◆トピックス&コラム
宇都宮徹壱
スポーツナビ

「ベスト16」との向き合い方 (2/2)
南アでの日本代表の戦いを総括する

2010年7月20日(火)

■岡田批判したメディアは謝罪すべきか?

日本代表にとって、今後は「ベスト16」が超えるべき指標となる。その意味で、岡田監督が残した功績は大きい
日本代表にとって、今後は「ベスト16」が超えるべき指標となる。その意味で、岡田監督が残した功績は大きい【スポーツナビ】

 パラグアイ戦後の会見で、岡田監督は「(勝利のための)執着心が足りなかった」と述べている。それでも「ベスト4」という目標がなければ、日本はベスト8を懸けた対パラグアイ戦で、戦う前から満足し切ってしまったような気がする。つまり、もっとぶざまな負け方をしていた可能性は否定できない、ということだ。そうならなかったのは、どんなに嘲笑(ちょうしょう)を浴びながらも、岡田監督が「ベスト4」という目標を取り下げなかったからである。「ベスト4」という目標の撤回を求めていた私としては、その一点において、自らの不明を認めるしかない。

 しかしながら、今回の結果をもって「岡田監督を批判したメディアは謝れ!」という論調に対しては、私は正直「ちょっと違うのではないか」と考えている。確かに、岡田監督に謝った方がよい人が業界内に存在することについては、異論はない。それはすなわち、戦術面とは一切関係のないところで人格攻撃をしたり、対案もないまま「岡田以外だったら誰でもいい」と解任を声高に叫んだり、さらには「3戦全敗した方が日本のため」などという理不尽な主張を展開していた人々である。

 ただし、岡田監督のさい配やチーム作りに対する批判そのものを断罪しようとする論調には「ちょっと違うのではないか?」と言わざるを得ない。なぜなら、少なくとも5月の韓国戦と同じような戦い方をしていたなら、日本が本大会で悲惨な状況になっていたのは明白であったからだ。そして実際に岡田監督は、土壇場になってガラリと方向性を変えた。その結果が、今回の「ベスト16」につながったのである。おそらく指揮官自身、メディアの論調に目を通すことはなかっただろうけれど、結果として「現状の戦い方では通用しない」という考えは、メディアも岡田監督も共有していたのだと思う。

 もちろん、この博打(ばくち)が外れていれば、岡田監督がたたかれていた可能性は大である。そうでなくとも「この2年半の強化期間は何だったんだ」という批判もあるはずだ。実際、大会後にも、日本代表の戦いを批判する論調に出くわすことが少なからずある。もちろん、検証自体はあってしかるべきだと思う。だが、いくら「強化のプロセスが悪い」「試合内容が悪い」と批判したところで、岡田監督が今大会で残した「ベスト16」という結果が揺らぐことは一切ないだろう。何といってもW杯は、結果がすべてなのだから。

■今大会の「ベスト16」で明らかになったこととは?

 とはいえ、今大会の戦績については、ラッキーな面もないわけではなかった。高地順応がうまくいったこと。現地の季節が冬で体力の消耗が少なかったこと。カメルーンが内紛状態にあり、デンマークも決して本調子でなかったこと。遠藤保仁と中澤佑二のコンディションが直前で戻り、最高のパフォーマンスを発揮できたこと。逆に中村俊輔は間に合わず、それ故に攻撃の主軸を本田圭佑に切り替える踏ん切りがついたこと。その本田の急成長が、チームのバイオリズムと見事にシンクロしたこと。そして何より、新キャプテン長谷部誠を中心に、チームがひとつに結束できたこと――などなど。

 数え上げればきりがない。いやむしろ、これだけの偶然が、ほんの2週間ちょっとの期間に相次いで起こるというのは、これは「偶然という名の必然」としか言いようがないだろう。いずれにせよ、本番直前に立て続けに起こった、これらのラッキーすべてを取り込み、善循環することができたのは、間違いなく岡田監督の手腕によるものである。大会直前に、別の人間に指揮を委ねていたら、こうはうまくいかなかっただろう。

 ここであらためて、私が条件付きながら岡田監督を支持した理由を述べておくことにしたい。それは、今大会において「日本人だけの日本代表が、どこまで到達できるか」を見極める大会にすべき、と考えていたからである。その意味で、今大会の日本代表の戦いについては、大成功であったと思っている(たとえその戦いが、いかに守備的であったとしてもだ)。はっきり言って岡田監督は、何ら「マジック」は持ち合わせていなかった。とにかく、できる限りの準備をして、選手に持てる力のすべてを発揮させるために「何をすべきか」だけを考える――端的に言えば、それこそが「岡田さい配」のすべてであった。そして、今大会において岡田監督は、チームとしてできることのすべてをやり切ったのだと思う。その結果が「ベスト16」であった。

 今大会における岡田監督のさい配のディティール、および2年半にわたる強化プランの是非については、あらためて議論されるべきテーマであろう。ただ間違いなく言えるのは、日本代表は、日本人だけの力でもって(もちろん、前任者イビチャ・オシムの影響もないわけでないが)、遠く南アの地で「ベスト16」という結果を出した、という事実である。換言するなら「日本人は、独力でもここまでできる」ということを証明してみせたのだ。準備さえしっかりして、何がベストかをギリギリまで模索して、持てる力のすべてを出し切れば、グループリーグを突破するだけの力を持っていることを、身を持って示すことができたのである。この事実は、大きい。

 2010年W杯で日本人が(ほぼ)独力で手にした「ベスト16」という戦績は、今後、どんな名将が日本代表監督に就任したとしても、当分の間は付いて回ることになるだろう。そして今大会の「ベスト16」は、2010年代から20年代にかけて、日本代表が超えるべき指標となるはずだ。このボーダーラインを明確に提示したことこそ、第2次岡田政権の一番の成果であったのだと思う。それは今大会、日本人に多くの感動を与えた功績と、同等以上の価値があったのだと、私は密かに確信している。

<了>

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宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でもコラム&写真を掲載中。また、有料メールマガジン「徹マガ」(http://tetsumaga.sub.jp/tetsumaga_official/)も配信中
「徹壱の部屋」宇都宮徹壱オフィシャルWEBサイト

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