フェイエノールトに再び希望を与えた宮市
■宮市のプレーにオランダ人も驚がく
昨年12月31日のニッパツ三ツ沢球技場。前半を終えた時点で1−2で負けているというのに、久御山の選手たちはニコニコ笑いながらロッカールームへ引き上げてきた。
「あまりに宮市くんが異次元で、笑うしかなかった」。試合後、松本悟監督は説明してくれた。
ハーフウエーライン手前でスタートしたドリブルからのアシスト、ペナルティーエリア近辺での高速ワンツーからのゴール。宮市亮のプレーは確かに異次元だった。
あれから2カ月、中京大中京からフェイエノールトへ所属を変えた宮市が、今度はオランダ人を驚がくさせた。2月6日に行われたフィテッセ戦の試合後の記者室で「彼は“日本のメッシ”だな」とオランダ人が語りかけてきた。
「いや、彼は“日本のクインシー”(クインシー・オウス=アベイエ/現在はガーナ代表だがオランダの年代別代表でプレー経験がある)だと思うよ」と返すと、ふんっと鼻で笑われ、「メッシだよ」ともう一度念を押されるように言われた。
この試合を観戦したロナルト・クーマンは夜のテレビ番組で、「あの日本人は素晴らしい選手。スピードがあって、アクションも起こせる。見ていて楽しい選手だ」と宮市に賛辞を送った。
2月4日にオランダの労働許可証が下り、その日のうちに選手登録を済ませた宮市は、5日のポゼッション練習の前にベーン監督から「明日はスタメンだ。思い切ってやれ。楽しんでこい」と告げられ、レギュラー組に入った。
「緊張はしなかった。楽しみでしょうがなかったです」と宮市。試合前、ロッカールームを出てすぐの通路では安田をみつけ、「初めまして、宮市です」としっかりあいさつしてからデビュー戦に臨んだ。
「ああ、知ってるよ」と安田。「うちの右サイドをぶっちぎるくらい、思い切ってやれよ」。フィテッセの左サイドバックを務める安田はこう言って宮市を励ました。
安田の励ましどおり、宮市はフィテッセの右サイドバック、ファン・デル・ストライクをドリブルでぶち抜き続けた。自陣でボールを持っても宮市の第一選択肢はパスではなく、ドリブル。その思い切りの良さが60メートルを越すようなドリブル突破の連発につながった。
後半の宮市はさすがに疲れていた。「初めてこんなに疲れたぐらい」。それでもボールを持つと、ドリブルでゴールライン際まで運ぶ力は残していた。
試合終盤にはファン・デル・ストライクが背後のスペースと味方の位置を確認しながら慎重に宮市のマークについた。少し遅れてもう1人マーカーが宮市に寄ってきた。するとさすがに宮市もボールを下げようとしたが、それはあくまでフェイクのアクションで、宮市は外へ逃げながら大回りでサイドを突破し、クロスを放り込んだ。
昔から組織プレーより個人の能力を生かすサッカーをするフェイエノールトは、宮市にとってやりやすいのだろう。さらにオランダサッカーは若い選手のチャレンジをしっかり認め、ミスを許す土壌がある。結局ベーン監督は3枚の交代枠を宮市以外で使い切り、最後まで宮市の一発に賭けた。
「大きなポテンシャルを持っている。ボールを持っているととても危険な選手だ。攻守の切り替えもしっかりしている。ハードワークもいとわない。見ていて楽しい選手だ」(ベーン監督)
試合は1−1で引き分けた。
■安田「さすがアーセナルから来たというだけの存在感」
宮市がサイドを変えてきたため前半15分ごろまで頻繁にマッチアップした安田は、「おれが上から言うのもなんですが、今日やってみてすごいいい選手やなと思いました。さすがアーセナルから来たというだけの存在感があった。今日は両チーム合わせてトップを争うぐらいのパフォーマンスをしていたと思います」と実際に肌を合わせての感想を語った。『デ・テレフラーフ』紙は宮市にフェイエノールトでトップの6.5を与えた(安田もチーム内トップタイの6.5)。もうひとつの全国紙、『アルヘメーン・ダッハブラット』紙は大きな見出しで「Ryoはフェイエノールトに再び希望を与えた」、中見出しで「日本のティーンエージャーは、プロ選手として最初の試合で華麗なプレーを見せ、誰をも驚かせた」と打った。
試合後の宮市はフル出場に「うれしいです」と第一声。しかしすぐに「ただ引き分け。先制点を取って勝てる試合だったと思う。チームの勝利に貢献できるようなプレーをしたかった。特に前半に決定的なチャンスでシュートを空振りした。そういったところだったり、トラップだったり、そういう細かいプレーの精度を上げていかないといけない」と反省を口にした。
後半には左コーナーキックを蹴ったがミス。「もう蹴るキッカーがいなくて、僕が蹴ったんですけど足を滑らせてしまった。そういうところでも細かいところを磨いていかないといけません」と語った。
こうした宮市の言葉どおり、パス、クロスなどはまだまだ課題が残っている。高校選手権の久御山戦でも実力こそ存分に発揮したものの、後半決めるべきところで何度かシュートを外し勝負を決することができず、終盤にはセンターFWにコンバートされたもののボールタッチが極端に減ってしまった。しかしこうした課題に目をつぶりたくなるほど、宮市のスケールの大きさはずば抜けている。
宮市はまだ荒削り。だが今はいじらず、いいところをどんどんすくすくと延ばしてほしいと願わずにいられない逸材だ。フェイエノールトなら宮市の長所を引き出す指導をしてくれるだろう。
「自分の得意としているスピードに乗ったドリブルは通用したので、もっと打開してチームの勝利に貢献できるように頑張っていきたいと思います」と手ごたえを感じつつ、今後の抱負を語った。
<了>
中田徹1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。メキシコW杯を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。2002年、06年、10年ワールドカップ、ユーロ2004、08をはじめ、オランダリーグのコラムなどをリポートしている |
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