コラム・会見

流経大柏、本田裕一郎監督インタビュー
<3(最終)> 指導者は「しなやか」に

2008年02月13日

「昔はどこでも武勇伝ばかりだった」と、時代の変化を振り返る

「昔はどこでも武勇伝ばかりだった」と、時代の変化を振り返る 【 スポーツナビ 】


●●良い選手を作りながら、強いチームを育てる。そんな理想を実現してきた本田監督だが、最初から何もかもがうまく行っていたわけではない。変わり行く高校サッカー界の中で、節目ごとに考え方を変えてきたと言う。習志野時代には、プロ選手を多く輩出しインターハイ優勝の経験があるものの、冬の高校選手権では勝つことができなかった。しかし、勝利にこだわった7年目の昨季は、秋の全日本ユース(高円宮杯)、冬の高校選手権と2冠を達成。指導者として何を学び、どのような変化を自らに起こしてきたのか。最後に「目指す指導者像」について話を聞いた●●


■鉄拳制裁からの変化


――指導歴を教えていただけますか

 初めて教えたのは、千葉県が1973年に国体(国民体育大会)を控えたころ。私自身は教育委員会に入っていました。中学生を巡回で教えるようになったのがきっかけで、そのうち高校生を見たくなりました。1970年に赴任した市原緑は、まだサッカーの根付いていない地域の新設校だったので、最初は野球部やバスケット部から部員を集めてやっていました。当時は、自分たちが育てられたのと同じように、鉄拳制裁のやり方でした。どこでも、聞くのは「武勇伝」ばかり。それが良いものなのだと思っていました。365日休まないチームだとか、バスで遠征して、野原に泊まって宿泊代を1泊分浮かせて連戦で試合をしたりとか。あるいは、負けたらどこからどこまで走らせるとか、そんなことばかりが10年ぐらい続きました。

――鉄拳制裁の指導法から変わったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか

 だんだんと世界のサッカーを垣間見れるような時代になり、たくさんの情報が入るようになってくると「こんなことをやっていたんじゃダメなんじゃないか」と思い始めました。その当時、国内では静岡学園(静岡)がブラジルのセンセーショナルなテクニックを取り入れていたのが話題でした。私自身が静岡の出身ですし、静岡学園の監督である井田勝通さんと、夜になってはテクニックのロマンを語っていましたね。選手が目の前で「こんなことをできるぞ」とやって見せると、それだけでみんなが「うわー、すげえ」ってびびってしまう時代でした。今でこそ、どこでもできてしまうことですけれど。それで、次の学校では違うことをしたいというのもありましたし、「俺もやってみたい」と思い、1981年に赴任した習志野では、テクニックにこだわりました。ただ、公立校だったので、勝ちたい気持ちはありましたけど、今にして思えば勝ちに対する執念は結構あっさりとしたものでした。それに対して、すごかったのは布(啓一郎=当時の市立船橋高校の監督)。あの、勝ちに対する執念には勝てなかった。

 その後、2000年にこの流経大柏に来た時には、ここへ来る前から古沼貞雄先生(東京の帝京高校で黄金時代を築いた元監督)をはじめ、いろいろな方から「本田は甘いからな」と言われていましたし、私学なので結果を出さなくてはいけないという思いもあり、勝つことにこだわることにしました。ただ、勝つためにどうするのかというのは、サッカーだけじゃなくて「目標を立てて、いつまでにやり通す、そのためにどんなことをする」というのが大事。サッカーの人生は短い。30歳とか40歳になってから何をしようかということになっても、そういう物事を達成するための方法を覚えておけば、何でもやっていける。私はミーティングを非常に多くやるのですが、そういうやり方を一生懸命たたき込んでいます。


■他ジャンルの強豪校にヒントを探す


選手権決勝前日、寒風が吹きすさぶ中、練習用のマーカーを配する

選手権決勝前日、寒風が吹きすさぶ中、練習用のマーカーを配する 【 スポーツナビ 】

――考え方を変化させるというのは、難しいことだったのでは?

 そうですね。違う方法を試しても、最初はなかなかうまくいかないからストレスもたまります。でも、結構そういう「しなやかさ」のようなものは、いつも持っていたような気がします。ポリシーがないと言えばないんですけれど(笑)、良いと思ったものはすぐに取り入れたいんです。何年か前ぐらいからは、そうじゃないといけないと思うようになりました。高校選手権やワールドカップを見るたびに、世界のサッカーはこんなにしょっちゅう変わっているんだというのを感じましたから。

 また、違う種目を見るのも好きなので、ほかの高校へも勉強に行きました。初めて見たのは、能代工業(秋田)のバスケット。地方だけれども町がバスケット一色だと聞いて「なぜか」と思って、練習を見させてもらった。その後も横浜(神奈川)が甲子園で優勝したから、その練習を見てみようとか。ほかにも女子バレーボールの激しい練習に驚いたこともあったし、兵庫の西脇工業は駅伝がすごく強くて、指導者は渡辺公二さんという年配の方だというので、何が違うのかと思って見に行ったり。そうすると、練習や指導者の「色」が見えてくる。真っ赤なタイプ、真っ青なタイプ、「これが青春だ」みたいなタイプ(笑)。いろいろとあって面白い。強いチームには、規律がしっかりしているとか、練習が素早いとか、共通点もある。下手なチームを見てみるのも「何で勝てないのか」と考えるのが面白い。いつも頭にはサッカーがあるから「何か取り入れられないか」と考えますね。でも、今でも野球の監督をやってみたいと思うことがありますね。「何かできそうな気がするな」とか過信しているだけのあこがれなんだけど(笑)。

――常に自身を変えることを意識しているのですか

 今も、昨季とどうやって変えようかと、子どもを見ながら考えていますよ。今のチームを5年も見られるのであれば、それなりに昨季とつなげた変化をしたいけれど、まったく違う子たちに切り替わる。今度、選手権優勝の副賞で米国へ遠征するのですが、そこでも何か変えるチャンスが転がっているんじゃないかと期待しているんです。ずっと挑戦していたいよね。私は、死ぬ時は病院じゃなくて、グラウンドで死にたいんです。練習してたら、「あれ、先生が死んでるなあ」っていうのがいいな(笑)。指導をやっている以上、歳に関係なく、変わって生きたいね。


流経大柏高のロビーに飾られている、全国高校選手権の優勝旗。その奪い合いは、今後も日本のサッカーを支える大きな土台となる

流経大柏高のロビーに飾られている、全国高校選手権の優勝旗。その奪い合いは、今後も日本のサッカーを支える大きな土台となる 【 スポーツナビ 】

――最後に「理想の指導者」とは、どのようなものとお考えか教えて下さい

 勝たせてあげられる指導者。皆が勝ちたいのだから、普通に練習をやって家に帰るような生活をしていたら、絶対に勝てない。よく指導者の情熱とか言うけど、それを体で表しているかというのは、選手が一番分かっている。いつも一緒にいたり、けがをしたと聞けば吹っ飛んで行くとか、病気になれば夜中でも病院へ連れて行くとか、そういうのを肌で感じられる一体感になれるほど、(指導者が)我慢できるかどうか。それは、手を挙げるとか挙げないとか、そんなレベルの問題ではありません。

 その中で、「この練習はどこかで見たな」というような練習をする指導があっていいし、いろんな練習方法の引き出しを持っている指導者もいる。頑固に「これしかやっていない」というのも、それぞれに良さはある。サッカーでも、ドカンドカンと前へ蹴るスタイルがあっていいし、テクニックだけのチームがあってもいい。いろんなサッカーがないといけない。指導者は「この人は、こういう色」と分かるのがいいですね。でも、その考え方もまた変わるかもしれない(笑)。若さの象徴と言われるエビのように生きたいね。エビは硬くなると脱皮する。人間は脱皮ができないから、歳を取ると「あっちが痛え、こっちが痛え」とか言うんだけど(笑)。でも、気持ちだけはいつも脱皮しようと思っていますよ。

●●Jリーグ誕生から15年が経つ。その間、海外から情報や人材が流れ込み、日本のサッカー界は大きな変化を遂げてきた。しかしながら、常にその土台となっているのは、若い世代の選手を教える指導者である。選手たちが見せる才能に比べると、あまりクローズアップされることはないが、その存在の大きさは今も変わらない。本田監督は取材の翌日から鹿児島へ行くと話した。理由は「Jリーグチームの練習を見たい」から。選手を育て、チームを作り、結果を生み出す。それでもなお、新たな挑戦を求め、温故知新の努力は続いていくようだ●●

<了>

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高校サッカー決勝、流通経済大柏が藤枝東を4-0で破り初優勝。表彰式で喜びを爆発させた流通経済大柏の選手たち【(C)たかすつとむ】

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