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nakata toru 西部謙司



西部謙司の欧州旅日記(アムステルダム編)
小さなオランダ・大きなアヤックス



今のアヤックスが欧州無敵を誇った時代を取り戻せるかどうかは、個の力の変革にかかっている【(C)Getty Images/AFLO】
■“ポケットプレーヤー”を前線にそろえた時代遅れのローマ


 とにかく寒い。零下9度と言う人もあり、冷凍庫に放り込まれたようなものだ。慣れているはずのオランダ人も、さすがに襟をかき合わせたり手をこすったりと、いかにも寒そうである。アレナがドームスタジアムなのが、唯一の救いであった。

 アヤックス対ローマ、UEFAチャンピオンズリーグ2次リーグ第2戦。実は両者がヨーロッパカップで顔を合わせるのは、これが初めて。ローマはオランダのチームとの対戦自体が33年前(対PSV)。一方のアヤックスはイタリア勢との対戦経験は豊富で、3大カップ(チャンピオンズカップ、カップウィナーズ、UEFA)の決勝だけでも6回対戦し、4勝2敗と相性も悪くない。しかし、アヤックスは看板選手のファンデルファールトのけがを筆頭に、キャプテンのキブーとガラセックが出場停止。レギュラーの半分以上がプレーできず、クーマン監督はもともと若いこのチームに、さらに若い選手を投入する決断を迫られた。「経験はないが、野心のあるメンバー」(クーマン監督)が、「強力な中盤と守備のアートを持つ」ローマにどこまで対抗できるかが、ゲームの焦点だった。

 ところがフタを開けてみれば、アヤックスが10分で先制。さらに後半から入ったベテラン、リトマネンがビューティフルゴールを決めて2−0。ローマの反撃をバティストゥータの1点に抑えて快勝した。4−3−3のアヤックスは、オランダらしい正確でテンポの早いパスとテクニックで完全にペースを握り、生き生きとフィールドを支配した。クライフェルトやフィニディらがいた無敵の時代と比べるといかにも小粒だが、依然アヤックスらしさは残っていた。

 一方のローマは実にひどいプレーぶりだったと言わざるを得ない。カフー、サミュエル、エメルソン、トッティ、カンデラと、名前だけならローマ圧勝のはずだが、リーグ戦ではすでに優勝戦線から脱落、CLでもホームでアーセナルに惨敗し、アヤックスに敗れたことでCLもがけっぷちに立たされたことになる。トッティとカッサーノの2トップは、2人ともDFを背負って足元でボールを受けようとするだけで、全く攻撃にスピードがない。こういう裏を狙えない、1人でフィニッシュへ持ち込めないタイプのストライカーは“ポケット・プレーヤー”と呼ばれ、もはや時代遅れのFWと言われているのだが、ローマの2トップはまさにそれだった。トッティもカッサーノも、本来はトップ下の選手。モンテッラやバティがいるのに、この2トップという選択は疑問だった。さすがに後半途中からモンテッラとバティを投入するが、攻撃は単調な放り込みばかり。アヤックス守備陣を崩せずじまいであった。最後まで何をしたいのかはっきりしない状態に終わってしまった。


■個の力が“小さなオランダ”から“大きなアヤックス”へ変えていく


 ローマがあまりにも不甲斐(ふがい)なかったといえばそれまでだが、アヤックスは限られた戦力ながらも持ち味を出し、リトマネンや“オランダの名波”ビチュへのリードもあって、無名の選手にもチームのコンセプトが息づいていた。ワンタッチプレー、トライアングル、パススピード、パスの方向に展開の意図を込めるなど、随所にアヤックス・イズムを堪能できた。いいチームだ。しかし小さな好チームであって、大きな好チームではない。この2つには大きな差がある。

 一般に、オランダのチームはプレースメントのサッカーを指向している。つまりポジションをあまり崩さず、選手の足元へ早いパスをつないでいく戦法だ。だからパススピードがないと通らないし、パスの質や受け手の体勢など細かい部分が非常に洗練されている。ところが、足元から足元へテンポよく強いパスをつなぐビルドアップは見た目は奇麗だけれども、相手ゴール前30メートルで行き詰まる。スペースがどんどん狭くなるからだ。そこで、最終的にはサイドからのクロスを点で合わせる攻撃に集約されてしまう。これはオランダ代表にも共通するオランダサッカーの特徴といえる。

“小さなオランダ”なら、ここで終わりだ。テンポのよいパス回しからピンポイントクロスの攻撃は、テンポが同じなだけ相手に“守り慣れ”が生じるのだ。そのために、パスが回れば回るほど点が取れないという事態に陥る。一種の戦術的なジレンマである。ただ、袋小路に迷い込むのは戦術概念の話であって、状況を打開するのはそれほど難しくはない。ほんの少し、テンポを変えられる選手がいれば、状況は劇的に変わり得る。ヨハン・クライフやルート・フリット、あるいは1対1で必ず相手を抜く力があった全盛時のオフェルマルスやフィニディがいれば、話は別なのだ。今はキラリと光る一粒の宝石でしかないアヤックスだが、この先“大きなアヤックス”になれるかどうかは、そうした個の力にかかっていると思う。

<了>

■西部謙司(にしべ けんじ)
1962年9月27日、東京生まれ。少年期を台東区入谷というサッカー不毛の地で過ごすが、小学校6年時にテレビでベッケンバウアーを見て感化される。以来、サッカー一筋26年、早稲田大学教育学部を卒業し、商事会社に就職するも3年で退社。サッカー専門誌の編集記者となる。95〜98年までフランスのパリに在住し、欧州サッカーを堪能。主な著作に『Eat foot おいしいサッカー生活』(双葉社)、『サッカーがウマくなる!かもしれない本』(出版芸術社)がある


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