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キーワードでひも解くオシムのサッカー(1/2)
湯浅健二著『日本人はなぜシュートを打たないか』をめぐる対話

2007年10月13日





●●湯浅健二さんは、尊敬してやまない同業者のひとりである。いや、正確を期すなら「同業者」というのは語弊があるかもしれない。湯浅さんの肩書きは「サッカーコーチ」。ゆえに、この人の視点・論点は、極めてコーチ的であるといえる。それは、彼の文章に登場するオリジナリティーあふれるキーワード(人はそれを「湯浅語」と呼ぶ)についても、同様だ。「ボールのないところで勝負は決まる」「優れたサッカーは有機的なプレー連鎖の集合体」「互いに使い使われるというメカニズム」などなど。これらの言葉は、湯浅さんのコーチ人生の中で誕生し、錬成され、言語化されたものばかりだ。
 このほど湯浅さんは、久々に新著を発表した。タイトルは『日本人はなぜシュートを打たないか』(アスキー新書)。何とも刺激的なタイトルだが、著者いわく「これまでのキーワードを分かりやすくまとめた本」なのだという。おりしも今月17日には、年内最後の日本代表戦(対エジプト代表)が行われる。そこでこの機会に、本書に登場するキーワードの数々を引きながら、あらためてオシムのサッカーと日本代表の方向性について、湯浅さんと一緒にひも解いていこうと思う●●


(聞き手:宇都宮徹壱)


■「オシムのサッカーを知りたければ、この本を読んでほしい」


長年、「走ること」の重要性を訴えてきた湯浅氏 長年、「走ること」の重要性を訴えてきた湯浅氏【 photo by 宇都宮徹壱 】
――オシムが日本代表を率いて1年以上が経過したわけですが、数多くの選手を試しながらもコアとなる選手は実はあまり変わっていない。それだけにジーコ時代との違いが、非常に明確になって見えてきますよね。特に「考えて走る」という部分で。
 湯浅さんの代表的なキーワードに「クリエーティブなムダ走り」というのがあります。かつて読売クラブ(現東京ヴェルディ1969)のコーチをされていたとき、それこそ与那城ジョージやラモス瑠偉のようなスター選手にも「走ること」を要求してきたわけですよね。それから四半世紀後、日本代表は全員が走るのが当たり前になった。やはり湯浅さんとしては、感慨深いものがあったのではないでしょうか?


 僕が「走ることが大事だ」というと、それまでは「そんなこといったらおしまいだよ」って言われたんですよ。どういうことかというと「それを(周りが)合わせるのは大変でしょ」ってことなんだけど。ところがオシムが来て「走んなきゃだめだよ」って言い続けた。それはすごいことでさ。最初はジェフでも「何言ってんだ、このくそおやじ」って、思ったわけじゃない。ところが彼がずっと言い続けて、あのジェフがすごいサッカーやって、みんなびっくりしたわけだよ。それを見ていた僕も留飲を下げたよね。

――もうひとつ「リスクチャレンジこそが発展のリソース」というキーワードもあります。この部分でも、先のスイス戦で日本は見事なリスクチャレンジを見せてくれました。まあ、あの試合は序盤で2失点を食らって、吹っ切れるしかなかったわけですが

 スイスの(クーン)監督が試合後の会見で「ウチの悪い癖が出た」なんてことを言っていたけど、それは違うと思う。早い時間帯にスコアが2−0になって、「これは大丈夫」って足を止めてさ、「楽して勝とうぜ」っていう心理状態にスイスはなっていた。逆に日本は吹っ切れて、リスクを懸けてガンガン前に行くようになった。そうすることで、スイスは「悪魔のサイクル」に入ってしまったという表現の方が正しいと思う。
 僕は直後のコラムで「(反撃のきっかけは)闘莉王か」って書いたけど、彼だけではなかったかもしれないね。松井(大輔)だって、すごい勢いで下がってディフェンスやっていたし。もちろん闘莉王もガンガン上がって、稲本(潤一)に「お前、突っ立っているだけなら、後ろでカバーしろよ」と言ったのかもしれない。そしたら周りも「そうだ、そうだ」と言ったかもしれないし(笑)。

――この本に書かれてあるキーワードは、いずれも湯浅さんがずっと以前から繰り返し言葉にしたり、文章にしてきたことですよね。それこそオシムが日本にやってくる、はるか以前から。それでも、オシムが志向するサッカーには、見事に湯浅さんのキーワードが散りばめられている。これは偶然でしょうか?

 だからさ、イビチャ・オシムのサッカーを知りたければ、この本を読んでほしいわけ。あの人の言葉だけを聞いても、普通の人は分かんないでしょ。あの『日本人よ!』(イビチャ・オシム著 新潮社)という本にしても、僕らは分かるけれど、普通の人には難しいですよ。「イビチャさん、そういう言い方をしたら、分からないよ」って、こっちは思うじゃない? でもこの本を読めば、イビチャ・オシムが何を考えているか分かると、僕は自信をもって言えますよ。


■オシムが選ぶ天才、選ばない天才


湯浅さんは、オシム監督が中村俊輔、高原直泰ら才能のある選手を走らせて、組織プレーをさせることに成功している点を評価している 湯浅さんは、オシム監督が中村俊輔、高原直泰ら才能のある選手を走らせて、組織プレーをさせることに成功している点を評価している【 Photo:ロイター/AFLO 】
――オシムの「考えて走るサッカー」に関して、湯浅さんはよく逆説的な例としてディエゴ・マラドーナを挙げますね。この本でも、走るというタスクを免除された、極めて例外的な選手として、彼に関する言及がありますが

 そう、全盛期のマラドーナのように、ボールを持ったら確実に3人以上抜けるようなスーパープレーをできるような選手ならね。そういう選手が日本代表に存在するなら、イビチャ・オシムは妥協しなければならない。ビラルド(1986年ワールドカップでのアルゼンチン代表監督)のようにね。ディアスは仲が悪いから使えないとか、こいつに忠実なやつを使おうとか。そうやってビラルドは、マラドーナのためのチームを作った。
 でも、そんな選手なんて今、いないわけ。ロナウジーニョだって無理。それなのに勘違いして、足元パスばかりを要求するような選手が代表に入ってくると、邪魔になるだけなんです。それが分かっているから、オシムさんはそういう選手は選ばない。

――実際、ジーコ時代には当然のように選ばれていた選手が、オシム監督になってからさっぱり呼ばれなくなったという事例がいくつもあるわけですが、見極めの一番の条件って何だと思います?

 サッカーの目的ですよ。相手からボールを奪い返してシュートを打つ。それにどれくらい貢献できるか、それを監督は考えるわけ。個人で強い選手、たとえば中村俊輔は、コンビネーションのボールを動かすリズムを作る才能に素晴らしいものがある。(代表での)プレー内容でいったら、同じ中村でも憲剛の方が上かもしれない。ただ、最後の1対1の勝負になったら、俊輔ほど力を発揮できる選手はいない。彼はそれをやるようになったよね。高原(直泰)も組織勝負をしながら、ちゃんとメリハリのあるところで個人勝負をしている。才能のあるやつを走らせて、組織プレーをさせている。そこにイビチャ・オシムの真骨頂があるんだよね。

――そこで思い当たるキーワードが「天賦の才は諸刃の剣」です。俊輔や高原がチームの主力となる一方で、小野(伸二)や小笠原(満男)にはまったくチャンスが与えられていない。同じ天才でも、この差は興味深いですね

 確かに小野も小笠原も天才だけどさ、ちゃんとしたプレーをしなければ「諸刃の剣」になるってことですよ。オシムは、半分くらいの天才は改心させたわけです。でも、残り半分くらいには見向きもしない。そこの割り切りはすごいと思うけどね。

――先月のオーストリア遠征では、普段使われない海外組が試されました。彼らについての、湯浅さんの見立てはいかがですか?

 この間、フランクフルトの試合をテレビで見たけど、稲本はあまり変わっていないね。非常にパッシブ(消極的)。ただし球際では非常に強い。ドイツ人以上だよ。だから彼が自分で走るようになって、ガンガンとチェイスして、味方に取らせたり、自分で取ったり、つまり「使い使われる関係」を覚えたら、本当にいい選手になると思う。

――松井についてはどうでしょう? 2試合を経験してずい分と変わったように思えるのですが

 彼のプレーは変わったよね。「監督がどんなプレーを望んでいるか理解できた」ってコメントしたそうじゃない? まさに彼は、そういうプレーをしていた。左サイドにべったりくっついているのではなくて、ぐるぐる動き回って守備にもかかわり、ボールのないところでもしっかり走ったからこそ、彼はすごく活躍できた。それは練習でオシムにガンガン言われたから。フランス語だったから、よくは分からなかったけど「走らなきゃサッカーにならないだろ」って。それは表情見ていれば分かるよ。

<続く>

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【関連リンク】
『日本人はなぜシュートを打たないのか?』(アスキー新書)(湯浅健二 著)

 


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