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宇都宮徹壱
スポーツナビ

第3回「カミカゼ・サッカー」への不安(9月5日@エンスヘーデ) (2/2)
宇都宮徹壱のオランダ日記

2009年9月6日(日)

■残り20分をどう戦うべきか?

ベンチスタートの本田は後半開始と同時に投入されたが、見せ場を作れなかった
ベンチスタートの本田は後半開始と同時に投入されたが、見せ場を作れなかった【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

 この試合については、おそらく多くの方がすでに映像でご覧になっていることだろう。ゆえに今回は、試合後の岡田監督の会見をなぞりながら、試合のポイントとなる部分をあらためて振り返ってみることにしたい。

「日本の場合、個々としてではなくチーム全体として戦っていくことがどうしても必要ということだったんですが。(中略)ある程度、攻撃のビルドアップはできると。あとはゴール前での最後のところでスピードを上げることをトライしていかないといけない」

 前半の日本は、はるか格上のオランダに対して互角以上の戦いを見せていた。その要因を挙げるなら、前線から積極的なプレッシングをかけていたこと、セカンドボールをかなりの確率で奪取していたこと、攻守の切り替えが早かったこと、そしてスルーパスやサイドチェンジがよく通っていたこと、などが挙げられよう。前半終了間際には、相手に攻め込まれる時間帯もあったが、中澤と闘莉王のセンターバックコンビを中心に、守備的MFやサイドバックも的確にフォローに入り、事なきを得ていた。
 しかし一方で、シュートレンジでの精度の悪さ、そして思い切りの悪さは相変わらず。また、両サイドを個の力で突破できず、逆にピンチを招くシーンも見られた。前半、0−0で折り返したのは「上出来」と見ることもできるが、逆に「せめて1点、何とかならなかったか」というくらい、少なからずチャンスがあったのも事実である。

「玉田は決して悪かったから代えたわけではないです。本田のテストをしたかったというのがひとつありました」

 前半45分の「確認作業」にある程度の手応えを感じた岡田監督は、後半開始時点で本田をピッチに送り込む。本田が左MF、そして岡崎が玉田に代わってトップに押し出される。このメンバー変更は、おそらく既定路線だったのだろう(残念ながら本田は、ほとんどアピールできなかった)。対するオランダは、19分までに4枚のカードを切ってくる。うち1枚はGKだったが、中盤の活性化という目的は明白であった。次第にスタミナ切れを起こすようになる日本に対し、オランダは生きのいい選手、それも普段ヨーロッパで活躍している選手たちが続々と送り込まれるのだから、たまったものではない。後半24分、ついにコーナーキックからファン・ペルシの左足がさく裂、オランダが先制する。

「崩されたわけではないけれど、どうしてもボールに詰め切れずにやられてしまうというのは、これは起こり得ることなんだなと」

 その後、後半28分にはスナイデルが、42分には途中出場のフンテラールが、いずれも目の覚めるようなシュートやクロスから鮮やかにゴールを決めて、試合の行方を決定付ける。結局のところ、日本の頑張りは70分間が限界であった。

「その前にどこかで(先制点を)入れられていたら、もっともたなかったと思いますし、コーナーキックのこぼれ球から点が入らなかったら、もっともっていたかもしれないです。まあ、90分持たないということだけは、大体予想がついていました」

 指揮官はそう語っているが、いずれにせよハイプレスを続けることによる、体力、気力、集中力の限界が70分前後に起こったのは、必然と見てよいだろう。では、残り20分を日本は今後、どう戦っていくべきなのか。岡田監督の結論は、はっきりしている。

「それ以外にわれわれが、目標(W杯ベスト4)を達成する道はないと。あれではもたないから、戦い方を変えるのではなくて、もつようにする。それだけです」

■精神力に依拠することの危険性

 ここで私は図らずも、オシム前監督のこの言葉を思い出す。
「選手は機械ではない。人間なのですよ」
 会見で発せられた言葉を、ことさらあげつらうことは、もともと本意ではない。それでも私には、この岡田監督の発言が「90分間、プレスをかけ続けられるマシンになれ」と選手に要求しているように聞こえて仕方がないのである。
 もちろん日本の現有戦力と、W杯本大会までに残された時間を逆算するならば、そのような答えが導き出されるのも、ある意味仕方のないことなのかもしれない。しかしながら、日本サッカーの進む道は、果たして選手が「マシンになること」なのだろうか。

 当の選手の言葉にも、耳を傾けてみるべきであろう。中村憲は「やみくもに(プレスに)行くんじゃなくて、向こうのセンターバックのボール運びを見て、自分が『行ける』と思ったときに行って、それを周りが連動して、というのを何回できるかだと思う」と、状況に応じた判断の必要性を語っていた。至極、当然な話だと思う。
 玉田は「前半のようにプレスをかけていれば、それほど差はないと思った」としながらも「ハイプレスのまま90分間プレーすることは難しい。行けるときは行って、休むときには休むようなメリハリを付けていかないと。それが日本の特徴でも、難しいものは難しい」と、偽らざる気持ちを吐露している。これまで、FWのレギュラーとして起用し続けてきた選手から、このようなコメントが発せられたことについて、指揮官はどのような判断を下すのだろうか。いささか気になるところではある。

 気になるといえば、もうひとつ。オランダが最終的に5人の選手交代をしたにもかかわらず、日本は本田と興梠慎三の2枚のカードしか使わなかったことが、どうにも気になって仕方がなかった。相手に押されまくっているのなら、中盤でフレッシュな選手を起用するとか、あるいは違ったタイプの選手(たとえば前田遼一)を試すとか、そういう判断はなかったのだろうか。この点について、なぜか会見で質問が出なかったので、久々に岡田監督に直接問うてみることにした。その答えは、こうである。

「今回、テストというのは戦い方以外では本田くらいで、ほかの選手はほとんど分かっていますので(中略)。それと闘莉王はちょっとへばっていましたが、それ以外、交代しないといけないくらい悪い、ということはなかったので(以下略)」

 この言葉を、私なりに解釈するとこうなる。すなわち、今後の日本代表は「90分間マシンのように戦える選手」を少数精鋭で鍛えていく――と。だがこれでは、まるで特攻隊の錬成のようではないか。仮に、そんなチームが完成した暁には、きっと諸外国から「カミカゼ・サッカー」と恐れられることだろう。序盤からペース配分など考えず、鬼気迫るプレッシングをかけ続け、体力が尽きたら日本男児の敢闘精神で戦い抜く。確かにサッカーの世界でも、時に精神力が必要であることは認める。しかしながら、それに依拠しすぎるとロクな目に遭わないことを、私たちは過去の歴史から学んでいるはずだ。

 今回のオランダ戦では、現状の日本の課題のみならず、指揮官が目指すサッカーの本質もあらわになった。もちろん岡田監督とて、実は会見での発言とは裏腹に、密かに軌道修正を模索しているのかもしれない。しかしながら、もしこのまま科学的な裏付けのない「精神論」を本大会まで追求しようというのであれば、今日のスコア以上に、ただただ打ちひしがれるばかりである。はっきり言おう。もしも日本が本当に「カミカゼ・サッカー」を指向するのなら、それはすなわち「未来を放棄する」ことと同義である、と。

<8日に続く>

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宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でもコラム&写真を掲載中。また、有料メールマガジン「徹マガ」(http://tetsumaga.sub.jp/tetsumaga_official/)も配信中
「徹壱の部屋」宇都宮徹壱オフィシャルWEBサイト

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