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宇都宮徹壱
スポーツナビ

今こそ岡田監督に期待すること (2/2)
日本代表 0−3 セルビア代表

2010年4月8日(木)

■アウエーの戦いに徹し、目的も明確だったセルビア

稲本(左)は途中からアンカーに入り守備を安定させた。岡田監督は方針の修正を示唆しているが……
稲本(左)は途中からアンカーに入り守備を安定させた。岡田監督は方針の修正を示唆しているが……【Getty Images】

 さて、0−3で日本が完敗したこの試合について、今さら日本の不備をあげつらうのは決して建設的ではないだろう。この試合はむしろ、セルビア側に立って振り返った方が、さまざまな示唆を得ることができる。それは、試合後のチュルチッチ監督補佐の以下のコメントからも明らかである。

「今日の試合は、戦術的な準備が重要になる試合と思っていた。そして2、3日のトレーニングで意思統一をして試合に臨むことができた」

 そう、彼らは選手の経験不足を「戦術的な準備」でしっかりカバーすることで、勝利をもぎ取ったのである。以下、得点シーンを中心に検証してみよう。
 セルビアは序盤、日本のディフェンスラインの裏を狙っていた。あるいは、栗原の代表での経験不足は織り込み済みだったのかもしれない。序盤の4分、縦パス1本に抜け出したムルジャが、ドリブルで持ち込んで楢崎と1対1となる。このときのシュートは右ポストにはじかれたが、ムルジャもほかの選手たちも「いける」と確信したことだろう。事実、その11分後には、ペトロビッチからの浮き球パスが、またしてもディフェンスラインの裏に入り、これをムルジャが持ち込んで今度は確実にネットを揺らす。

 日本の守備陣は、どちらかと言えば長身のレキッチに注意を払っていたように思う。しかし、より警戒すべきは、スピードのあるムルジャの方であった。23分、セルビアは自陣で相手ボールを奪うと、すぐさまカウンターを仕掛ける。右サイドから連続してクロスを入れ、タディッチが右足で合わせたボールにムルジャが反応。いったんはGKにはじかれるも、ムルジャはすぐさま立ち上がり強引に左足で押し込んだ。何という執念。そして何という落ち着き。前半の2点で、セルビアのゲームプランは7割がた完成したと見てよい。相手の弱点を執拗(しつよう)に突いて先制し、戦略的にも心理的にもアドバンテージを確保する――まさに理想的なアウエーの戦い方である。

 この試合、セルビアのピンチは少なくとも4回あった。前半20分、長友の右からのクロスに岡崎が相手DFと競り合いながらシュートしたシーン。その1分後、CKから栗原がヘディングシュートしたシーン。後半14分、途中出場の石川が裏へ抜け出してGKと1対1になったシーン。そして終了間際、CKから途中出場の矢野が頭で反応したシーン。だが、4本のシュートのうち3本は、GKブルキッチのファインセーブと冷静な読みで事なきを得た。それ以外の時間帯は、基本的に相手がポゼッションしていたものの(日本のポゼッションは70.3%、セルビアは29.7%)、単なるパス回しなのでまったく脅威とはなり得ない。

 後半15分に、FKによる幸運な3点目が入ってからは、セルビアは余裕をもって相手の攻撃をいなし、そして次々と新しい選手をピッチに送り込んだ。チームはチームで新戦力のテストができたし、選手は選手でA代表のキャリアを得られて市場価値も高まる。代表にとっても、選手にとっても、そして所属クラブにとっても、この日本戦は大いに得るものがあったわけである。

■敗戦を受けて岡田監督は現実路線へ?

 翻って、日本はどうか。この試合で得た教訓について、岡田監督の言葉を要約すると、以下のようになる。

1)「メンバーが欠けたときに同じ戦い方をするのは難しい」
2)「途中からアンカーを置いたり、3バックにすることも考えないといけない」
3)「試合の前半から中盤にかけて、我慢する戦いというのも必要」
4)「先に失点することは、どうしても避けたい」

 いずれも「何を今さら」という感が否めない。1)については、これまで岡田監督が金科玉条としてきた「コンセプト」が、結局のところ無効となってしまったことを自ら認めるかのような発言である。2)と3)は「(どんな相手に対しても)われわれのサッカーをやる」という、これまでの方針の大幅修正を示唆しており(つまり「ブレた」ことになる)、4)は今の日本の「パスは回れど得点できず」という宿痾(しゅくあ)をあらためて露呈することとなった。要するに、昨年9月のオランダ戦で明らかになったことが、何ら改善されていない。いやむしろ、ホームで2軍のセルビアに、しかも本大会直前に敗れたのだから、深刻さの度合いはオランダ戦の比ではないだろう。

 岡田監督は、現実主義者と理想主義者、両方の貌(かお)を併せ持つ人である。ただし、目指す目標はただひとつ、それは「勝つこと」である。
 今後、理想を追求できるだけの時間的、人材的な余裕がないことを考えると、岡田監督が極端に現実路線に舵(かじ)を切ることは容易に想像できる。例えば「アンカー」や「3バック」の問題にしても、稲本か阿部(あるいは今野)をセンターバックの前に置いて実質的な3バックとし、中盤の構成を思い切り変更する可能性も十分にあり得る話だと思う。そして戦術は「専守防衛」。とにかく守って守って、セットプレーやカウンターに活路を見いだす――日本代表の現状を考えるなら、それくらいしか方策はあるまい。そう、日本代表は、1998年W杯(すなわち第1次岡田政権)の段階まで退歩するのである。その上で、例えばカメルーン戦0−0、オランダ戦0−1、デンマーク戦0−0なら、奇跡的にグループリーグ突破も可能かもしれない。何ともさえない話だが、それが現実である。

 事ここに至って、岡田監督に求めたいことがある。それは、これまでの信条や意地を捨てて、とにかく勝つために「あがくこと」だ。右サイドが心もとないのなら、加地亮に頭を下げて代表復帰を願ってもよいではないか。より多くのサポーターの声援を求めるなら「ベスト4」などという現実離れした目標を撤回して「まずは1勝。皆さんの声援が何よりの後押しです!」と呼び掛ければよいではないか。南アでの日本代表については、個人的には「やり切ること」しか求めていないのだが、とりわけ岡田監督には強くそれを求めたい。もはや格好や体裁を気にしている場合ではないのである。本大会開幕まで65日。初戦のカメルーン戦まで68日。残り少ない時間の中で、指揮官・岡田武史がどれだけなりふり構わず「あがくこと」ができるのか、私は密やかな期待をもって注目している。

<了>

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宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でもコラム&写真を掲載中。また、有料メールマガジン「徹マガ」(http://tetsumaga.sub.jp/tetsumaga_official/)も配信中
「徹壱の部屋」宇都宮徹壱オフィシャルWEBサイト

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