コラム・会見 |
適応力の高さ際立つ「滝二カラー」でつかんだ栄冠
<決勝 久御山(京都) 3−5 滝川第二(兵庫)>
■久御山スタイルに前半の滝川第二は守備に迷い
高校サッカー界の「聖地」国立競技場で3万5000人を超える観客を集めて行われた第89回全国高校サッカー選手権大会決勝。カードは、久御山(京都)と滝川第二(兵庫)の関西対決となり、どちらが勝っても悲願の初優勝。今大会も近年顕著になりつつある実力差と地域差のない群雄割拠の傾向が出る大会になるだろうと言われてきたが、決勝のカードが決まった時点で6年連続の「初優勝校」が出ることは確定していた。
序盤にペースを握ったのは久御山。リスク覚悟で後方からつなぐサッカーに徹底的にこだわる久御山が決勝の舞台でもそのスタイルを貫くことは分かっていたが、キックオフ直後にいきなりパスを15本回して最終ラインから前線までボールを運びコーナーキックを得る。それ以後も出場停止明けで戻ってきたビルドアップ能力の高いDF山田大地と最終ラインからタイミング良くボールを引き出すアンカーのMF二上浩一を中心に久御山がボールを支配した。
対する滝川第二は、栫裕保監督が「(久御山の)プレースタイルはよく分かっていた」という通り、ボール支配されることを想定した上で守備ブロックを作り、ボールを奪ってから浜口孝太と樋口寛規の2トップに早めにボールを入れて反撃することをゲームプランとしてきた。栫監督からの指示は、「奪った後にいかに早く攻められるかというところで、守備重視じゃないんですけれど、攻めるためにまず守れ」。
しかし、前半の滝川第二は前からプレスをかけるのか、後方で守備ブロックを作るのかの判断を迷ってしまう。MF香川勇気によれば、「恐れずに前から行こうと話をしていた」そうだが、開始直後に15本もパスを回された心理的ダメージと、プレスに行ってもかわさてしまいスタミナを浪費してしまう現状に戸惑い、前半は中途半端なプレスに終始した。プレスというものは相手がプレッシャーを感じる、ボールを奪えてこそプレスと呼べるのであって、前半は久御山のディフェンスラインが余裕を持ってボールをつなぎ、久御山のパス回しでキーマンとなる二上も楽に最終ラインからパスを受けることができていた。一見すると滝川第二が試合開始から高い位置でプレスをかけていたように映るが、実は全くプレスがかかっていない状況だったと言える。
■2トップの高い決定力と「収納力」
久御山の選手の相手を引きつけながらいなす個人技や独特の間合いは、選手権レベルでは突出していたのだが、逆に彼らは一度自分の足元にボールを収める習慣があるのでワンタッチパスでのいなしは少なく、相手にとってはプレスに連動性を持たせて数的優位を作ってしまえば囲んでボール奪取しやすいチームだった。にもかかわらず、決勝での滝川第二を含めて、準決勝の流通経済大柏、準々決勝の関西大学第一が前半からブロック構築優先で引いてしまった点は、選手権で上位に勝ち残るチームの選手と言えども、個人レベルで見た時にはボールホルダーに対する寄せの甘さとフィジカルコンタクトの緩さがあることを露呈していた。
ただ、こうした現象を見ながら日本サッカー界が「フィジカルに劣る」という言葉を繰り返す原因の1つが分かった気がする。年中無休でみっちり鍛えられた選手たちでも球際の強さや粘りがなく、ボールへの執着心がないように映る。抽象的な表現で恐縮だが、1回戦から取材していて「がっつり削る」という言葉がぴったり当てはまるような選手やプレーをほとんど見なかった。何もファウルや体ごと削るようなタックルをしろと言っているのではない。それらはファウルでありラフプレーであるのでやってはいけないのだが、もしかすると戦術的に鍛えられれば鍛えられるほど、サッカーというスポーツで最も重要な1対1における球際の勝負、フィジカルコンタクトの重要性を置き忘れているのではないか。
戦術やシステム論も重要であり、チームとして勝つためには欠かせない要素だとは思うが、われわれメディアの人間も含めて何か頭でっかちに難しくサッカーを考えすぎている傾向を今一度点検する必要はあるのかもしれない。
さて、話を試合に戻そう。流れや展開に関係なく「ダブルブルドーザー」と呼ばれる浜口孝太と樋口寛規の2トップでいとも簡単に点を奪ってしまうのが滝川第二の強みの1つ。前半もその2人が1点ずつを奪い2点リードで折り返す。2トップに関してわたしが評価しているのは彼らの高い決定力とともに、「収納力」とでも呼ぶべきボールを収める能力の高さだ。
久御山と比べて滝川第二の最終ラインからのビルドアップ能力やクリアの質は落ちていたが、2トップの方向にボールが飛んでさえいけば、彼らがマイボールにしてしまう。攻撃面で見ても前線中央でボールを収めてくれるため、相手の守備陣が中央に寄りサイドのスペースが空く。この試合でも2トップが前線で起点を作りフリーで走り込むサイドハーフやサイドバックに効果的なパスを出す場面が目立っていた。チームとして2トップに頼りながらも、彼らの決定力と収納力の使い方を熟知しているという印象を受けた。
■勝因は監督の的確な指示と適応能力の高い選手たち
後半の滝川第二は、前半にあった守備面での迷いから解放され、カウンターからゴールを量産。後半9分にMF本城信晴が3点目を決め、その後、久御山に1点を返されるもすぐさま浜口のゴールで3点差。しかし、粘る久御山に2点を返されあわやとなるが、アディショナルタイムに樋口が決めてダメ押し。
前半と打って変わって勝負強さばかりが目立った後半の滝川第二だが、その要因は2つある。まずはハーフタイムにおける栫監督の的確な指示。サッカーにおいては2点リードが最も危ないというセオリーを理解した上で、「点は取られるだろうからその後、もう1回取り返せ」と失点を防ぐ、逃げ切る意識ではなく、失点してもいいから取られた後に取り返す積極的な姿勢を作り出している。久御山にとっては得点直後の失点は非常に大きなダメージで、今大会さい配を的中させてきた松本悟監督も「いけるという感じのところでさすが滝二さん」と苦笑いするしかなかった。
もう1つは、滝川第二の選手の適応能力の高さだ。MF谷口智紀は、「前半は中で修正できずに苦しい場面が続いた」と前半を振り返りながら、「ハーフタイムでしっかり話ができて、後半はあまり前から行かずにしっかりブロックを作ってやろうとなって、立ち上がりからいい入り方ができた」と語っている。これまでの試合でも試合後に栫監督に話を聞くと、「特に相手の対策は立てていませんでした」と拍子抜けの回答が多かったのだが、その背景には滝川第二の選手が試合の中で戦況を分析しながら自ら戦い方を修正できるという自信と信頼があるからだろう。栫監督が「滝二のカラー」と表したようにこうした適応能力、戦術眼の高さが滝川第二の選手の特徴である。それは、「ビデオを見て相手の切り替えが遅いのは分かっていたので、奪ってから早く攻めると効果的だというのはチーム内で話をしていた。今日はそれがうまくはまってできた」という香川の言葉に集約されているように思う。
監督やコーチからの指示やアドバイスはあったと思うが、その情報をベースにチーム内で話をし、さらにピッチ内で臨機応変に対応できるところが滝二の強さの秘訣(ひけつ)であり、「滝二カラ―」の神髄だ。久御山のサッカースタイルに苦しめられる時間もあったものの、滝二カラ―を持つ選手が11名のみならずベンチ入り20名、大会登録25名そろった総合力の高い滝川第二。決勝の勝利で「初」となる優勝を達成したとはいえ、偶然性よりも必然性の方が高く、すでに“王者滝二”の風格が漂っていた。
<了>
・滝川第二・栫裕保監督会見「中学生に勝てなかった経験が生きている」 (2011/1/10)
・久御山・松本悟監督会見「3点が今日は限界だった」 (2011/1/10)
小澤一郎1977年生まれ。京都市出身。早稲田大学卒業後、2年の社会人生活を経てスペイン・バレンシアに渡る。2006年からサッカージャーナリストの仕事を始め、以後リーガ・エスパニョーラを中心に幅広く活動。日本とスペインで育成世代のコーチ経験を持ち、指導者的観点からの執筆を得意とする。著書に『スペインサッカーの神髄』(サッカー小僧新書)。有料メールマガジン「小澤一郎の『メルマガでしか書けないサッカーの話』」(http://www.mag2.com/m/0001172031.html)も配信中。Twitterのアカウントは、@ichiroozawa |


