コラム    
林雅人&川本梅花
スポーツナビ

内田篤人が出したラウルへの1本のパス (1/2)
シャルケで奮闘するサイドバックを徹底分析

2010年12月13日(月)
サイドバックとしての内田の攻撃面と守備面のプレーを分析する
サイドバックとしての内田の攻撃面と守備面のプレーを分析する【Bongarts/Getty Images】

 欧州チャンピオンズリーグB組ベンフィカ対シャルケ04(以下シャルケ)の試合が12月7日、リスボンにあるエスタディオ・ダ・ルスで行われた。周知の通り、試合結果は、シャルケがフラードらのゴールで2−1と勝利し、リヨンを抑えて勝ち点13の首位で決勝トーナメントに進んだ。一方、ベンフィカは敗れたものの、ハポエル・テルアビブが引き分けたためにグループ3位となり、ヨーロッパリーグの出場権を獲得した。

 このコラムでは、2つの点にテーマを絞って話したい。まず1つ目は、この試合でのサイドバック(SB)としての内田篤人の攻撃面と守備面のプレーにフォーカスする。
 次に2点目は、これから指摘する内田のプレーと関係することなのだが、ベンフィカとシャルケの「フォーメーション」「システム」についてである。シャルケは、ある理由から試合早々にシステムを変更する。そのシステム変更が、内田のプレーに影響を与えたのではないか、という推測を立てた。

■なぜ、内田はラウルの左足にパスを出したのか?

内田からラウルへの縦パスに込められた意図は「キープしろ!」だった
内田からラウルへの縦パスに込められた意図は「キープしろ!」だった【図提供 エバーグリーン・プランニング 安部邦昭】

 SBとして攻撃面で内田の優れた点は、縦への意識が強いことが挙げられる。縦への突破力、そしてFWを狙った縦へのパス。力強さと正確さを持っている一方で、そうした縦への意識は、ある弊害をもたらすことがある。

 前半15分10秒ごろからのプレーに注目してもらいたい。

 右SBの内田がGKからボールをもらって、タッチライン近くに進む。少し遠い前の方には、ラウルがいる。ラウルは相手のDFを背中にしながらボールをもらいにタッチライン沿いに。内田とラウルは、ちょうど一直線に対面する。内田はラウルの左足にグラウンダーの強いパス。ボールを受けたラウルは迷わず、右サイドハーフ(SH)のクルーゲにボールを簡単に落とす。クルーゲは相手をかわしてフラードにパスを出した。

 この場面で内田は、ラウルが行ったプレーとは別のプレーを、おそらくイメージしていた。内田はラウルの利き足である左足にパスを出す。もしも、ラウルが行ったように、受けたボールをワンタッチでクルーゲに落させるというプレーをイメージしていたなら、逆に、ラウルの右足にパスを出していただろう。ラウルは味方のゴールの方を向いて、彼の右足の近くにクルーゲが立っていたから、左足よりも右足にパスを出された方が次の動作がしやすい。しかし内田は、あえてラウルの左足にパスを出した。

 それには、次の意図があったと考えられる。

 内田がラウルの左足に出したパスにはメッセージが込められていた。それは、「キープしろ!」だったに違いない。つまり、ラウルがボールをキープしやすいように、あえて左足にパスを出したのだろう。なぜ、そう考えられるのかと言えば、内田のプレースタイルと左足への縦パスは関係しているからだ。
 内田はパスの選択肢として真ん中にフリーの選手がいても、第一の選択としてFWを探してそのFWにパスを出そうとするタイプだと言える。

内田にはクラーゲへパスという選択肢もあった。ラウルへのパスよりは、ビルドアップの駒が増えたはず
内田にはクラーゲへパスという選択肢もあった。ラウルへのパスよりは、ビルドアップの駒が増えたはず【図提供 エバーグリーン・プランニング 安部邦昭】

 こうしたプレースタイルのメリットとしては、たとえば38分40秒ごろに見られたプレーがある。GKからボールをもらった内田は、少しドリブルをしながら味方のFWを探して、ラウルにロングパスを蹴る。ラウルがDFに競り負けて相手のボールになってしまったのだが、もしラウルがキープできていれば、一気にカウンターに持ち込めていた。また、フンテラールに出したロングパスが、ちょっとのタイミングでオフサイドになったシーンもあった。これらのシーンは、内田の縦への意識の高さがもたらしたものだ。

 しかしメリットもあれば、当然デメリットもある。内田のデメリットは、先にも話したが、真ん中にフリーの選手がいても、パスの第一の選択としてFWを探してそのFWにパスを出そうとするところにある。そこで再び、15分10秒ごろからのプレーに話を戻そう。

 内田がGKからボールをもらった時に、クルーゲがすでにフリーでいたことがポイントになる。つまり、早い段階で内田はクルーゲに余裕を持ってパスを出せる状況にあった。相手のディフェンダーに密着マークされていたラウルに縦パスを出すよりは、フリーで真ん中にいたクルーゲに出した方が、ビルドアップの駒が増えただろう。ラウルからすれば、クルーゲがフリーになっていたことは見えていた。内田からボールを受ける前にクルーゲがフリーでいたことを知っていたから、迷わずワンタッチでクルーゲにボールを落とせたのだ。

■テイクオーバーとディレイの大切さ

 この試合で、SBとして守備面で求められていることは、味方のSHとセンターハーフ(CH)と連係して、相手のSHとSBの動きに対して堅実に対応することだろう。さらに、攻撃の際に前に行ったときに、自分の裏のスペースが空くので、そこはセンターバック(CB)と連係する必要が出てくる。
 
 前半12分のプレーを見てみよう。
 ここは、内田とクルーゲがマークの受け渡しを失敗した場面だ。
 ベンフィカの左SBのファビオ・コエントランがタッチラインに沿ってドリブルを開始。まず、クルーゲがプレスにいくが突破される。それを見ていた内田も続いてプレスに。内田が前に出たことで、内田の近くにいた左SHのベイショットがフリーになる。コエントランは、ベイショットを起点にワン・ツーパスで内田を置き去りにして裏のスペースに入る。

 ここで問題になるのは次のことだ。ベンフィカは、コエントランが高い位置をとる。同様にベイショットも高い位置になる。そうすると内田は、ベイショットとマッチアップの状態になるのだ。そこでクルーゲがコエントランについて行くときには、内田とクルーゲとのマークの受け渡しが大切になる。コエントランがどこまで上がってきたら、内田にテイクオーバー(引き継ぐ)するのか。

 この場面では、クルーゲがコエントランについていくと、同時に内田も前に出てコエントランの前進を阻もうとした。しかし、内田が前に出たことで、内田の裏が空いてそこにベイショットがフリーで入っていく。
 この場合の対応は、内田が前に行かないで最終ラインに残るやり方があった。つまり、いったんその場にステイしてからディレイするというもの。そういうやり方をしたなら、クルーゲにベイシッョトのマークを受け渡して、前進するコエントランとマンツーマンになり、裏のスペースに抜けられることはなかっただろう。

 しかし、内田が裏をとられたのは、内田とクルーゲのマークの受け渡しの失敗だけではない。シャルケが試合早々にシステムを変更してきたことが関係している。

 <続く>


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