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中田徹 スポーツナビ

中田徹の「オランダ通信」
紙一重の狂気の中で(1/2)

2004年10月29日

オランダサッカー史において、トラウマとなっているADOサポーター
オランダサッカー史において、トラウマとなっているADOサポーター【 Photo:PICS UNITED/AFLO 】


■イングランドのスタイルを敬愛するオランダ人


 たったひとつ、記憶に一番残るスタジアムを挙げろと言われればためらうことなく、20年近く前に一度だけ行ったボカのホーム、ラ・ボンボネーラを挙げる。急傾斜のスタンド。ゴール裏の哀調帯びた応援歌。バックスタンドで僕のすぐ後ろで座った背広で決めた老人がレフェリーの判定に大きな野次を飛ばす。「ボルード!」―ー単に「バカ野郎!」ではすまない品のない言葉。老人の隣では孫娘が行儀よく座っていた。試合は荒かったがエモーショナルな雰囲気、空の青さも含めてすべてが熱く美しい思い出だ。当時より危険なのは知っている。それでも死ぬまでにまた一度行ってみたい。

 オランダ人の多くはきっと、イングランドのスタジアムを挙げるだろう。オランダ人のイングランドサッカーへの敬意はものすごく高い。FCユトレヒトのゴール裏、ブニックサイドにあるサポーターズバーは完全に英国パブ調で、「俺たちの応援はプレミアをまねしているんだ」と胸を張る。
 オランダのクラブがイングランドへ遠征すると、たとえ下部クラブとの練習試合でもその施設の雰囲気の良さに、思わず選手もうっとりするという。

 ADOデンハーグサポーターのお気に入りはミルウォールだ。リバプールやアーセナルといったビッグクラブではなく、小さいながらも札付きの悪たちが応援するやばい臭いのするチーム。それがかっこいいらしい。
 普段の試合でもミルウォールのホームゲームはものすごい数の警官がいる。

「その数は俺たちがアヤックスと試合をするときより多いらしいぜ。かっこいい!」
「でさあ、何か特別な警備をするときにはキチンと情報がサポーターに回ってくるわけ。当然ポリ公の中にはミルウォールを応援しているのがいるからね!さっすが〜」
「俺、ロンドン行ったときにミルウォールの試合を見たわけよ。で、俺がサポーターたちに『オランダから来ているんだ。俺、ADOってチームを応援してるんだ』って言ったら、『ああ、ADOか。結構サポーターが頑張っているらしいじゃないか。知ってるぜ』って言ってくれたんだ」
「うそ! ミルウォールのサポーターが俺たちのこと知ってるの!? 認めてもらえてうれしいなあ! やった〜」
 一時こんな会話がネットで飛び交っていた。


■オランダサッカー史のトラウマ、ADOサポーター


 そんな彼らは、オランダサッカー史にとってトラウマになっている。
 もう10年以上も前のサッカー場の雰囲気を友人は振り返る。
「俺はPSVをサポートしていたが、ちょっとビールでも飲みながら気軽にサッカーを見たいな、というときにはワーヘニンゲン(すでに破産)に行っていた。しかしADO戦だけは警備がものものしくちょっと気軽にサッカー、という雰囲気ではなかった」

 2002年10月3日、UEFAカップ1回戦でFCユトレヒトとレギア・ワルシャワが対戦。この試合でユトレヒトのキャプテン、ワーペナーの必死の制止もむなしく、両チームのサポーターが試合中入り乱れて大乱闘。これでユトレヒトはUEFA(欧州サッカー連盟)から処分を受け、翌2003年のUEFAカップでユトレヒトはゼリナとのホームゲームを観客無しの無人試合で行わなければならなくなってしまった。

「あいつらは狂っている」
 とFCユトレヒトのサポーターはいまいましげに振り返る。
「ADOデンハーグのサポーターたちが、裏でレギアのサポーターと連絡を取り合い、レギアサポーター向けチケットを入手。奴らがあおって俺たちとけんかを始めたんだ。9月18日に行われたチャンピオンズリーグ、フェイエノールト対ユベントスでもADOの連中はユーベのサポーターから応援席のチケットを入手。しかし警察がこの動きを事前に察知し、奴らのチケットを取り上げた。だから試合中暴動は起きなかった。俺たちは運が悪くADOの連中にハメられた。フェイエノールトは運がよかった」

 1992−93シーズン、ADOデンハーグの1試合平均観客数は1179人まで落ち込んだ。デンハーグはオランダ3番目の都市で、宮殿や大使館がある政府関係者、外交官、エリートたちの集まる町だ。しかし(オランダとしては)大都市というのは貧富の差を生む。オランダが不景気の時代、デンハーグの労働者は失業にあぶれ、町の治安が一気に悪くなった。もともとADOのサポーターは血の気が荒かったが、さらに失業者たちがそのうっ憤をサッカーにぶつけ始め、ホーム、ザウターパルクはとてもホワイトカラーが立ち寄れるような雰囲気ではなかったという。

 デンハーグ市の行政はオランダ第4の都市にあるFCユトレヒトが完全にユトレヒト市のシンボルになったのを見て、ADOデンハーグをこれに生かせないかと考えた。そのためサポーターの悪名高いザウターパルクに変わる新スタジアムを作ることに決め、その完成を2005年の夏と決めた。だからADOは2005年のシーズンに向けて2部から1部に上がるべく、若手選手中心でチームを作り変え始めた。そのときのエースが現フェイエノールト、オランダ代表のカステレンだ。

 2002−03シーズン、ADOデンハーグが2部リーグで優勝し1部昇格を決めたときにはオランダ中が困った顔をした。オランダリーグの他チームは、「ADOと試合をすると警備が余計にかかる」「セキュリティーが心配」と不安をもらした。アヤックスは昨シーズンの決算でチケット収入が下がったが、それはチャンピオンズリーグで早々に負けたからだけではなく、ADOデンハーグとの『危険試合(クラブカードホルダーにしかチケットを売らず、当日券も売らない)』が1試合増えたのも理由のひとつだ。


<続く>

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