◆トピックス&コラム
宇都宮徹壱
スポーツナビ

「ギロチンマッチ」の行方 (1/2)
東アジア選手権 日本代表 1−3 韓国代表

2010年2月15日(月)

■岡田監督とホ監督の不思議な因縁

幸先よく先制した日本だったが、韓国に逆転を許し「ギロチンマッチ」に敗れてしまった
幸先よく先制した日本だったが、韓国に逆転を許し「ギロチンマッチ」に敗れてしまった【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

「ギロチンマッチ」というのだそうだ、韓国のサポーターによれば。
「ギロチン」とは、言うまでもなくフランス革命の際に発明された、処刑を効率化するための「首切りマシン」のこと。要するに、この東アジア選手権の日韓戦に敗れたチームの監督は、多分に「クビを切られる」可能性がある、という意味らしい。

 確かに日韓両国とも、現代表監督の地位が盤石かと問われれば、いささか心もとないと答えるしかないのが実情である。韓国のホ・ジョンム監督は、先の中国戦で歴史的は敗戦を喫し(何しろ1978年の初対戦以来、初めてのことだ)、その上、宿敵である日本に敗れたとなれば、もはや世論は許さないだろう。一方、日本の岡田武史監督は、昨年9月5日のオランダ戦以降、一度も敗れてはいないものの、ファンの不安と不満は募るばかり。その引き金となったのが、これまたスコアレスドローに終わった初戦の中国戦だった(今大会が盛り上がったのは、多分に中国のおかげである)。いずれにせよ、この日韓戦での敗残の将が、解任の危機に追いやられることだけは間違いなさそうだ。

 ところで岡田監督とホ監督、両者の経歴を比較してみると、興味深い共通点と相違点が透けて見えて、何やら妙に運命的なものを感じずにはいられない。
 岡田監督は56年8月25日生まれの53歳。ホ監督は55年1月13日生まれの55歳。ほとんど同世代ゆえに、現役時代も同時代である。ただし、岡田選手が古河電工一筋に11シーズン(80〜90年)プレーしていたのに対し、ホ選手はまだプロ化していなかった祖国を飛び出して3シーズン、オランダのPSVでプレーしている。代表でのキャリアは、岡田選手が80年から85年まで。ホ選手はもっと長く、74年から86年まで。もっとも、2人は代表選手としては、一度も対戦することはなかったようだ。

 初めて代表監督に就任したのは、岡田監督97年、ホ監督98年。だが、またしても両者はすれ違ってしまう。岡田監督は98年のワールドカップ(W杯)・フランス大会終了後に退任。ホ監督が韓国代表を率いるのは、この直後だ。しかし2000年暮れに解任。後任に選ばれたのは、02年W杯で韓国をベスト4に引き上げることになる、あのフース・ヒディンクである。岡田監督もホ監督も、自国開催となったこの大会で脚光を浴びることはなかった。
 その後、2人は数奇な運命に導かれ、再び代表監督に返り咲く。ホ監督は解任から7年後、そして岡田監督は退任から9年後の07年に、それぞれ代表監督に復帰。そして2年前に中国・重慶で行われた東アジア選手権で、両者は初めて相まみえることとなる。結果は1−1の引き分け。今回の日韓戦は、その時以来の顔合わせとなる。

■「自らの正当性」をめぐる戦い

 岡田監督にしてもホ監督にしても、いずれも国内ではトップクラスの指導者であることは間違いない。現役時代での実績も国内クラブでの成績も申し分なく、代表監督として修羅場もくぐってきている。であればこその代表監督復帰であったわけだが、その間にチームを率いてきた外国人監督の輝かしい成果や国際的なステータスの高さが裏目に出て、ファンの視線は必要以上に厳しくなっていた。確かに、気の毒といえば気の毒な話である。が、サッカーが常に進歩を求められていることを考えるなら、7年前や9年前の代表監督が再び指揮を執ることに、ある種の「退歩」を感じてしまうファンが一定数、存在するのはやむを得ないことだろう。

 そこで岡田監督である。その心情を察するならば、韓国も破るくらいの力を持った中国に、コンディションが整わないこの時期に引き分けただけで、なぜこれほどたたかれるのか理解に苦しんでいるのではないか。現状での日本の目標は、南アフリカで好成績を残すこと(あえて「ベスト4」とは言わないが)。しかし、だからといって目の前の日韓戦に負けてよいはずもない。むしろ目前のライバルを打倒して「自らの正当性」を証明するしかないくらい、状況は切迫している。「ギロチン」は大仰すぎるにしても、岡田監督にとって(そしてホ監督にとっても)この日韓戦は、まさに自身が南アにたどり着くための分水嶺(ぶんすいれい)となる一戦。だからこそ、どちらも決して負けるわけにはいかない。

 かくして日本のスターティングイレブンは、必然的にテスト度外視の「鉄板」な陣容となる。この日、岡田監督が選んだメンバーは以下の通り。
 GK楢崎正剛。DFは右から内田篤人、中澤佑二、田中マルクス闘莉王、長友佑都。MFは守備的な位置に遠藤保仁と稲本潤一、右に中村憲剛、左に大久保嘉人。そしてFWは岡崎慎司と玉田圭司。思わず「岡ちゃん定食」と命名したくなるくらい、代わり映えのしないメニュー、もとい顔ぶれである。1月の合宿スタート時で「チームをベースアップさせる」と宣言しながらも、結局のところ少数精鋭でチーム作りをせざるを得ず、小笠原満男や平山相太といった新戦力にも信を置くことができない。それが、この3週間にわたる合宿で、岡田監督が出した結論だったようだ。

 それでも聖地・国立という舞台で、久々にスタンドを埋め尽くした観客を前に(公式発表4万2951人)、宿敵韓国を打倒できるのであれば、何も文句は言うまい。監督のクビを懸けたこの「ギロチンマッチ」。見事に返り討ちにして、敵将に引導を渡すことができたなら、ここ3試合でのストレスを一気に払拭(ふっしょく)することさえ十分に可能だったはずだ。しかし何たることか、実はギロチンの刃はこちらの方に向いていたのである。

 <続く>


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