道では、コパ・アメリカ=南米選手権=への出場辞退の可能性が報じられていた)。代表戦に関して言えば、今月25日(対モンテネグロ戦@静岡・エコパ)と29日(対ニュージーランド戦@東京・国立)が、当初の予定どおり開催される意向であることが13日にアナウンスされた。もっとも、Jリーグ再開の見通しが立たないことに加え、ザッケローニ監督もイタリアに一時帰国しており、ぶっつけ本番の試合になることは間違いないだろう。

■やがてサッカーのみならず、さまざまなスポーツが必要とされる

 さて、私は今、東京都内の自宅でこの原稿を書いている。つけっぱなしのテレビは、刻々と変化する各地の被害状況が伝えられ、ツイッターのタイムライン上では、励ましの声や善意によるデマのリツイートや安否を尋ねる悲痛な叫びが濁流のように流れている。もし、このままテレビもネットも遮断すれば、未曾有(みぞう)の危機を自覚せずに、いつもの日常生活を満喫できるだろう。そんなことを考えていた時に、東京電力が14日から地域ごとに順番に送電を止める「計画停電」を実施すると発表した。私が暮らす地域は、午前9時20分から午後1時まで、そして午後6時20分から午後10時まで、最大で計6時間も電気が止まるらしい(編集部注:14日午前になり、需要が想定を下回ったとして午前中の停電は見送られている)。一瞬、「非常時」の文字が脳裏をよぎる。

 もちろん、被災地で不安な夜を過ごす皆さんのことを思えば、「非常時」という表現は大げさに過ぎるのかもしれない。それでも東電が計画停電を実施するのは、1951年の創業以来、これが初めてというではないか。その意味で「非常時」という言葉は、決して不謹慎ではないと思う。現時点での報道によれば、計画停電は4月いっぱいまで続く可能性もあるという。こうなるとJリーグの再開は、当初思っていた以上に後ろにずれ込むかもしれないし、今月の代表戦開催さえも危うくなるかもしれない。2試合とも、ウイークデーのナイトゲーム。エコパでのモンテネグロ戦はともかく、国立でのニュージーランド戦については「そんなに電力をかけて、本当に開催する意義があるのか」という批判を受けることは大いにあり得る話だ(とはいえ、両国とも震災を経験したばかりであり、開催する意義は十分にあると個人的には考える。会場の変更は必要かもしれないが)。

 いずれにせよ、今回の大惨事によって、日本(人)のポテンシャルが試されていることは、誰もが認めるところであろう。と同時に、フットボール・ファミリーの力もまた、試されているのだと思う。われわれは「サッカーばか」を自称しながらも、一方で「世の中にはサッカーよりも大切なものがある」という現実は、それなりにわきまえている。まず優先されるべきは、生還すること。そして、生存すること、生活すること。しかし一方で「スポーツどころではない」「サッカーどころではない」「Jリーグどころではない」という状況が、いつまでも持続できるものではないことも、私たちは知っている。普段どおりに生活を営むためには、やはり娯楽は必要であり、そこには間違いなくサッカー観戦も含まれる。被災地での救援活動がひと段落すれば、やがてサッカーのみならず、さまざまなスポーツが人々から必要とされることだろう。

 われわれフットボール・ファミリーが、果敢なカウンターアタックを開始するタイミングは、まさに「その時」なのである。すでに各クラブのサポーター有志が、ネット上で「Jリーグサポーターにできること」というプロジェクトを立ち上げ、党派を超えて大同団結しつつある。各チームの選手たちも、いつリーグが再開してもベストコンディションで臨めるよう、地道なトレーニングに汗を流しているはずだ。われわれ伝える側の人間も、来るべき反攻の時に備えて何ができるのか、各自が模索すべきである。世界中のフットボール・ファミリーからの励ましは、すでに十分すぎるくらい受け取った。今度は私たちの番だ。今まさに、フットボール・ファミリーの底力が試されようとしている。

<了>

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宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でもコラム&写真を掲載中。また、有料メールマガジン「徹マガ」(http://tetsumaga.sub.jp/tetsumaga_official/)も配信中
「徹壱の部屋」宇都宮徹壱オフィシャルWEBサイト

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