流経大柏、本田裕一郎監督インタビュー
<1> 「強いチームは強い個から」
2008年02月13日
●●成人の日、流通経済大学付属柏高校(千葉)は国立競技場で、4万8884人の観衆に強烈なインパクトを与えた。第86回高校サッカー選手権の決勝戦を4−0で制した後、その一方的に試合を支配する姿は「日本代表が目指すべきサッカー」と評する者が現れたほどだ。身長160センチ台の小柄な選手が多いものの、的確で素早いプレスと目まぐるしいパス回しで相手を翻ろうし、日本一に輝いた。チームを率いるのは、市原緑、習志野と千葉県で強豪校を作り上げた名将・本田裕一郎監督。今回は、優勝チームの話に限らず、「強いチームとは」、そして「選手育成の理念」、最後に「目指す指導者像」と3つのテーマで話をうかがった●●
■「個人のアイデアをそいでいないか」
――まずはチーム作りについてうかがいます。優勝チームは結果だけでなく内容においても、非常に「強い」という印象を与えました。本田先生が考える「強いチーム」像を教えて下さい
強いというのは、まず「個」。うまい、下手とよく言いますけど、うまい子はいくらでもいます。どんなボディコンタクトにあっても乱れない技術、あるいは個がグループになった時のメンタルの力。そういう強さが集まって初めて「強い=負けない」ということになります。
私はよく作文に例えます。ひらがなだけでも表現はできる。そのレベルが上がると、カタカナや漢字を覚える。さらに今度は、テクニックとして起承転結を覚える。サッカーでもまず、ボール(字)を自由に扱えることが大事。起承転結は、周りを見る力、ボールが来た瞬間の判断の速さ、展開力などにあたります。語彙(ごい)が豊富で知識のある人は「脳ある鷹」で見せびらかさない。本当にうまい選手は、大事な場面や勝負どころでこそギュンと抜いて行く。「持ちたい、持ちたい」と言って、足元でしかボールを持てない子もいますけど、そういう癖のある厄介者は大好きですから(笑)、一生懸命に直しながら戦っています。
――高校サッカー界は近年、平均的に組織力が高まっています。しかし、その一方で戦術が行き詰まった時に変化を見せられないチームが多く見受けられます。昨季の流経大柏は多様なシステムを用いる中で対応力も光っていました
練習でポジションを決めずにやっているので、選手はどこでも大丈夫。5対5でも「前は1枚」とか決めたりはしませんから、「俺のポジションはどこか」などということはない。ただ、試合ではボールを取りやすい布陣だけは考えます。大きなサイドチェンジをあまりしないチームだったら、逆サイドを捨てちゃおうかなとか。ボールがないとつまらないものね、追っかけているだけじゃさ(笑)。
海外のサッカーが面白いのは、ドリブルあり、ワンタッチあり、ロングボールありで、一つ一つのチームに「なぜ、その戦術なのか」と思えるから。Jリーグは皆が同じことをやっているように見えてしまう。それが高校生にも言えるのでしょう。一つのこと(戦術)にこだわって、個人のアイデアをそいでしまっているんじゃないかとも思います。ワンタッチをやっていれば、判断は間違いなく早くなる。ただ、私は「ワンタッチやツータッチは、一番難しい技術だよ」と教えていますが、どのタッチで行くかは、ゲームの中で選手が判断すること。ワンタッチ限定の練習でも、次のパスコースを持っていなかったり、あるいは相手に囲まれて、ボールを持ってしまうことはある。そうなったら、(練習を止めるのではなくて)しょうがない、あとは自分で考えろと言う。一つのことを教える時でも、もう一つ別に自分でアイデアを出せるような選択肢を与えようといつも考えていて、なるべく教え過ぎず、与え過ぎずを心掛けています。
■グラウンドでは大きな声で「一番宣言」
――うまくいかない時でも乱れない、大舞台でも力を発揮するという「実行力」は、どのように作り上げたのでしょうか
対戦校のコメントで「1週間前から、対策としてワンタッチやツータッチをやった」とよく見ましたけど、それほど簡単なものじゃない。練習量は、ほかのチームより多いと思う。1日に3回やる日もあります。勉強を頑張って難関大学へ行く人は、寝食を忘れて勉強する。「日本代表になりたい」とか「プロになりたい」とか言うのなら、寝ずにやるぐらいの気持ちが必要。だから、サッカーに関して手厳しく怒ることはほとんどありませんけど、怠けていたり、やっていない選手には怒ります。リフティングでも「他人が4回やるなら、俺は8回やってみせるぞ」という練習をしなさいと。飽きて集中力のない子は、直さないといけませんから。
メンタリティーは徹底してやりました。でも、地獄のようなフィジカルトレーニングを毎日やっているわけじゃないし、肉体的にボロボロにする根性論ではありません。目標を書かせて、目に触れさせて、口に出させた。あの子たちは、そういったトレーニングを2年やりました。グラウンドでまず、みんなにあいさつをして、名前を名乗って「宣言」をして、よろしくお願いしますと言って練習が始まる。“もじもじ君”は、やり直し。自分が何の一番になりたいのかを大きな声で言う。「ドリブルの日本一」とか「キックの日本一」とか。中には「掃除の日本一」とかもいるんですけど(笑)。そういうのを堂々と言ううちに、羞恥(しゅうち)心がなくなって、自分の思っていることを言えるようになります。だから、インタビューも私より選手の方がうまいと言われる(笑)。
でも、高円宮杯優勝の後、チームの状態はどん底でした。選手権初戦の久御山(京都)戦は、「前半は0−0でいいからな」と気を楽にさせて、相手も個々はすごくいいけど、判断は絶対にお前たちの方が速いから大丈夫だと言って行かせました。それなのに、先に1点を取られてしまった。ただ、選手の顔色を見たら飄々(ひょうひょう)としていた。あのどん底の状態で、なんで選手が落ち着いていたかと考えると確証はないんですけど、例年と違うことでやってきたことと言えば、メンタル面のトレーニングかなと思います。
<「選手育成の理念」編に続く>




