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4年ぶりの重慶にて(1/2)
東アジア選手権 日本代表対北朝鮮代表

2008年02月18日
(文= 宇都宮徹壱 )  



■4年で変わったもの、変わらなかったもの


霧に包まれた重慶オリンピックスタジアム。記者席からはバックスタンドがかすんで見える 霧に包まれた重慶オリンピックスタジアム。記者席からはバックスタンドがかすんで見える【 photo by 宇都宮徹壱 】
 重慶の空はどんよりと曇っていた。しかも、あいにくの小雨交じりの天気である。聞けば、冬の重慶はずっとこんな空模様なのだそうだ。17日から始まった東アジア選手権だが、大会期間中は一度として青空は望めそうにない。

 中国を訪れるのは、4年前のアジアカップ以来のことである。
 実はかねがね私は「今度、中国を訪れる機会があったら、重慶以外ならどこでもいいな」と強く願っていた。別に重慶そのものが嫌いなわけではない。ただ、4年前の滞在が2週間にも及び、すっかりあきてしまったのは間違いない。しかもその間はずっと、重慶名物の蒸し暑さと、激辛調味料の食事と、そして毎試合のように日本代表に浴びせられるブーイングに付き合ってきたのである。土地そのものに恨みはなくても「重慶以外ならどこでもいいな」と思ってしまうのは、決して私だけではなかったと思う。
 だが困ったことに、私の場合「もう結構」と思った土地や国ほど、なぜか縁ができてしまう奇妙なジンクスがある。かくして、今回の東アジア選手権では「懐かしの重慶」に10日間、滞在することと相成った。

 4年ぶりに訪れた重慶の中心街は、すっかりきれいな街に変ぼうしていた。中国の旧正月明けの華やいだ空気とあいまって、真新しいショッピングモールの電飾がひときわ輝いて見える。人々の暮らし向きもずい分と向上したようだ。ヨーロッパの外車の数は間違いなく増えたし、愛玩犬を連れて闊歩(かっぽ)する市民をよく見かけるようになった。若い女性のファッションも、ずい分とあか抜けたものになっている。
 だが、何よりも驚かされたのは、人々がタクシー乗り場で行列を作っていたことである。もちろん警察官の監視付きではあったが、それでも行列を作るという概念がほとんどないとされるこの国の人々が、行儀よくタクシーを並んで待っている光景は実に壮観であった。北京五輪を目前に、モラルの向上が叫ばれて久しい中国だが、そうした中央での指導は、遠く重慶の地にも届いているようである。

 そうなると、ついつい「観戦マナーの向上」というものにも期待を寄せてしまいたくなるのが人情というもの。そういえば今回の東アジア選手権に際し、中国政府と大会組織委員会は、いわゆる「ブーイング禁止令」を通達したと聞いている。別にブーイングそのものをとがめるつもりはないが、それでも国旗・国歌に対しては最低限の礼儀は守ってほしいものだ。そんなわけで、4年ぶりに重慶のスタジアムを訪れた私は、当地の人々の変化を期待しながら選手入場を待っていたのだが、やはり考えが甘かったようである。
 日本国旗が入場してから始まったブーイングは、「君が代」の演奏で最高潮に達し、試合中も日本の選手がボールを持つたびに繰り返された。結局のところ、どれだけうわべが変わっても、本質的な部分はまったく変わっていない。4年ぶりに聞く、重慶でのブーイング。それは私をして「ああ、戻ってきたんだな」と実感せしめるに十分なものであった。


■東アジア選手権は「チームを壊す」チャンス?


 さて、日本代表である。
 岡田監督いわく、当初は「今(タイ戦)のメンバーが中心になる」予定だったのが、高原の辞退、坪井の代表引退、そして阿部、巻、大久保が相次いで負傷によるリタイアとなり、これまで多数派を占めていた浦和勢は一気に鈴木ひとりになってしまった。逆にG大阪勢は、追加招集の安田を含めて総勢6名。同時期のU−23代表の米国遠征にも寺田が招集され、ろくにメンバーをそろえられないまま、ハワイで開催されるパンパシフィックチャンピオンシップへの出場を余儀なくされることとなった。

 すでに関係者やファンの間では、この時期の代表招集を疑問視する声が挙がり、G大阪の西野監督からも「(東アジア選手権は)U−23代表を出場させるべきだったのでは」という意見も出るありさま。おかげで代表は、明確な目的と高いモチベーションを欠いたまま、初戦を迎えることとなってしまった。
 かつてのダイナスティカップをルーツとする、この東アジア選手権は、AFC(アジアサッカー連盟)における東アジア(そしてもちろん日本)の発言力向上といった政治的な意図を100パーセント否定し切れない大会である。しかし、だからといって、せっかくの国際大会をおろそかにすべきではないだろう。カレンダーの飽和状態は確かに問題ではあるが、この大会にケチを付けていても何ら問題解決にはなるまい。当事者(もちろん取材する側も含む)としては、この大会にどんな意義を見いだすかが、やはり重要だと思う。

 そこで私が思い出すのが、3年前の夏に韓国で開催された、前回大会である。
 当時のジーコ監督は、なかなかメンバーを変えない監督として知られていた。ところがこの東アジア選手権では(すでにワールドカップ(W杯)・ドイツ大会の出場が決まっていたとはいえ)、一気に5人もの新顔を招集して話題になった。その中には、今野、巻、駒野といった、のちの代表の中核を成す選手も含まれていたのである。さらにジーコは、初戦の北朝鮮戦に0−1で敗れると、あっと驚く「スタメン11人総取替え」を敢行。ジーコ時代には珍しく、多くの「代表初キャップ」が生まれた。

 そうして考えると、この東アジア選手権という大会は、いったん「チームを壊す」チャンスなのかもしれない。「壊す」というとネガティブにとらえられがちだが、必ずしもそうではないと思う。壊すことによって、これまで見えなかった課題が露出したり、あるいは、これまで見向きもされなかった人材が頭角を現したり、といった新たな発見もあるはずだ。図らずも岡田監督は、初戦の北朝鮮戦から、かなりチームを壊してきた。
 GKには、これが初キャップの川島。DFは右から内田、中澤、水本、加地。水本のスタメンは、2006年10月のガーナ戦以来。加地の左サイド起用は、これが初めてだ。中盤は、底に鈴木、左右に遠藤と山岸、トップ下に羽生。そして2トップは、播戸、そしてこれまた初キャップの田代。タイトルを狙う上で落とせない初戦で、あえてこのような大胆な選手起用を試みたところに、岡田監督の明確な意図、すなわち「バックアッパーのテスト」というテーマを見て取ることができよう。

<続く>

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