“勝負のモメント”を読む目の必要性
U−23日本 2(3PK4)2 コートジボワール=トゥーロン国際大会
2008年05月30日
中田徹
■勝負強さの差が出たトゥーロン国際大会
29日、トゥーロン国際ユーストーナメントの3位決定戦に臨んだU−23日本代表は、コートジボワールにいったんは逆転しながら後半ロスタイムに追いつかれ、2−2で試合を終えた。PK戦で日本は4人目(李忠成)、5人目(水本裕貴)が失敗し、3−4で敗退した。
この結果、コートジボワールが3位、日本は4位になった。優勝はイタリア、準優勝はチリだった。
ガンバ大阪で出場機会を減らしていた水本は、大会中、試合を重ねるごとにパフォーマンスを上げていき、大会優秀選手第3位として試合後に表彰された。
「PK戦で負けたんだから、それほど悲観する必要はないかもしれない。ただ“勝ち”か“負け”と言われたら明らかに負け。勝負強さの差が出た」。そう反町監督は素直に敗戦の弁を述べた。
かつては「PK戦は抽選のようなもの」と言われた。今でもオランダのように「PK戦は運が左右する」と考える国もある。しかし、現代のサッカーのトレンドは、PK戦もサッカーの要素の一つと考えるのが普通。しっかりとした準備をしておくことはとても重要だ。
日本もイタリア戦前、コートジボワール戦前の練習で入念にPKを練習していたが、結果から見れば2試合連続でPK戦を落としてしまった。そこを反町監督は「運」という言葉では片付けず、明快な負けとして受け止め、そこから「勝負強さが足りない」という結論を導き出した。
このようにコートジボワール戦を敗北として受け止めてみると、U−23日本代表は90分間の中でも勝負強さに欠けた場面があった。前半、自分たちのペースで試合を進めていたのに、簡単にコートジボワールに先制ゴールを許したこと。後半、選手交代が実って逆転したのに、ロスタイムのパワープレーに敗れて同点に追いつかれ、PK戦に勝負の行方を委ねざるを得なかったこと。これは確かにもったいない。特に立ち上がり、主力を温存したコートジボワールは眠っていただけに、先に日本が1点を取りにいく姿勢をもっと見せても良かったのではないか。
こうして大まかな得点の流れと、試合の流れを振り返っていくと、日本は“勝負のモメント(瞬間、場面)”を読む目が足りないこと、もしくは意識していないことに気づく。
サッカーはポゼッションを高めて試合を支配し、リズムを作るやり方や、守備にアクセントを置いてまずは相手の攻撃を許さずゲームを作る方法がある。しかし、それはしょせんゲームの流れを作っているだけで、ほかに勝負を仕掛けるべき“モメント”が試合中に幾度も起こっている。そこを読む個人の目、そこでリスクを冒すチームの意思――それを今回のU−23代表から感じることは少なく、チリ、イタリア、コートジボワールからはひしひしと感じた。
■森重投入で活性化した日本
ちょっとコートジボワール戦から話は飛ぶが、準決勝のイタリア戦の後半、中村北斗のプレーからは、勝負のモメントでリスクを冒す匂いがした。左サイドに張ったジョビンコ(今大会の最優秀選手に選ばれた)のマークに四苦八苦しながらも、中盤でボールが収まれば勇気をもってスペースへ走り、自らフリーになるだけでなく、イタリア選手の味方へのマークもはがすような効果的なプレーを見せていた。
コートジボワール戦では、試合立ち上がりから20分、日本はポゼッションサッカーでリズムを作り、この時間帯は前線で動いてフリーになったFWに、DF陣がグラウンダーのパスを通す勇気をもって幾度かチャンスを作った。だが、先制されてから日本は腰が引け、自陣に引いてしまいプレーが停滞した。こうして勝負のモメントでリスクを負うことができなくなった。
例えば、FWの李は一生懸命相手DFの裏へ走って、敵を引き付けていた。そこで生まれたスペースは勝負のモメントだ。ドイスボランチのうち1人が縦へフリーランし、そこへグラウンダーのパスが出たかどうかの瞬間、周りの選手が一斉に前掛かりになるべき場面である。しかし、何度も見せた李の裏への走りに誰も味方が反応しないから、DFはボールを李のいる辺りにポーンと蹴るしかない。せいぜい日本は陣地を挽回(ばんかい)するか、よくてスローインを得るしかない。本来なら練習で同じ状況を作り、その瞬間指導者は笛でプレーを止め、「何で李が作ったスペースへお前が出ていかないんだ」と問い掛けをし、それを練習の動機付けとしてメニューを組むべき項目である。
こうした勝負のモメントは試合中いくつも出てくる。FWにくさびが入った瞬間。DFが相手のプレスをかわし、フリーマンになったボランチにボールが入った瞬間。相手ボールを奪った瞬間(もしくは奪う直前の瞬間)。この瞬間、強豪チームの監督やアシスタントコーチは練習でピッピ、ピッピと笛を吹き、「お前はそこでボールを待っているんじゃなくて、スペースへ走れ、お前はサポートに行け。お前まで前に行くのはやりすぎだ。そしてパスはもっと早く、強く出せ」と反復して、勝負勘を磨いているのである。
こうして見ると、勝負のモメントは、個人の才覚というより、チームの約束事として動機付けできるものである。今大会、「前へ攻撃にいく枚数が少ない」という声を選手から聞いたが、それは個人が前へ飛び出す勇気の欠如というより、チーム全体の攻撃プランができていないからだろう。
もうひとつ、勝負のモメントを創出する方法は、選手交代によってその意図を明快にすることだ。コートジボワール戦では70分、本田圭佑と森重真人が同時投入されたが、特に森重のパファーマンスが素晴らしく、チームに活気をもたらした。
森重はベンチで試合を観察し、「シュートとか思いきりの良さがなかった」と感じていた。反町監督は「中盤でパワーが欲しい。セットプレーでも点が取れそうだから、(選手の)高さも欲しかった」と、森重をボランチに投入した。これが、2分後にハマった。森重の相手ペナルティーエリア内へと脅かすようなドリブルが攻撃の起点となり、李のクロスからエスクデロの同点ゴールが生まれたのである。82分には森重自身がコーナーキックを頭で合わせ逆転弾を挙げ、日本は2−1とした。その直後にも森重は右足アウトフロントで相手の意表を突くミドルシュートを放っている。
トゥーロンではセンターバック、右サイドバック、左サイドバックを務めた森重は、コートジボワール戦でジョーカーとしてボランチで出場。短い時間で勝負強さを発揮し、チーム内での価値をさらに上げた。
名将ファン・ハールは言う。「サッカーはモメントの積み重ねのスポーツだ」。そこには必ず勝負のモメントがある。森重がプレーした20分間、日本は一気に活性化した。森重のボランチからの勝負プレーだけでなく、それを投入した采配(さいはい)もまた、勝負のモメントであった。逆に最後1点を追いつかれてしまったこと、PKを2本続けて外してしまったことは、やはり勝負の場面で甘さがあったということか。優勝したイタリアや準優勝したチリはそこがずば抜けていて、勝負を懸けたパスと走りとドリブルのオンパレード。守備の組織もキッチリしている。トゥーロンでは僕自身も刺激を与えてもらった。
<了>
関連リンク
・コートジボワール戦後 U−23選手コメント 08/05/30
・コートジボワール戦後 反町監督会見 08/05/30
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