全社「大盛況」の陰に (2/2)
第45回全国社会人サッカー選手権大会リポート
■必然だった(?)北信越の躍進
大会4日目の20日、全社は準決勝に突入した。今回の「全社枠」は、基本的に「2」。つまり準決勝の勝者が、そのまま地域決勝へのチケットを手にすることができる。ここまで3連勝してベスト4入りを果たしたのは、松本、長野、金沢、そしてtonan前橋。何と、前橋を除く3チームは、いずれも北信越リーグ所属だ。しかも3チームとも、北信越から将来のJリーグ入りを目指しているのである。これだけ北信越のチームが上位を占めたのは、ある意味「必然だった」と言えるだろう。
ここ数年、地域決勝を突破してJFLへ、さらにはJ2に昇格したチームを取材する機会に恵まれた。06年のFC岐阜(08年からJ2)、07年のファジアーノ岡山(09年からJ2)とニューウェーブ北九州(現在JFL)、08年の町田ゼルビアとV・ファーレン長崎(いずれも現在JFL)。これら突出して強いチームが「卒業」したことで、それぞれの地域にはある種の「平穏」が戻ったわけだが、唯一の例外が北信越であった。ここのリーグだけは、今でもJFL昇格を懸けた熱く厳しい戦いが繰り広げられ、上を目指すチームと目指さないチームとの戦力的格差は壮絶なものがある。
実は北信越には、前出の3チームのほかに、JAPANサッカーカレッジ(JSC)という、アルビレックス新潟の実質的なセカンドチームも名を連ねている。今季はJSCがリーグを制して、地域決勝への出場権を獲得。以下の順位は、2位長野、3位金沢、4位松本となった。天皇杯で浦和に劇的なアップセットを演じた松本でさえ、この北信越では4位に甘んじているのだ。加えて、このリーグから地域決勝への出場枠は、わずかに「1」。そのため、2位以下のJを目指すチームは、全社にすべてを懸けるしかないのである。地域リーグファンの間でささやかれている「地獄の北信越」という表現は、決して過剰なものではないことは、十分にご理解いただけると思う。
700人の観衆が注目する中、11時にキックオフされた長野対松本の「信州ダービー」は、開始わずか1分にエースの柿本倫明のゴールで松本が先制。23分には、ゴール前の混戦から小林陽介がこぼれ球を押し込んで追加点を挙げる。対する長野も39分に1点を返すが、後半6分に小林のラストパスを受けた木村勝太がゴール左隅に流し込んで、松本が再び突き放す。結局、松本が3−1でライバルを下して決勝進出。と同時に、3大会連続となる地域決勝進出を果たした。
さて、敗れた長野を指揮していたバドゥ・ビエイラ監督は、日本代表が初のワールドカップ出場を決めた「ジョホールバルの奇跡」において、対戦相手のイラン代表を率いていたことで知られる。これほど国際経験豊かな指導者がいるのも(そして地域決勝に出場できないのも)「地獄の北信越」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。そんなバドゥ監督に来季のことを尋ねると「もっといいコーチを招へいして(松本の)柿本のような素晴らしい選手が入れば、チームはさらに強くなると思う。もっとも、われわれにそんな金はないが」と肩をすくめた。来季、引き続き長野がJを目指すかどうか、現時点では不透明である。
■ターンオーバーの松本とベストメンバーの金沢
全社最終日の21日。この日は、長野と前橋(準決勝で金沢に1−4で敗れた)との3位決定戦、そして松本と金沢の決勝戦が行われることになっていた。すでに地域決勝に進出するのは、松本と金沢に決まっている。加えて4日間の連戦だ。いくら40分ハーフとはいえ(全社ではローカルルールで40分ハーフ、延長戦は10分ハーフで行われる)、選手たちの疲労はピークに達しているはず。となると、3位決定戦にしろ決勝にしろ、互いに集中力を欠いた「消化試合」に終わる可能性は十分に考えられた。しかし予想に反して、この日の2試合はいずれも見ごたえのあるものとなった。
3位決定戦は、関東2部所属の前橋が、戦力で優位に立つ長野の猛攻を耐えしのび、延長戦にもつれ込んで逆転に成功(2−1)。チームの中心で元U−20代表の氏家英行を温存しての3位入賞は、立派の一言に尽きると言えよう。大会初となる北信越同士の決勝もまた、スリリングな展開の末に2−1で松本が金沢に競り勝ち、うれしい初優勝を果たした。試合後の両監督のコメントを聞く限り、松本と金沢がいずれも本気で初タイトルを狙っていたのは間違いない。ただし、今大会へのアプローチが対照的であったのは、極めて興味深い。すなわち、松本は選手を毎試合入れ替えていたのに対し、金沢はほとんどメンバー固定で、このハードなトーナメントを乗り切ろうとしていた。
「誰が出ても、見事にやり切ってくれた。チーム一丸となって(地域決勝出場権を)勝ち取ってくれた」(松本・吉澤英生監督)
「とにかく一試合、一試合が重要だったので、ずっと固定メンバーで戦った。普段、厳しい練習をしていたので、足をつる選手もいなかった」(金沢・上野監督)
どちらのアプローチが正しかったかを、一概に断定することは難しい。ターンオーバーを敷いた松本は、準々決勝で日立栃木UVAにPK戦まで持ち込まれた。ベストメンバーを貫いた金沢も、2回戦の札大GPと準々決勝の讃岐に苦戦を強いられている。結局のところ、ターンオーバーであれベストメンバーであれ、接戦を制するだけの勝負強さと、絶対に地域決勝に出場するんだという不撓不屈(ふとうふくつ)の精神を貫徹したチームが、ファイナルまで勝ち上がることができた――そう考えるしかなさそうだ。それくらい、全社という大会は過酷であった、ということである。
試合後の表彰式。ひとりひとりの選手にメダルを授与していた市原市長が「来年、また会いましょう!」と声をかけると、ある選手が苦笑して「もう結構です」と答えていたのが印象的だった。おそらく市長が「来年の国体で」というつもりだったのに対し、選手は「来年の全社で」と受け取ったのだろう。全社を勝ち抜く厳しさと、大会を無事に乗り切った解放感は、経験した人間にしか分からない。とりあえず、地域決勝の出場権を獲得した松本と金沢には、心から「おめでとう」と申し上げておこう。とはいえ、今は歓喜に沸く彼らとて、ようやくスタートラインに立っただけの話である。地域決勝が開幕するのは、来月21日から。JFL昇格に向けた本当の戦いは、まさにこれから始まる。
<了>
宇都宮徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でもコラム&写真を掲載中。また、有料メールマガジン「徹マガ」(http://tetsumaga.sub.jp/tetsumaga_official/)も配信中
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