コラム
後藤勝
スポーツナビ

石川直宏、プロ10年目の覚醒 (2/2)
ゴール量産を支える“積み上げの美学”

2009年7月3日(金)

■周囲と連動するプレースタイルの変化

自身のプレーが周囲とかみ合って好結果を残しているのが今季の石川だ
自身のプレーが周囲とかみ合って好結果を残しているのが今季の石川だ【Photo:徳原隆元/アフロ】

 4年前。『サッカー批評』という雑誌で、タッチライン際を駆け抜ける右ウインガー像華やかりしころの石川にインタビューしたことがある。そのとき「将来スピードが衰えてきたら、プレーをどう変えていくのか」という質問をすると、彼は「もともと中(中盤)をやっていたし、中でプレーできるようになりたい」と答えた。
 一見、変ぼうした現在のプレースタイルを予言した談話のように思えるが、厳密にはかなり違う。4年前に想像していたのは「中盤にゆっくりとい続ける。どっしり構える」(本人談)MF像だった。

 しかし今、彼がFC東京で実践しているのは、瞬時にプレーエリアを切り替えるうちの1カ所として「中」を選択するという行為だ。たとえば、右からスタートして左の羽生直剛とポジションチェンジを行い、そのままの流れで中央に進路をとってシュートする、というような──。組織的に連動したムービングフットボールを掲げるのであれば、どっしりと構えてはいられない。
「中盤に顔を出す」「中盤を横切る」「二列目から前に飛び出す」――そういう印象になっているはずだ。

「今は1回、中に入って、そこから離れていく。通過点ですね」
 第9節大宮アルディージャ戦(5月2日、3−2)の2点目は、羽生のスルーパスに抜け出し、グラウンダーで決めた。まるで飛び出し型FWのような芸当。あれは周囲と連動したプレーができている証しとなるゴールだった。
 城福監督も触れていたが、これまでの石川は外のエリアを基本ポジションとし、ゴールから遠い位置でプレーしていた。いきおい連係が取りづらく、力の限りゴリゴリと突き進むだけになってしまっていた。このままでは、スピードが衰えてきたときに厳しい。そう考えた石川は、瞬間、瞬間で周囲とタイミングを合わせるよう、自分の動きを「計測」しながらプレーするようになった。

■「海外サッカーのような」イマジネーション

 09年版「城福トーキョー」の戦い方をごくザックリと表現するなら、両サイドバックと中盤から前の8人が、ぐるぐるとポジションを替えながらパスを回し、決定機に居合わせた選手がフィニッシャーとして責任を持ってシュートする、ということになる。この円環(パス&ゴーの繰り返し)に参加している限り、一定の割合でシュートチャンスが巡ってくる。

 中盤である石川が前に押し出され、シュートを撃てる背景には、この戦い方も大きく影響している。さらには、FWの平山相太がポストとなってつぶれてくれるお陰で、石川が前を向いてシュートできるという一面もある。

「前の選手が辛抱強くやってくれるんです。相太、(赤嶺)真吾、(近藤)祐介……。相太の仕事には、ホントに助かっています。前に起点ができるおかげで、ぼくらが前に行ける。FWだからゴールに近い位置でプレーしたいはずなのに(ポスト役をこなしてくれる)。守備もやってくれるし。FWは大変だと思います」

 石川のゴール量産は、FWが得点をガマンする代わりにMFが点を取るという、役割分担の結果だともいえる。自らの得点数こそ少ないが、平山は平山で、己のストロングポイントをしっかりと表現しているのである。そうした個々の特徴が組み合わさり、ゴールが生まれているのだ。チームメートの協力なくして現在の躍進はなかっただろう。

 もうひとつ、スピードを加減して状況を把握する余裕を作った効果で、ゴールのバリエーションが豊富になったのも大きな変化だ。ウインガー時代の石川のシュートは、パターン化されていて読みやすかった。右サイドから中央に切れ込んで左足で打つ。あるいは左サイドのウイングから上がってきたボールにファーで合わせる。
 だが現在の石川は、見ている側が予測不可能な驚嘆もののゴールばかりを決める。

「ジェフ戦のゴールが今季1点目でしたよね? あれで何かがつかめた。あそこから何かが変わった気がします」

 第6節千葉戦や第9節大宮戦の1点目のような、個人技を生かしたゴール。大宮戦3点目のハーフボレーや、第15節清水戦の右足アウト弾と、まるで変幻自在。石川は「海外サッカーのような」と表現するが、まさにマラドーナやメッシのごときイマジネーションの豊かさが感じられる。
「ここで撃とうというイメージがわいてくるんです」

■28歳でのブレークスルーと、その先にあるもの

 いったい石川ののびしろは、どこまであるのか? コツコツと課題を克服し、力を積み上げ、地力(本人は「ベース」という言葉を使った)を増し、臨界点を突破して、プロ10年目にしてようやく成長が人目につくようになった。遅咲きといえば遅咲き。だが遠藤保仁(G大阪)の例もある。ブレークスルーの訪れが28歳というのは悪くない。あと4〜5年やれるのなら、2014年のワールドカップにも間に合う。

 もっとも、代表、代表と騒ぐ周囲に対し、本人は「代表選考については意識から外している。代表に選ばれなかったからといって、手を抜くこともない。まずはチームのために積み上げていく」と冷静だ。
 そう、いまの石川は冷静で、ものすごく安定している。ゲームを掌握しながらプレーしている。飛び道具的なウインガーではなく、ゲームの中心にいるべき選手へと変ぼうしつつある。

「昔は何点かゴールを決めても“まあ、このくらいかな”という感想にとどまっていた。でも、今は違います。10年目にして、ようやく感覚がつかめてきた。欲がどんどん出てくるし、先へ先へと進みたい。カズさん(三浦知良=横浜FC)がずっと現役でいる気持ちが分かるんです」

 石川がシュートする瞬間、その動作にためらいはまったく感じられない。足を振り抜けば振り抜いただけ、ゴールに吸い込まれていく予感がする。近年、これだけ得点に対する余裕と自信を漂わせる選手がいただろうか。
 かつてのキング・カズがそうであったように、今の石川には毎試合、得点の期待がかかっている。だがそのプレッシャーすら糧として、さらなるゴールを生み出しそうな気配がある。この男、かつて到達し得なかった高みへと、日本サッカーを誘(いざな)うのかもしれない。

<了>

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後藤勝

東京都出身のフリーライター。FC東京を中心に国内サッカーを取材。下部カテゴリーでは東京ベイFCを中心に東京フットボールシーンを注視。取材対象者を歴史や背景から丹念に描き出す筆力に定評がある。著書に『トーキョー ワッショイ!―FC東京99‐04REPLAY─』(双葉社)。現在、書籍を準備中。メールマガジン『トーキョーワッショイ!MM』を配信中。【Twitter】@TokyoWasshoi
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