◆トピックス&コラム
宇都宮徹壱
スポーツナビ

「俊輔依存」のシグナル (1/2)
W杯アジア3次予選 タイ代表対日本代表

2008年6月15日(日)

■のどかな「決戦」の地、バンコクにて

試合会場のラジャマンガラ・スタジアムでは、多くの日本人サポーターの姿を目にした
試合会場のラジャマンガラ・スタジアムでは、多くの日本人サポーターの姿を目にした【宇都宮徹壱】

 タイではユーロ(欧州選手権)2008のライブ中継を地上波で見ることができる。どういう契約になっているのかは分からないが、とりあえずグループCのイタリア対ルーマニア、そしてオランダ対フランスは視聴することができた。日本とタイとの時差は2時間だから、現地との時差は5時間。さほど夜更かしせずに済むのはありがたい。

 試合内容について、あえてここで言及することもないだろう。が、今さらながらに思い知らされるのが、現地と当地――すなわちワールドカップ(W杯)アジア3次予選の取材現場との圧倒的な温度差である。本大会と予選、そしてヨーロッパとアジアとの彼我の差は十分に認識しつつも、それでも同じナショナルチーム同士の公式戦。せめて、かの地の10分の1でも盛り上がってほしいものだと願うのは、詮無きことであろうか。これから「決戦」が行われるというのに、バンコクの街は眠気を誘うほど実にのどかである。

 2月6日の3次予選初戦、埼玉での日本戦に敗れて以降、ここまでのタイの戦績は1分け3敗。数字上では、最終予選進出への可能性をわずかながら残すものの、グループ4チームの中で実力的に最も見劣りするのが彼らであることは衆目の一致するところだろう。
 とはいえ、そんなタイもホームでは実力以上の力を発揮することで、つとに有名である。昨年のアジアカップ(タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアの共同開催)では、グループリーグ3戦目のオーストラリアに0−4と撃沈され、結果として決勝トーナメント進出は果たせなかったものの、優勝国のイラクには1−1で引き分け、オマーンには2−0で勝利している。埼玉では不在だった主力選手が戻ってくることを考えると、ゆめゆめ侮ってはならない。ちなみに、日本がタイとアウエー戦を戦うのは、1997年3月以来、実に11年ぶり。このときは、1−3で日本はタイに敗れている。

 キックオフ2時間前、アジアカップ開幕戦の舞台にもなった、バンコク市内のラジャマンガラ・スタジアムに到着。驚いたのは、日本のブルーのユニホームを着たお客さんが、やたらと多いことだ。6万5000人収容と言われるラジャマンガラだが、客の入りはおよそ半分くらい。そのうち半分以上が日本の青で埋め尽くされている。その多くはタイ在住の日本人だろうが、わざわざ日本から駆けつけたファンも相当数いたようだ。バンコクへはアクセスが容易な上、土曜日開催というのも勤め人には好都合だったのだろう。昨今、人気の右肩下がりが危惧(きぐ)されている日本代表だが、それでもこれだけのファンがアウエーの地に駆けつけてくれたのだ。多少は安心してもよいのかもしれない。

■若手抜てきと「ネバーチェンジ」

 さて、タイ戦に臨む日本代表。さっそくスタメンから見てみよう。
 GKは楢崎。DFは内田、中澤、闘莉王、駒野。中盤は、守備的MFに長谷部と遠藤、2列目に中村俊、香川、松井。そしてワントップに玉田である。

 あらためて気づかされるのは、岡田監督の「ウイニングチーム・ネバーチェンジ」の基本方針。ホームでのオマーン戦以降、チームの骨格となるシステムと顔ぶれは、ほとんど不動である。右足首を痛めた左サイドバックの長友に代わり、駒野を右から左に回して内田を右サイドに復帰させたこと。そして出場停止の大久保に代わって、香川をスタメン起用したこと。この3試合での変化は、いずれもけがや出場停止といった不測の事態に際し、最低限の修正を施しただけである。中村俊、松井、長谷部といった海外組を重用する部分も含めて、何となくかつてのジーコ監督のさい配とかぶって見える。

 とはいえ、ブラジル人監督と岡田監督との間には、決定的に異なる部分もある。それは、若手選手の積極的な起用。21歳の長友にしても、20歳の内田にしても、19歳の香川にしても、つい半年前にはA代表に定着することなど、当人さえ想像もしなかったはずだ。ましてや香川にいたっては、J2(C大阪)でプレーする選手である。J2所属の10代の選手が、FIFA(国際サッカー連盟)の公式試合でスタメン出場するというのは、おそらく過去に例のない話である。この点について岡田監督は「世界的に見て、10代の選手がA代表でプレーすることは、決して珍しくない」とも常々語っていることから、チームの若返りを自らのミッションとして課していることがうかがわれる。

 チームの若返りについては、前任者のオシムも積極的に進めてきたことであり、2年後のW杯本大会を考える上でも不可欠なチャレンジであると言えよう。ただ、岡田監督の方針には、いささかの疑念を抱かざるを得ない。というのも「ネバーチェンジ」が、若手抜てきの“担保”となっているように、どうしても見えてしまうからである。換言するなら、若手にチャンスを与えるリスクに対し、中村俊をはじめとする大駒をフル稼働せざるを得ないのが、今の日本代表の現状なのではないか。
 実際、右足首に故障を抱える中村俊は、このタイ戦でも強行出場することとなった。「コンディション重視」でスタメンを決める岡田監督は、あえてその信念を翻したのである。若返りのリスクと「ネバーチェンジ」のリスク。その絶妙なバランス感覚に揺れながら、日本代表はこのアジア3次予選を勝ち抜かなければならない。

 <続く>


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