■9日ぶりにハノーバーに戻ってきて
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子供を肩車するメキシコのサポーター。「パパ、マスクがずれてるよ!」【 photo by 宇都宮徹壱 】
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ニュルンベルクから列車に3時間揺られて、午後2時半にハノーバーに到着する。今日は日曜日。列車の本数が少ないこともあり、昨日のドイツ対ブラジルを取材した記者やカメラマンがどっと乗り込んで、さながら車内は「メディア列車」の感があった。あまりの日本人の多さに、きっと一般客も驚いていたことだろう。
ハノーバーにやってきたのは9日ぶりである。あの時、中空を舞っていたポプラの綿毛は、そのほとんどが地面に付着して、白い絨毯(じゅうたん)のようになっている。9日前の16日、ここで行われた日本対メキシコのゲームが、随分と昔のことのように思えてならない。 「アジアモード」から「世界モード」へ――今大会のメーンテーマが、実にシリアスな形となって日本に突きつけられたのが、ここハノーバーで行われたメキシコ戦であった。この2年、アジアレベルで必死にもがいていた日本が、ようやくドイツ行きの切符を手にして直面する、世界との格差。あの時は代表チームはもちろん、われわれファンも、大げさでなく目の前の現実にしばし茫然(ぼうぜん)としたものである。 しかしその後、日本は短期間のうちに見事に「世界モード」への急速な進化を遂げ、欧州王者のギリシャに勝利し、さらにブラジルとは接戦の末に引き分け、結果として胸を張って大会を去ることとなったのは、周知の通りだ。
ギリシャ戦にせよ、ブラジル戦にせよ、個々のゲームに関していえば、日本の戦いぶりは大いに評価されてしかるべきだろう。だが、そこであらためて考えてしまうのが、日本が初戦で敗れたメキシコの位置づけである。日本にとってメキシコ戦の敗戦は、必然だったのか、否か。必然とは言わないまでも、力の差は歴然としていたのか、それとも実はきん差だったのか。そもそもメキシコって強いの? そうでもないの? 少なくとも、ことコンフェデに関しては、メキシコはわりと好成績を残している。過去6大会のうち、ブラジルと並んで最多4大会に出場、14試合を戦って6勝3分け5敗という戦績である。99年に地元で開催されたコンフェデでは、決勝でブラジルを破って優勝も果たしている。今大会は、6年ぶりの優勝が期待できる位置につけているわけだ。
その一方でメキシコは、欧州で活躍する選手が極端に限られていることもあってか、どうしても地味なイメージがつきまとう。だが、それなりにレベルの高い北中米カリブ地域では、明らかに彼らはアメリカと並ぶ強豪国であり、しかもワールドカップを過去2度も開催している伝統国でもある。さらに近年では、南米との交流を積極的に深めており、リベルタドーレスカップのベスト4にメキシコのクラブの名を見つけることは、今ではさほど珍しいことではなくなった。そうして考えると、いかに日本でメキシコの評価が不当なまでに低かったかが、あらためて理解できようというものである。 極端な話、これまでは単に情報が少ないだけということだけで、われわれは心のどこかでメキシコの力を侮っていたのではなだろうか。ここは自戒の念を込めて、無知の恐ろしいをかみ締めることにしたい。
■メキシコは遠い存在なのか?
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試合前、巧みなボールコントロールを披露するメキシコの少年【 photo by 宇都宮徹壱 】
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コンフェデ杯準決勝、メキシコ対アルゼンチンの試合は、両者ともに一歩も譲らぬまま、スコアレスドローで90分を終了。大会初の延長戦に突入していた。後半終了間際には、アルゼンチンのサビオラが一発レッドで、メキシコのマルケスがこの試合2度目の警告で、いずれも退場処分。テンションの高い試合内容に、暑さからくる疲労が加わって、ファウルの応酬が目立つ。スタンドもピッチも、何やら殺伐とした雰囲気になっている。
試合が動いたのは、延長前半の14分だった。途中出場のメキシコのメディナが、リケルメのディフェンスをかわし、オーバーラップしていたDFのサルシドにパスを送る。ハーフウエーライン付近でボールを受けたサルシドは、ドリブルで左サイドを駆け抜けて、サネッティとハインツェをスピードで振り切ってシュート。ボールは、スライディングを仕掛けていたコロッチーニの足に当たってネットに吸い込まれ、メキシコがようやく待望の先制点を挙げる。 メキシコはその後、守護神のサンチェスが神懸りなセーブを何度も披露して、アルゼンチン攻撃陣を何度も落胆させた。思えばこのチームは、グループリーグでの失点がわずか1と最少。まずは強固な守備ありき、少ないチャンスを確実にモノにする、というのがチームコンセプトであるようだ。よくまあ柳沢は、こんな相手にゴールを挙げたものだ。必死なアルゼンチンを見ていると、多少の優越感に浸ってみたくもなるものである。
ところが、明らかにメキシコに傾いていたゲームを、アルゼンチンはものの見事に引っくり返して見せる。延長後半5分、フィゲロアのポストプレーから、リケルメがシュート。相手DFに当たって、ルーズボールになったところをフィゲロアが素早くヒールで拾い、そのままゴールにたたき込む。ボールはそのまま、GKサンチェスの体に当たってゴールを割った。必死で守っていたメキシコ。必死で攻め続けたアルゼンチン。両者の必死さは、今にして思えば、後者がわずかながら上回っていたように思えてならない。 アルゼンチンは、続くPK戦でも6人全員が成功。メキシコのオソリオがGKルクスに阻まれ、そしてアルゼンチンのカンビアッソがネットを突き刺して、ようやく長い死闘に終止符が打たれた。試合内容もさることながら、あれほど激しく戦った両チームの選手が、試合後に笑顔で握手を交わしてユニホームを好感する姿が見られたのは、サッカーを愛する者としてはうれしい限りである。スタンドからはもちろん、記者席からも、両チームの健闘をたたえる惜しみない拍手が聞かれた。
今日のような試合に接してしまうと、あらためて考え込んでしまうことがある。 今大会のファイナリストとなった南米の両雄、ブラジルとアルゼンチンと互角以上の勝負をしたメキシコは、日本にとってやはり遠い存在なのだろうか。あるいはもし、日本がメキシコに代わって準決勝に進出していたなら、ブラジル戦での善戦が決してフロックではないことを証明できるような試合を披露できただろうか。 いずれにせよ、今大会における「メキシコという驚き」は、今後の日本の強化のあり方について、一石を投じるものであったように思えてならない。というのも、メキシコと日本の間には、意外と共通点が少なくないと考えるからである。
両国の共通点について、以下、思いつくままに挙げてみる。 メンバーのほとんどが国内組である。ディフェンス陣は、さほど背は高くない(今大会では、マルケスの182センチがDFでは最高だが、それでも日本の中澤よりは低い)。前線に頼れる点取り屋がいない。攻守に連動性がある。前からプレスをかける意識が強い――などなど。もちろん程度の差はあるし、決定的な違いもないわけではない。例えば今の日本には、典型的なドリブラーもいなければ、ボルヘッティのような存在感のあるポストプレーヤーもいない。 だが、それらを差し引いても、今大会のベスト4の中で「最も日本に近いチームは?」と問われたら、多くの人がメキシコの名を挙げるのではないだろうか。逆にいえば、それだけ現在のメキシコには、日本が目指すべきサッカーのヒントが隠されているように思えてならないのである。それが果たして何なのか、現時点では具体的に「これ!」といえないのが、実に歯がゆいところではあるのだが……。
<翌日に続く>
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