全社「大盛況」の陰に (1/2)
第45回全国社会人サッカー選手権大会リポート
■平日の午前に700人! 全社とはどんな大会か?
大会公式記録によれば、その試合の観客数は「700人」となっていた。確かに、日本サッカー協会主催の公式戦にしては、いささか寂しい数字ではある。が、その前にまず、この試合がどのような状況で行われたかについて確認しておく必要があるだろう。
全社(全国社会人サッカー選手権大会)準決勝、AC長野パルセイロ対松本山雅FC。「信州ダービー」として知られるこのカードは、10月20日の午前11時にキックオフされた。20日は火曜日。つまり平日の午前中である。しかも会場は、千葉県の市原臨海競技場。最寄駅のJR五井駅は、東京駅から1時間かかり、そこからさらに徒歩で1時間弱というアクセスの悪さである(JリーグやJFL開催時にはシャトルバスが出るが、全社期間中はタクシーかレンタル自転車を利用するしかなかった)。いくら入場料が無料とはいえ、そしてこのところ注目を集めている松本の試合とはいえ(彼らは天皇杯2回戦で浦和レッズを2−0で破っている)、平日の午前中に市原臨海で行われる地域リーグ同士の試合が700人の「大盛況」となるのは、どう考えても尋常ではない。
あらためて、全社という大会について説明しておこう。
全社とは、もともと2つの主旨を持つ大会である。主旨その1は、その名の通り「全国社会人サッカー連盟チームの頂点を決める大会」(大会パンフレットより)。9地域の予選を勝ち抜いた31チームに、開催都道府県の1チーム、計32チームのトーナメントによって、社会人チームのチャンピオンを決するわけである。
主旨その2は、国体(国民体育大会)のリハーサル。実際、今大会のパンフレットには「ゆめ半島千葉国体サッカー競技リハーサル大会」と併記されており、来年に千葉県で行われる千葉国体の運営面のシミュレーションという重要な目的も担っている。ちなみに千葉国体では、サッカー競技はすべて市原市で行われることになっており、この全社でも市原臨海以外に、姉崎サッカー場、市原スポレクパークなどが試合会場となっている。
もちろん上記の主旨だけでは、これだけ大会が注目されることはなかっただろう。実は3年前の第42回大会から、全社には第3の主旨が加わることとなった。それは全国地域リーグ決勝大会(地域決勝)の出場権が得られる、いわゆる「全社枠」の導入である。
地域決勝は、地域リーグ所属チームがJFLに昇格するためにクリアしなければならない大会だが、各地域リーグで優勝、もしくはそれに準じる成績を収めなければ出場権が得られない。その「救済策」として、にわかに注目を集めるようになったのが全社だった。そして今大会、この「全社枠」を獲得すべく、切羽詰まった「上を目指す」チームが、千葉に集結することとなった。それまで純粋な「アマチュアのための大会」だった全社は、気が付けば「全社枠」をめぐる殺伐とした大会へと変ぼうしていたわけである。
■およそ4部とは思えぬ指導者と選手たち
「全社枠」の重要性については、くどくど説明するよりも、実際の試合を見たほうが話は早い。早速、大会3日目の準々決勝の試合をのぞいてみることにしたい。ちなみにこの全社、10月17日から21日まで5日間ぶっ通しで行われる、日本で最も過酷なトーナメントである。この日の注目カードは、市原スポレクパークで行われた、カマタマーレ讃岐対ツエーゲン金沢。両チームとも将来のJリーグ入りを目指しており、しかも現時点で地域決勝への出場権を獲得していない。ゆえに、どちらにとっても、絶対に負けられない試合。メンバー表を見ると、両チームの「本気度」がひしひしと伝わってくる。
まず、それぞれの指揮官。讃岐の羽中田昌監督は、バルセロナ留学経験のある理論派指導者として、つとに有名だ。一方、金沢の上野展裕監督は、サンフレッチェ広島と京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)でのコーチ経験を持ち、特に育成には定評がある。両監督に共通しているのは、いずれもJリーグでチームを率いるのに必要なS級ライセンスをすでに取得していることだ。地域リーグでのS級指導者は、かつては稀有(けう)な存在であったが、今ではすっかり状況が一変してしまった。
チームの「本気度」は、もちろん選手についても言える。何と、讃岐には元Jリーガーが3人(サブ4人)、金沢には7人(サブ2人)もいるではないか。
とりわけ金沢については、その豪華さに思わず目を奪われる。GKに木寺浩一(元広島)、DFに根本裕一(元ジェフ千葉)、FWに古部健太(横浜F・マリノスから期限付き移籍)と各ポジションにJ1経験者をそろえ、しかもビジュ(元水戸ホーリーホック)を含めて3人のブラジル人選手も擁するという、およそ4部のクラブとは思えぬ名前が並ぶ。だが、讃岐にしても金沢にしても、これほど指導者と選手が充実しているにもかかわわらず、前者は四国リーグ2位、後者は北信越リーグ3位という成績に終わり、ストレートで地域決勝に進むことができなかったのである。今さらながらに、地域リーグからJFLに昇格する厳しさを痛感せずにはいられない。
センターバックからしっかりビルドアップして、テンポよいパスサッカーを展開する讃岐。サイドの崩しから、ピンポイントでゴールを狙う金沢。対象的な両者の対戦は、前半0−0、後半1−2で金沢の勝利に終わった。讃岐の見事なパスサッカーは、個人的にはかねてより好感を抱いていたものの、こうしたテンションの高い一発勝負では、金沢のような力でねじ伏せるようなサッカーの方が、より現実的だったのかもしれない。
試合後、羽中田監督は「内容では悲観していません。相手より上回っていたと思います」としながらも「でも、やっぱり勝たないとね」とポツリ。もう1年、今のサッカーを積み上げていけば、讃岐は質の高いパスサッカーを維持しながら、接戦にも勝ち切れるチームに成長しそうな気がする。だが、羽中田監督とクラブとの契約は今季まで。今後のチーム運営は不透明なまま、讃岐は早々にシーズンを終えることとなった。





