◆トピックス&コラム
宇都宮徹壱
スポーツナビ

寂しき凱旋試合 (2/2)
W杯アジア最終予選 日本代表 1−1 カタール代表

2009年6月11日(木)

■日本の課題は「ソリューション」か?

行き詰ったときの状況の打開には、松井(左)や本田のような選手も必要になる
行き詰ったときの状況の打開には、松井(左)や本田のような選手も必要になる【Getty Images】

 終わってみれば、何とも寂しき凱旋試合となってしまった、今回のカタール戦。日本が“自分たちのサッカー”をやらせてもらえなかった原因は何だったのだろう。遠征の疲れによるものか。予選突破によるモチベーションの低下か。それとも、スタメンの顔ぶれが変わったからか。いずれも、何らかの影響を与えていることは間違いないだろう。
 それでは、日本が2試合続けて“自分たちのサッカー”ができなかったのは、なぜか。この問いに対しては、先に挙げたエクスキューズは、いずれも当てはまらないだろう。むしろ、もっと根源的な部分に問題があったように思えてならない。ここでヒントとなりそうなのが、この2人のコメントである。

「ボールをつなぐことに急ぎすぎている感じがした。もっとゆっくりつないで、相手がバテるのを待ってもいい」(松井)
「代表のサッカーは、基本的にボールを回すサッカーという印象だけど、それがはまらなかったときの打開策が少ないように思う。(パス回しの)質を上げるのも大事だけど、試合の流れを変えるとか、そういう役割を担う選手も必要」(本田)

 松井も本田も、ヨーロッパでの実績を持ちながら、現在のチームではレギュラーポジションを獲得していない選手である。そして両者とも、的確なパスワークよりも、むしろ挑むようなドリブルや強引なミドルシュートを得意とする“異端”の存在だ。もっとも2人とも、この試合で特段に優れたプレーを披露したわけではないが(それでも限られたプレー時間の中で、それぞれ2本のシュートを放っている)、ある意味、チームの問題点をベンチから客観的に見据えていたのではないか。ミスが続くのなら、あえてゆっくりパスをつないでみる。ポゼッションができない展開になったら、いつものやり方に拘泥するのでなく、流れを変える選手を投入してみる。そうした柔軟な発想が、実は今の日本代表には不足しているのではないか。

 さらに客観的に日本を見つめていたのが、カタール代表を率いていたブルーノ・メツ監督である。イスラム教を信奉するフランス人指揮官は、今日の引き分けでW杯への夢を断たれたものの、将来性豊かな若いチームの健闘に大変満足した様子。その上で、日本の問題点について「日本はプレスをかけられたとき、そして相手に仕掛けられたときに対抗できない。テクニック的には問題ないが、ソリューション(問題解決)の部分に改善の余地がある」と、何とも耳の痛くなるような指摘をしている。

■あらためて日本の「世界ベスト4」を考える

 ちなみに、この時のメツ監督への質問は「日本はW杯ベスト4を目指しているが、その実力があると考えるか」というものであった。そこで最後に、かねてより岡田監督が目標として掲げてきた「世界ベスト4」について、しばし考察してみることにしたい。
 実は私は、この「世界ベスト4」に、これまでずっと懐疑的だったために、あえて言及を避けてきた。だが、予選突破を果たしてからは、メディアも、そして監督自身も、声高に「世界ベスト4」を連呼するようになり、さすがにこの問題に背を向け続けるわけにはいかなくなった。あらためて、過去5大会の「世界ベスト4」を確認してみたい。

2006年(ドイツ大会):イタリア、フランス、ドイツ、ポルトガル
2002年(日韓大会):ブラジル、ドイツ、トルコ、韓国
1998年(フランス大会):フランス、ブラジル、クロアチア、オランダ
1994年(米国大会):ブラジル、イタリア、スウェーデン、ブルガリア
1990年(イタリア大会):西ドイツ、アルゼンチン、イタリア、イングランド

 こうして見ると「世界を驚かせた」チームは、意外と少なくないことに気付かされる。02年の韓国と94年のブルガリアは、それまで本大会では1勝も果たすことはできなかった。トルコも、今でこそ中堅以上と目される存在だが、02年大会は48年ぶりの本大会出場であり、まったくのダークホース。クロアチアにいたっては(旧ユーゴスラビア時代のメンバーが残っていたとはいえ)初出場であった。であるからして「世界ベスト4」は列強のみに許される特権ではないし、極論するなら、来年の日本が本大会で大化けして、この“ダークホース枠”に滑り込む可能性も「決してゼロではない」とも言えよう。
 ただ、ここで留意すべきは、これらダークホースが大会前から「世界ベスト4」を目指していたわけではない、という事実である。ホスト国であった韓国でさえ、大会当初は「まずは1勝」「何とかベスト16」というのが当面の目標だったと記憶する。

 つまりこういうことだ。確かに過去において、アウトサイダーが「結果として」世界を驚かせたことはあった。しかしながら「有言実行で」世界を驚かせようとする日本の場合、その根拠となるものが現時点ではまだまだ希薄であると言わざるを得ない。もちろん、大会が始まってから瞬間風速的にチームが勢いづくことは、十分に考えられる(02年の韓国とトルコがそうだった)。だが、今の段階から「神風」を期待するべきではない。
 と同時に、ただやみくもに己がスタイルや思想のみを突き詰めることが、すなわち目標達成の早道ということにもならないのではないか。それに付け加えるなら、もし反対意見や外部からのアドバイスに耳を封じてしまったなら、遠からず限界が訪れることだろう。

 岡田監督の「世界ベスト4」発言に対しては、正直なところ、まだまだ私は懐疑的だ。この日のような試合を見せられれば、なおさらである。それでも、否定も盲信もすることなく、できるだけ冷静に、このチームの試行錯誤を見守り続けることにしたい。
 そんなわけで次回は、敵地・メルボルンからリポートをお届けする。

<了>

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宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)。近著『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。自身のWEBサイト『徹壱の部屋』(http://supporter2.jp/utsunomiya/)でもコラム&写真を掲載中。また、有料メールマガジン「徹マガ」(http://tetsumaga.sub.jp/tetsumaga_official/)も配信中
「徹壱の部屋」宇都宮徹壱オフィシャルWEBサイト

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