韓国サッカーの名誉挽回のために (2/2)
ACLに挑む韓国勢4クラブの現状と勝機
■浦項スティーラーズの“ファリアス・マジック”
もうひとつ、注意すべきことが韓国にはある。それは、“ファリアス・マジック”だ。ファリアスとは、05年から浦項スティーラーズの指揮を執るブラジル人指揮官セルジオ・ファリアス監督のこと。Jリーグには“シャムスカ・マジック”があるが、Kリーグの“ファリアス・マジック”も侮れない。
何がすごいのか。例えばその采配(さいはい)である。07年シーズン、ファリアス監督は戦力的に決して恵まれているとはいえなかった浦項を何とかリーグ戦5位に導き、プレーオフでは大番狂わせを連発。最後は、チャンピオンシップでリーグ戦1位の城南一和を下し、Kリーグ王者に輝いた。
昨年の韓国・FAカップでも、ピッチに送り出した選手が次々とゴールを決める名采配を披露し、2年連続のACL出場を確定。3−4−1−2をベースにした多彩な戦術と絶妙な選手交代で試合の流れを変えるその手腕は、まさに“マジック”と呼ぶにふさわしい。一部では韓国代表監督に推す声も出たほどだ。
ブラジル出身の青年監督、スター不在の地方クラブを強豪に変えたマネジメント能力、そして代表監督待望論など、まさに“韓国のシャムスカ”のような存在と言えるだろう。
そのファリアス監督にとって、昨季のACLは苦い経験だった。リーグ優勝チームという大きな看板を背負って挑んだが、ふたを開けてみれば予選リーグで敗退。悔しさだけを味わった。
「昨季、ACLでわれわれが敗れたアデレード・ユナイテッドがクラブW杯に出場している姿をテレビで見ながら、悔しさが倍増した。今季こそACLでいい成績を収めたい」
ACL制覇のためには選手層が厚いことが絶対条件だと語るファリアス監督にしてみれば、チームの主軸だったMFパク・ウォンジェが大宮アルディージャへ、DFチョ・ソンファンがコンサドーレ札幌へ移籍したことは痛手だったに違いない。だが、名将の戦力補強に抜かりはなかった。
蔚山現代から昨季アシスト王のMFブラジリアを、大田シチズンからはDFキム・ヒョンイルを獲得。特に、キム・ヒョンイルは昨年のJOMOCUPオールスター戦にも出場した成長著しいDFだけに、チームにプラス効果をもたらすはずだ。加えて、MFチェ・ヒョジンのスピードに乗ったサイド突破はKリーグ屈指で、ブラジル人FWデニルソンとマケドニア代表FWステボの2トップも破壊力抜群。現地メディアも、チーム力は昨季以上と分析する声が多い。
それだけに、ますます注目が集まるのが“ファリアス・マジック”だ。一昨年はリーグ戦、昨年はFAカップで見せたマジックが、今度はアジアの舞台で披露されるかもしれないとメディアやファンは期待を寄せている。果たして、ファリアス監督はどんな魔法を準備しているのだろうか。同じグループに所属する川崎フロンターレは、警戒が必要となるだろう。
■“攻撃サッカー”で挑む蔚山現代
個人的に奮起を期待したいのは蔚山現代だ。Kリーグでも毎年優勝候補の一角に挙げられているが、“ホランイ(虎)”という力強い愛称とは対象的に、肝心のサッカーは「楽しくない」と評価されることが多い。“つまらない守備的なサッカー“という声もある。
昨季もプレーオフでFCソウルに敗れて年間3位。その内容に満足できなかったフロントは、8年間チームを率いたキム・ジョンナム監督を退陣させ、今季から新たに新監督を迎え入れた。それが、アテネ五輪でベスト8に導き、昨年まで大韓サッカー協会の専務理事を務めていたキム・ホゴン監督だ。サッカー人生の有終の美を蔚山で飾りたいと監督は語っている。
「サッカー人として、現場にいる方が一番幸せだ。ファンが楽しめる攻撃的なサッカーを展開したい」
指揮官によれば、新生・蔚山現代は速いテンポでパスを回し、最終ラインと最前線のバランスを一定の間隔で保ちながら試合を展開していくという。シーズンオフ中のトレーニングでは、まずチームの基礎から見直すことを心掛けていた。だが、今季の選手層を見ると、チームがひとつにまとまるにはまだ少し時間がかかりそうな印象だ。
Kリーグ最多得点の記録を持つFWウ・ソンヨンが仁川ユナイテッドへ、チームキャプテンを務めたセンターバックのパク・ドンヒョクがガンバ大阪へ、北京五輪代表MFイ・サンホは水原三星へ、そして昨年Kリーグアシスト王だったMFブラジリアまでもが浦項へ移籍してしまった。FWからDFの要がこれだけごっそり抜けたのだから、心配はぬぐい切れない。
しかし、守備に不安を抱えつつも、攻撃力には絶対の自信を持っているのが今季の蔚山現代である。その中心となるのがヨム・ギフンだ。昨年2月に行われた東アジア選手権の日本戦でゴールを決めた男の最大の武器は、スピードと抜群のスタミナ。その豊富な運動量で、サイドから相手DFを振り切り、チャンスと見れば自らシュートも狙う。さらに、ブラジルユース代表経歴を持つFWルイジーニョのリズミカルなドリブルと得点感覚は、相手守備陣の脅威となるだろう。
キム・ホゴン監督もこう語っている。
「ACLは、とても重要な大会だ。韓国サッカーがACLで良い成績を残さなくてはならないのは当然のことなのだ」
戦力的にはKリーグ4番手に挙げられる蔚山現代でさえも、ACLタイトル獲得を虎視眈々(たんたん)と狙っているのである。
“常勝軍団”水原三星、若手の成長著しいFCソウル、“ファリアス・マジック”の浦項、そしてキム・ホゴン新監督とともに古豪復活を狙う蔚山現代。「韓国サッカーの名誉挽回のために」という野望のもと、Kリーグ勢がいよいよ本気でアジア制圧に挑む。
<了>
・AFCチャンピオンズリーグ日程 (2009/3/9)
キム・ミョンウ1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。朝鮮大学校外国語学部卒。「朝鮮新報」記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、大韓サッカー協会(KFA)公式サイト日本語版を制作する「ピッチコミュニケーションズ」でライターとして活動し、韓国と北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを数多く取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。『Number』『週刊サッカー・ダイジェスト』などに寄稿 |



