ヴィラス=ボアスは“失敗”だったのか (1/2)
東本貢司の「プレミアム・コラム」
■アーセナル以上に悩ましい状況にあるチェルシー
チャンピオンズリーグ(CL)・ベスト16でのミラン戦「よもやの」惨敗に続いて、今度はサンダランド相手にひざを折ったFAカップ脱落――「ヴェンゲル神話」の崩壊と、ついに“進退”論議までささやかれ始めて危機感が募るばかりのアーセナルだが、同じロンドンのビッグライバル、チェルシーの場合は、むしろそれ以上に悩ましい状況にあるといえるだろう。
現地報道筋では「チャンピオンズリーグ・ナポリ戦の結果次第でヴィラス=ボアスの運命が決まる」との読みが幅を利かせている。つまり、2月21日のファーストレッグでチェルシーが敗れようものなら、そこでロマン・アブラモヴィッチ(チェルシーのオーナー)は辛抱しきれなくなるだろう、というわけだ。あるベテランジャーナリストは「アーセナル並みの完敗なら即(解任)発表。スコアが0−1の場合のみ猶予される」と、まるでブックメイカーにテーマ設定をアドバイスするかのような具体的予測を披露している。
こちらでは放送のなかったFAカップ・バーミンガム戦(先行されてやっと追いついての1−1ドロー)の現地観戦記をいくつかあさってみたところ、そこには“ため息”もののシーンがいくつか述べられていた。
いわく「ヴィラス=ボアスは明らかに何をどうしていいか途方に暮れているようだ。ずっと座り込んだままで、ゲーム終了10分前ごろになってふらりとベンチから立ち上がったが、放心したような表情でただ見つめるだけ。何かを叫ぶでも指示を送るでもない」
それ以上に天を仰ぎたくなってしまうのは、彼が途中出場の準備を整えたフランク・ランパードに何事か語り掛けている際の、背筋がひんやりするような情景だったという。
「ランパードは怒ったような表情で、監督の話にどこからどう見ても耳を傾けている様子はなく、一度として目を合わせることもなかった」
■モウリーニョとの双子のような共通項
チェルシーが誇るシニア戦士たちが、自分たちよりもほんのわずか年長に過ぎないポルトガル人監督に「信を置いていないのではないか」という疑惑は、早くからささやかれていた。メディアがそれをはっきりと口にし始めたのは、ジョン・テリーのイングランド代表キャプテンシーはく奪事件がちまたを騒がせることになった直後からだ。
要するに、ここを先途(せんど)とアネルカの中国“逃亡”(上海申花に移籍)とアレックスの移籍志願(実際にパリ・サンジェルマン移籍が実現した)を引き合いに出して、キャプテン・テリーの精神的迷走を「チームぐるみの監督不信」に結びつけようとしたのである。一部には、ギャリー・ケイヒル獲得(ボルトンから移籍)が、「気の優しい大男」のテリーを悲観させ、傷つけているのかもと、決めつけるような意見すらあった。
そもそも、アンドレ・ヴィラス=ボアスという「よく分からない」若い監督がやってきたこと自体、この十数年間チェルシーを支えてきたベテラン勢に「花道を促す」暗黙のメッセージは否定しきれるものではなかった。誰もがそれを予感した。しかし――。
たとえ皮相的に見えても、ヴィラス=ボアスの到来はジョゼ・モウリーニョ効果の再現狙いと受け止められていた。2人の共通項は、まるで双子のように数多く見いだされる。
国籍、指導者としての成功の道のり、そしてボビー・ロブソン。ロブソンの通訳担当からキャリアアップの道を歩んだモウリーニョと、ロブソンに心酔して指導者への道を志したヴィラス=ボアス(彼はまだ学生のころに、ポルト監督時代のロブソンの私邸あてに質問状を送り、実際にロブソンと会見して「見どころがある」とお墨付きを得たという)。
しかも、ヴィラス=ボアスはチェルシー就任時のモウリーニョにスタッフとして雇われる以前、ロブソンの引きでイングランドのあるマイナーなチームで短期ながら指導経験を積んでもいた。ある意味で、期待されるものはモウリーニョ以上だったとも言える。
アブラモヴィッチはそれらすべてをかんがみて「決断」したのだろう。たぶん、モウリーニョを切って以降、高給で呼び寄せた並み居る“歴戦の名将”たちの「我の強さ、付き合いにくさ」に内心でうんざりし続け、その割に成績が突き抜けない(チャンピオンズ優勝に届かない)ことに業を煮やしていたのだろう。だから、モウリーニョの「再来+αの将来性」がぷんぷんにおうヴィラス=ボアスは、めったに出会えない希望の光に映った!
ゆえに、飛びついた。だが、アブラモヴィッチは肝心な点を見過ごしていた――。
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