コラム 浦和レッズ
島崎英純
スポーツナビ

吉か凶か、浦和の「柏木+山田直+阿部」プラン (2/2)
発動された4−1−2−3システム

2010年7月16日(金)

■フィンケ監督志向の4−1−2−3へ

一度もテストできなかった阿部のアンカーは果たして機能するか
一度もテストできなかった阿部のアンカーは果たして機能するか【Getty Images】

 一方でフィンケ監督は、“連動”の徹底をキャンプの主目的に置く中、新たなスタイルへのチャレンジも模索していた。それはリーグ前半戦で採用していた4−2−3−1から4−3−3、詳細に記すと4−1−2−3へのシステム変更である。
 4−1−2−3への移行には、ある思惑があった。それは負傷による約6カ月のリハビリから復帰した山田直と今季新加入・柏木の共存である。
 ある選手が事の次第を明かしてくれた。
「実は、フィンケ監督が浦和の監督に就任する前の2008年末の契約更改で、クラブ側からこう言われていた。『今度の監督は4−1−2−3を志向する監督なので、そのシステムにマッチした選手を起用することになるはずだ』と」

 フィンケ監督は以前から“バルセロナスタイル”と呼称される4−1−2−3への造詣が深かった。だが、彼が浦和の監督に就任した当初はそのシステムの幹を成す4−1−2−3の「2」に当たる選手の人材がそろわず、これまでは4−2−3−1、もしくは4−4−2をチームの主戦に取り入れていた。しかし就任2年目のシーズンを迎えるにあたり、フィンケ監督は選手補強の面でクラブ側に意向を反映させ、柏木という重要なプレーヤーをその手中に収めた。
 実はフィンケ監督は柏木以外にも香川真司(セレッソ大阪→ドルトムント/ドイツ)の獲得も熱望していたようだが、これは叶わず。しかし、これで柏木、そしてかねてから「チームの至宝」と自らが公言してはばからない山田直を「2」の部分に据えるプランが現実のものになった。残念ながら年始に山田直が負傷してしまったため、その実現には時間を要した。しかし山田直が復帰した今、そして都合良くW杯開催で約2カ月の中断期間が与えられた中、フィンケ監督は自らの理想を敢然と標ぼうしたのだろう。

 しかし、このシステムは現在のところ、瓦解の危機に瀕している。オーストリアで実施されたトレーニングマッチの中で、ほぼベストメンバーと言える人材で臨んだシュトルム・グラーツ戦は0−2の完敗を喫した。チーム全体の距離が著しく間延びし、選手個々の攻守の役割が分断されたのだ。システムが機能しなかった要因をいくつか挙げるならば、アンカーの機能不全、バックラインの押し上げ不足、3トップの攻撃傾倒、そしてトップ下の攻守負荷増大などだろうか。
 チームの共通理解である『ピッチに立つ11人全員が等しく攻守の責任を負う』約束事は、システムの数字の配列を変えただけで無残に消え去ってしまったのである。

■キープレーヤーはやはり阿部か

 その後、オーストリアキャンプから日本へ帰国して臨んだJ2のザスパ草津とのプレシーズンマッチでも、浦和は1−3の惨敗を喫した。このゲームでも4−1−2−3を採用し、そして結果を残せなかったのだ。
 しかし、チームにはまだ希望が残されていた。それは、このシステムを試行している最中に1人チームを離脱していた者。そう、南アフリカの地で日本代表のアンカーを務めた阿部がまだ、このシステムでプレーしていないことである。

 Jリーグ再開前、最後のテストマッチとなった韓国Kリーグ・水原三星とのプレシーズンマッチの遠征メンバーには阿部の名前があった。阿部は日本代表解散後、7月8日まで休養を取り、9日に浦和の練習に復帰したばかりだったが、11日のアウエー戦にさっそく帯同した。そこでフィンケ監督は阿部を4−1−2−3のアンカーで起用し、最後のテストを行いたかったに違いない。
 だが、ここでまたアクシデントが起きる。トップ下の柏木が現地で風邪を引いてしまい欠場を余儀なくされたのだ。そこで指揮官はやむなく柏木に代えて守備的MFの細貝萌をスタメンに抜てきする。そしてフィンケ監督は細貝に「4−1−2−3でも4−2−3−1でもない。“1”か“2”ではなく4−3−3。あくまでも中盤中央は3人で構成するという意識で臨め」という指示を送り、その試合を0−0のドローで終えた。

 しかし試合は、阿部、細貝、そして山田直で構成された3人の中盤は限りなくダブルボランチ+トップ下、すなわちリーグ前半戦の戦いぶりと同様のスタイルに見えた。細貝は攻撃面でも多大なる貢献を果たすマルチなMFだが、主戦場はやはり中盤の底になり、そこからの機を見た攻撃参加に才がある。そしてそれは阿部も同様だ。一方、山田直や柏木は守備面への注力もする献身的なMFだが、輝けるスペースはできるだけ相手陣内の奥深い場所にある。それだけに、人選次第で浦和のシステムには変化が生じる。

 そして阿部を一度もワンボランチ、すなわちアンカーでテストできなかったのは痛い。阿部は日本代表で実に迅速かつ効果的に4−1−2−3(日本代表では4−1−4−1と表記)のアンカーを務めたが、そのプレーを浦和のピッチでも同様に発揮できる保証は今のところない。もしリーグ中断明け初戦の第13節・ガンバ大阪戦で阿部を中盤の底に1人据える新システムを採用するのならば、それは確実にギャンブルとなる。
 バルセロナのシャビ・エルナンデスとアンドレス・イニエスタのようにダブルトップ下が相手バイタルエリアで躍動し、アンカーのセルジ・ブスケツのように中盤の底で攻撃陣を支えるような流麗なコンビネーションは、今のところ浦和では一向に発動されていないのだから。

 サッカーにおけるシステム、数字の羅列は不毛だと唱える者は多い。しかし実際には観る者だけでなく、プレーする者も机上の数字に左右されている。これは厳然たる事実だ。特に現状の浦和のように、個人の力量によるのではなく組織を基盤に個人を生かす手法を採るチームは、その影響が甚大だ。
 浦和に所属する大半の選手は現状のチームスタイルを好意的にとらえている。だからこそ、彼らの悲痛な叫びも心に響く。柏木の弁。
「僕と直輝は1人では状況を打開できないタイプ。僕や直輝は技術はそれなりかもしれないけど、チームメートを生かし、自らも生かされないと輝けない。だからチームとしてのスタイルが確立されていて一致団結していないと駄目なんです。チームがバラバラになってしまったら、僕らはこのチームにいても意味がないとすら思う」

 オーストリアキャンプで徹底した“連動”が、1つのシステム変更で瓦解してしまうジレンマをどう払しょくするか。どのシステムを採用するかによって才能ある選手がベンチに置かれる危険性もはらむ今、指揮官の決断に注目が集まる。

<了>

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■関連リンク
『浦和再生 レッズスタイルの行方』 (2010/7/16)

島崎英純

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。『月刊浦和レッズマガジン』(朝日新聞出版)編集長。近著に『浦和再生』(講談社刊)。有料ウェブマガジン『浦研プラス』では、浦和OBの福田正博氏とともにコラムを執筆中。また、個人メールマガジン『浦研』(http://shimazaki-hidezumi.jp/mailmagazine/pc/)も配信中
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