◆トピックス&コラム
宇都宮徹壱
スポーツナビ

すべてが決勝戦という気持ちで (1/3)
国際主審 西村雄一氏インタビュー

2010年8月19日(木)
W杯での思い出からジャッジをめぐるメディアのあり方まで、西村主審は誠実に答えてくれた
W杯での思い出からジャッジをめぐるメディアのあり方まで、西村主審は誠実に答えてくれた【宇都宮徹壱】

 国際主審の西村雄一氏が、副審の相楽亨氏と帰国会見を行ったのは、ワールドカップ(W杯)閉幕から5日後の7月16日のことである。2人は最後まで開催国・南アフリカにとどまっていた「日本代表」であり、決勝では西村氏が第4審判、相楽氏は予備副審として世界中が注目する一戦に参加していた。その証しである、金色に輝く記念メダルを手にした映像は、その日の各局のスポーツニュースで放映された。

 折しも代表選手の話題がひと段落したこともあって、その後の西村氏のメディアの露出ぶりは目を見張るものがあった。帰国後、最初に担当したJリーグの試合(7月25日、川崎フロンターレ対京都サンガFC)でも中村憲剛と同じくらいクローズアップされ、その後もたびたびテレビや雑誌でのインタビューを目にする機会があった。前回大会の上川徹氏(現日本サッカー協会トップレフェリーインストラクター)も、3位決定戦の主審を務めたことで注目されたが、今大会の西村氏の注目度はそれ以上といえよう。

「いい審判は目立たない審判だ」という至言があるが、一方でレフェリーの生の声というものは、もっと発信されるべきだとかねがね思っていた。どんな準備を経て試合に臨み、試合中はどんなことを考えながら笛を吹いているのか。あるいは、カードを提示する瞬間の心理状態や選手とのコミュニケーションなどなど、レフェリーに関してわれわれが知り得ていることは意外と少ない。W杯を契機に、にわかにレフェリーに注目が集まるようになった今だからこそ、西村氏に聞いてみたいことは山ほどあった。

 幸い氏は、こちらの質問に対して非常に誠実かつ率直に対応してくれた。その内容も、W杯での思い出からジャッジをめぐるメディアのあり方まで、実に幅広いものとなった。いささか長いインタビュー記事となってしまったが、現役主審のトップランナーの言葉は、十分に読み応えがあることを請け合う。(取材日:8月6日 インタビュアー:宇都宮徹壱)

■帰国後に感じたジャッジをめぐるまなざしの変化

西村主審のW杯は大会初日のウルグアイ対フランス戦からスタート。「普段通り自分がやってきたことをやれた」
西村主審のW杯は大会初日のウルグアイ対フランス戦からスタート。「普段通り自分がやってきたことをやれた」【写真:ロイター/アフロ】

――南アから帰国後、西村さんの最初のJリーグでの担当は川崎対京都でしたね。お客さんの反応はどうでしたか?

 われわれ審判団は、キックオフの90分前にピッチのチェックがあるんです。その時に本当に多くのサポーターの皆さんから自然と拍手をしていただきました。それは次戦の鹿島対神戸でも同じでした。直接、そういった形でメッセージをいただいた時は感無量にもなりましたし、本当に心から応援していただいたんだなとあらためて感じましたね。

――レフェリーが脚光を浴びるのは、なかなかないことですよね。ましてや拍手を受けるなんて(笑)

 なかなか難しいですよね。今回のW杯がそういったような形でレフェリーの立場を変えてくれたと思います。

――あらためて今、レフェリーが注目されるようになったことをどう感じますか?

 今回のW杯のテレビ放送を通して、みなさんが判定の正しさについて興味を持っていただいた大会だったととらえています。なかなか日本では見ることのできない、ベストアングルからのスーパースローによって、だいたいレフェリーの判定が正しかったと伝わったのではないかと。われわれレフェリーにとっては、リプレー映像でないと分からないぐらい難しい判定というのがあるのも、テレビを通して伝わったと思っています。実際、FIFA(国際サッカー連盟)によれば「94%(の判定)が正しかった」というデータもあります。オフサイドの判断にしても、オフサイドカメラを見れば10センチ、もしくは5センチのオフサイドをしっかりと見極めた副審もいましたから。

■プジョルとカシージャスはジェントルマンだった

――西村さんは今大会、主審で4試合、第4審判で3試合、担当されました。ご自身が一番やりやすかったゲーム、一番難しかったゲームはどれでしょう?

 やりやすかったゲームはウルグアイ対フランス戦、大会初日のゲームですね。逆に難しかったのは、ブラジルとオランダの準々決勝でした。

――前者の試合は、大会初日ということでプレッシャーもあったのではないですか?

 今まで自分が続けてきたジャッジの基準は、3年間の選考過程でFIFAは分かっているので「いつも通りやってくれ」ということを大会直前のセミナーでも確認していました。わたしと、もう1人のアジアのレフェリー(ウズベキスタンのラフシャン・イルマトフ主審)が大会初日にあたりましたが、そのままやってくれということでした。何も構えることもなく、普段通り自分がやってきたことをやれたという意味では、一番やりやすかったですね。

――ウルグアイのロデイロに対して、いきなりレッドカード(警告2回)を提示するという、難しい場面もありました

 結果的にはそうなんですけど、わたしとしては、いつもやっているものをそのまま出しました。両チームの特徴については、大会初日なので直前情報はそんなに詳しいものではない。だから純粋にゲームに入って、ゲームの中で感じて対応していった。本当に素直にやれたゲームでしたね。オランダ対ブラジル戦は難しいゲームでしたが、両チームの特徴がよく分かるようになっていたし、わたし自身も(それまで担当した)3試合を通じて感じたものを4試合目でトライしている部分があったので、やっている中でうまくコントロールにつなげることができたと思っています。

――今大会、ジャッジをするにあたって西村さんが目標としていたこと、そしてその評価はいかがでしょうか?

 目標としていたのは2つあって、選手のために全力を尽くすこと、そして誠心誠意ゲームを務めること。その2つの目標に関しては、7試合を通してできたなと思っています。1試合1試合、きちんとやれたら次のゲームのチャンスがある。大会の間、それに徹していた結果として、決勝があったと思っています。もちろん(主審を務めた)4試合で、それぞれ改善すべき点もありました。具体的には、選手との接し方の部分ですね。もっと効果が上がるような、立ち居振る舞いがあったなとも思っています。

――なかなか難しいところだと思います。ただ、スペインの選手からは「グッドジャッジ!」と言われたこともあったそうですね

 スペインのファウルに対して笛を吹いたにもかかわらず、彼らから「グッドジャッジ!」と声を掛けられたことがありました。それはスペインが、レフェリーのどんな判定でも受け入れるという、ひとつの姿勢だった思います。判定そのものは勝敗には関係ない、いいプレーをして勝つんだという姿勢を、ものすごく心掛けていましたね。真の王者というのは、こういうものなのかもしれない。スペインはフェアプレー賞を受賞しましたが、特にプジョルとカシージャスは、プレーの素晴らしさはもとより、ジェントルマンでもありましたね。試合中でも、いい感じでのやり取りが多かったです。

 <続く>


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