浦和に見えてきたフィンケ改革の成果 (1/2)
■若手選手が素早くフィンケ監督のスタイルに順応
昨季はJリーグ7位に低迷。AFCチャンピオンズリーグでは準決勝でガンバ大阪に敗れ(2試合合計2−4)、ナビスコカップ、天皇杯では早期敗退を喫した。2003年シーズン以来の無冠に終わった浦和レッズは今季、ゲルト・エンゲルス監督に代わってフォルカー・フィンケ監督が新たに指揮を執り、リスタートを切った。
フィンケ監督はリーグ第4節・大分トリニータ戦後の記者会見で、こう述べている。
「新聞紙上などでは今季のレッズには新しいチームが存在していると書かれているが、これは事実ではありません。皆さんご存じのとおり、ピッチに立っている選手は昨年と比べて大きく入れ替わったわけでもありません。もちろん、永井(雄一郎、清水エスパルスへ移籍)、そして相馬(崇人、ポルトガルのマリティモへ移籍)と、2人の選手がチームを離れたわけですが、大きく主力選手が入れ替わった、もしくはたくさんの選手を獲得したというわけではありません。ですので、『新しいチーム』という表現は間違っていると思います。ここで誤解が起きないように皆さんにお伝えしておきたいのですが、わたしは根本的に去年と同じ選手でこのシーズンに入って、今を戦っていると思っています」
監督の言葉通り、ここまでの6試合(カップ戦を含む)で先発出場を果たしたメンバーの大半は昨季の主力メンバーである。そして彼らのパフォーマンスの向上が、指揮官が目指すサッカーの成熟のためのキーワードになることは確かだ。
一方で開幕前のキャンプなどでトレーニングを繰り返し、練習試合を消化していた過程で、如実(にょじつ)に表面化した現象がある。それはパスをつなぐ新しいスタイルへの各選手の順応度の差異である。概して若手選手たちの吸収力が目覚ましいのに対して、中堅・ベテラン選手のそれが鈍重だった点は見逃せない。
卓越したスキルとフィジカルを備えた選手を擁し、個人能力の高さを武器にリーグを席巻したかつての浦和。しかし特定個人への依存は次第に手詰まりとなり、対戦相手に付け入るすきを与えた。それでも独力打開で活路を見いだし、結果を得てきた選手には経験に裏打ちされた自信とプライドがある。その自我が、新監督のスタイルに過剰反応しているようにうかがえた。
逆に、まだプロの世界で実績を残していない若手選手たちは、指揮官の指導を違和感なく受け入れる傾向にあった。フィンケ監督自身が若手の登用に積極的だった点も好影響を及ぼしたと推測される。今季浦和ユースから正式にトップ登録を果たした山田直輝(昨季は2種登録)が語る。
「初めて監督に会ったときに、『おれは若手が好きなんだ』と言われたんです。それが本当かどうかは分からないですけど、そう言われると気持ちが高まりますよね」
実際、フィンケ監督は今季の公式戦で山田直のほか、原口元気、濱田水輝らの新卒選手(いずれも浦和ユースから昇格)をピッチへ送り出し、赤星貴文(期限付き移籍先の水戸ホーリーホックから復帰)、西澤代志也、エスクデロ・セルヒオらの若手選手にも出場機会を与えている。指揮官は、その発する言葉とは裏腹に、ニュースターと既存選手の融合こそがスタイル確立の近道になると踏んでいるようだ。
■フィンケ監督が掲げる「コンビネーションサッカー」とは?
フィンケ監督が標榜(ひょうぼう)するフィロソフィー(哲学)は「コンビネーションサッカー」と言われるものである。和製英語と化した語句を用いているために表面上は陳腐な印象を受けるが、本人が発した言葉であるから致し方ない。それでも、その中身はなかなか興味深い。
「コンビネーションサッカー」の本質を見極める上で参考になるのが、日々のトレーニングメニューである。フィンケ監督が施すそれの特徴は、マイボールのときの練習パターンに多くの時間を割いている点にある。
「わたしのトレーニングは『いかにもドイツらしい練習法』というものでないことは確かです。わたしはずいぶんと前からショートパスを土台としたコンビネーションサッカーを目指してきました。その実現のために、さまざまなゲーム形式での練習法を自ら編み出してきたことも事実です。その練習法の中ではゴールが逆方向を向いていることが多いです。それにはいくつかの理由がありますが、ここでひとつ挙げるとするならば、選手たちにとって大切なのはコンビネーションを繰り返すことで相手にとって危険なゾーンにボールを持ち込むこと、そこから決定的なパスを出したりゴールを決めることです。ゴールを逆に向けることによって、ゴールに向かうまでのゾーンの利用の仕方、アプローチの意識の高さを要求することができます」
「コンビネーションサッカー」を実践する上で重要なファクターがいくつかある。ひとつはボールポゼッション率の向上、そしてショートパスの多用である。それにはあらゆる局面での数的優位性を保つ運動量が求められる。
また、フィンケ監督はドイツ人でありながら、最近のドイツサッカー界がフィロソフィーに掲げるダイレクトサッカーを重視していない。ダイレクトサッカーの理念を端的に述べると「できるだけ高い位置で相手にプレスを仕掛けてボールを奪い、少ない手数で相手ゴールへ攻め込む」ものだが、フィンケ監督の理想は違う。彼にとっての桃源郷はユーロ(欧州選手権)2008で優勝を果たしたスペイン代表にあるというのだ。
「スペインのサッカーこそコンビネーションサッカーの理想形。テクニックと芸術性を兼ね備えたサッカーで、その上フィジカル面でも強く、全員がスペースへ走り込む準備ができているサッカー。焦らずにボールを回し、相手のすきを見つけた瞬間、一気にスピードアップしてゴールを目指す形が理想だ」
これが、今季の浦和を語る際のキーワードになる。
・若き才能・原口元気が覚醒する日 (2009/3/24)





