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日々是亜洲杯2004
あらためてブーイングについて考える(7月25日@重慶、晴れ)
2004年07月26日
(文=
宇都宮徹壱
)
■これはあくまでも、サッカーの戦いなのである
タイ戦から一夜明けた日本代表。今日も炎天下の中での練習が続く【 photo by 宇都宮徹壱 】
中国という国は、本当にカルチャーショックの連続である。
昨日、私はビールとつまみを購入すべく、ホテルの近くにあるスーパーマーケット(現地では「超市」と表記する)に行った。食材売り場を通りがかると、水槽が幾つか置いてあり、そこにはウナギやら鯉やらが泳いでいる。そこまでは理解できるのだが、生きたカエルが売られているのにはさすがにビックリした。私は、まじまじとそのカエルを観察してみる。「君たち、食材なんだよ。明日には食われるかも知れないんだよ。自覚してる?」と問いかけてみたのだが、私は両生類風情に見事に無視されてしまった。
果たして、俎上(そじょう)に上がったカエルくんに対して、当地の主婦たちは最初の包丁をどの部位に刺し入れるのであろうか……。ナイーブな私としては、想像するだけで立ちくらみがしそうである。中国という国、そして文化を理解するには、まだまだ胆力が足りない。「超市」におけるカエルくんとの出会いで、私はそれを深く痛感した。
昨日のタイ戦における、日本代表への仮借なきブーイングについても、おそらくは知識や理性だけで解決できる問題ではないように思えてならない。われわれ島国の人間にはおよそ理解できない、この国特有の感情や生理というものが確実に存在することをあらためて思い知らされる。もちろん私自身、昨日のブーイングについてははななだ不愉快な思いであった。が、さりとて理路整然とした話し合いで、彼らの蛮行(あえて、こういう言い方をする)が止むことはないだろう。日本人と中国人との間に、深くて暗い溝が存在することは、やはり認めざるを得ない事実である。そしてそれは、もはや話し合いのレベルを超えた、「肝」のレベルでの問題であるようにさえ思えてしまう。
だが幸いにして、サッカーのルールは万国共通である。中村俊輔が豪快なフリーキックを突き刺してしまえば、それだけで理不尽なブーイングは霧が晴れるがごとく止んでしまう。それが、サッカーのすごさであり、素晴らしさではないか。
そんなわけで、先のタイ戦でのブーイングを受けて、ネット上で中国(人)に対するひぼう中傷を書き込んでいる「自称・愛国者」諸君には、この場を借りて申し上げたい。そうした情熱と時間を少しでもお持ちであれば、どうかそれらを重慶で戦っている日本代表への応援に振り向けていただきたい。もちろん、私も頑張る。
今日、中国はグループAを1位で通過した。これで日本との対戦は、決勝まで持ち越されることになった。よほどのことがない限り、中国はこのままファイナルまで勝ち進むことだろう。ならば、日本も決勝まで一気に駆け上がり、北京で大ブーイングを浴びながらもアジアカップ連覇を果そうではないか。もはやこの戦いは、ジーコ・ジャパンや日本協会だけの戦いではない。われわれ日本人のプライドを賭けた戦いなのだ。
ネット上で罵詈(ばり)雑言を書き込んでも、何ら解決策にはならない。そうではなく、サッカーで決着を付けようではないか。間違っても、いたずらに政治問題を持ち出してはならない。これはあくまでも、サッカーの戦いなのである。
■日本は心をひとつにして龍になれ!
サブ組がランニングで汗を流す中、ジーコ監督も黙々と走り続ける【 photo by 宇都宮徹壱 】
さて、重慶での日本代表である。
今日は午前と午後の2部練習。私は、午後6時から重慶オリンピック・スタジアムのサブグラウンドで行われた練習を取材した。今日は、昨日の試合に途中出場した小笠原、本山、中田浩二を含むサブ組のみの練習。選手たちはボールを使って体をほぐしてから、長めのランニング、シュート練習、そしてミニゲームに汗を流していた。
ジーコ監督は、終始笑顔であった。昨日の時点で、グループリーグ突破という最低限のノルマを突破した余裕だろうか。指揮官は、選手たちと一緒に炎天下の中をランニングし、シュート練習の際にも一人ひとりの名前を呼びながらボールを配給している。今日はメディア対応こそなかったものの、ジーコがスタメン組、サブ組分け隔てなく接している姿を確認できただけでも収穫であった。
練習後、この日が誕生日だった土肥に、卵と小麦粉を頭上からまぶすブラジル式のセレモニーが行われた。選手たちの間から爆笑が沸き起こる。これもジーコのアイデアだろうか。笑いの中にも、チームとしての結束力が感じられた。
昨日の日記でも書いたことだが、次のイラン戦では是非、彼らを中心に戦ってほしいと私は切に願っている。「このチームは、誰が入っても機能する」というジーコの言葉が真実ならば、なおのことチャレンジしてほしいと思う。
日本は、引き分けでもグループ1位通過。加えてイランは、主力の3選手が出場停止だ。スタメン組に休養を与え、サブ組にチャンスを与えるという意味で、これほどの好機もないだろう。ジーコ監督の英断を切に期待したい。
土肥の誕生日の儀式で巻き添えになった楢崎。「何でオレやねん!」【 photo by 宇都宮徹壱 】
夜、中国人記者のA君と夕食をともにする(仮名にするのはもちろん、本人に迷惑をかけたくないからだ)。A君とは、サッカーのこと、女性のこと、仕事のこと、日中の最新事情のことなど、さまざまな話をした。時おり、靖国問題や南京大虐殺などのきわどい話題も出たが、私は自分の意見を率直に話したつもりだ。こうした話題については、ただ無条件に謝ってみても、何ら相互理解にはつながらない。お互い、学んできた歴史が異なるのだから、結論は出なくてもきちんと語り合うべきであろう。A君は重慶の人間ではないが、「昨日のブーイングについては、同じ中国人として恥ずかしく思いました」と言ってくれて、少し救われた気分になった。
そんなA君から、当地の面白い格言を教わったので、ここで紹介したい。
「一ケ中国人是龍、一群中国人是虫。一ケ日本人是虫、一群日本人是龍」
一人の中国人は龍だが、集団になると虫である。一人の日本人は虫でしかないが、集団になると龍になる――中国の人々は、日中の国民性の違いをこのように見ているらしい。なるほど、と私は思わずヒザを打った。
結局のところ、昨日のブーイングについては、虫の羽音と思えばよいのである。逆にわれわれも、ネット上で虫になることはない。心をひとつにして、龍になればよいのだ。
<翌日に続く>
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