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川本暢の「欧州サッカー徒然的視線」
フランスのスタジアムに抱かれる「幸福」と「憂鬱」(前編)



ユーゴスラビアとの親善試合が行われたこの日、スタッド・ド・フランスは幸福感に包まれた【Photo by 川本暢】
■ジダンやマケレレの光に隠れていた影の選手たち


「私たちは無名な存在で、砂漠にとって二粒の砂が無名であるように、あるいはむしろ、海にとって、となりの波のなかに崩れて消える二つの波が無名であるように、無名の存在なのだ」(ジョルジュ・バタイユ『内的体験』)

 私がこれから話題にしようとする選手は、リヨンの中心選手エリック・カリエール(29歳)とオセールに所属するオリビエ・カポー(22歳)である。12月20日に行われたユーゴスラビアとの一戦で、彼らはスタメンに名を連ねた。カリエールは先制点と追加点を、カポーはだめ押しとなる代表初得点を挙げる。この試合で、カリエールの味方を生かすポジショニングや積極的な攻め上がり、さらにカポーに至っては、攻守に及ぶ活躍で、彼の将来性を大いに感じさせた。フランス代表やフランスリーグのファンの読者には、当然知られている彼ら。だから「無名」というには失礼かもしれない。したがって、冒頭で挙げた「無名」とは、つまり「発展途上にある選手」という意味だ。

 夜の闇(やみ)が次第に朝の光に奪われていくように、太陽の光線が街を照らし出した。12月20日のパリの朝、部屋の窓から空を見上げれば、鮮やかな青色の風景が目に飛び込んでくる。フランス代表にとって今年最後の試合であるユーゴスラビア戦を見るために、私はパリに足を運んだ。代表の試合やカップ戦などの決勝戦が行われる聖地スタッド・ド・フランスへは、先のワールドカップの壮行試合、ベルギー戦以来の訪問となる。

 サン・ポール駅にある知人宅から地下鉄1号線で、まずシャンゼリゼ・クレマンソー駅に行く。そこから13号線に乗り換えてポルト・ド・パリ駅で下車する。競技場近くには、3つの駅(それぞれ別の路線)があるのだが、ポルト・ド・パリ駅からスタジアムまで徒歩5分位で、駅の階段を上って長い橋を歩いて進むと、球技場の美しい外観が視界に入ってくる。ロケーション的にも、私はこの道順が一番好きだ。

 ゲートを通過して一気にスタンドに足を踏み入れる。目指す場所は、メーンスタンド正面のハーフウエーライン近く、前から6列目の座席だ。親善試合ということもあってメーンスタンドの2階から3階にかけて空席が目立つ(満員で8万人だがこの日は6万人)。


■フランス代表、少し早いクリスマスプレゼント


 今回のフランスのシステムは4−2−2−2で、けがで欠場したビエイラのところにはプティ、さらに中央にいたジダンの場所にカリエールとカポーを置き、FWはアンリとマルレのツートップ。試合開始の笛がスタジアムに鳴り響いた20時45分、フランス代表は初めから攻撃的な姿勢を見せた。右サイドバックのテュラムは、敵陣ゴールライン近くまで何度も攻め上がる。あるいはテュラムが、ペナルティエリアライン前の中央に切り込んで行くと、カリエールが右エンドライン側に開く。さらに、カリエールのエリア内への飛び出し。そして、マルレの右ゴールライン沿いからのセンタリングには、カポーやアンリが頭で合わせる。まさにオーガニゼーション(組織的な動き)という言葉がぴったりと当てはまる連携だ。12分にフランスが挙げた先制点は、この流れの中から生まれた。テュラムがドリブルで中央に入ってくる。その瞬間、カリエールがディフェンスの裏に走り込む。テュラムはこの状況で、ボールをカリエールの足下にスルーした。危険を察知したユーゴのCBクルスタイッチが詰め寄るが、カリエールは彼を振り切って右足でゴールを決める。

 カリエールの特徴は、ボールタッチの柔らかさとキープ力にある。2、3人のDFに囲まれても、ボールを奪われない。カリエールがボールを持つと、ちょうど駒(こま)が同じ点で回り続けるように、自分はキープした場所から移動しないで、DFだけが彼の周りをあちこちに動く。キープしたボールを味方に渡すと、スタジアムから拍手が沸き起こる。ちなみに彼の経歴は面白く、横尾愛氏のコラム「悲観主義から立ち上がるにはリヨンを見よ」に詳しく書かれているので一読を。

 0−1で後半に入った50分、またしてもカリエールによってゴールネットが揺らされた。プティが2人のDFの間にドリブルで侵入する。クルスタイッチのクリアし損ねたボールをカリエールが倒れながらシュートする。この追加点で、ユーゴの選手たちとベンチのさい配は“勝負”から、“ひとつの親善試合をそつなくこなす”姿勢に変わってしまう。

 カポーが70分に挙げた得点は、彼らしいプレーだった。185センチという長身は、信じられないくらいのレスポンス(ボールへの反応速度)を持つ。まずマルレのシュートがクリアされ、次ぎにアンリがボールに絡む。この混戦状態の中、カポーがスライディングしながらボールをネットにたたき込む。あまりにゴールエリア内で両チームの選手が入り乱れるので、最初だれがゴールを決めたのか分からないほどだった。

 2列目を務めるカポーは、これまでに見たことがない新たなスタイルを持ったMFになる可能性大だ。なぜならば、積極的に攻撃に参加し強いシュート力を持つだけでなく、守備力に優れているからだ。まるで、ボランチのように前線で相手の攻撃を遅らせる。

 この日のフランスの3−0の勝利は、カリエールとカポーの活躍にゆだねるところが大きい。もし、カリエールに足りない部分があるとすれば、粘り強いディフェンスにもっと注意を払うことだろう。一方、カポーはシュートの正確さが要求される。それでも、彼らのプレーは、フランス代表とサポーターにとって今年最後の試合を飾った、少し早いクリスマスプレゼントになった。

<後編に続く>
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