プレミアリーグのクラブ買収の舞台裏 (2/2)
「ダニエルG」のサッカー法律講座
■クラブオーナーに課せられる資質テスト
プレミアリーグのクラブの買収を希望する者がまず考慮すべきなのは、所有権に関するさまざまなルールにパスしているかということだ。プレミアリーグは04年に「フィット・アンド・プロパー・パーソン・テスト(FPPT)」と呼ばれる、人物の資質テストを導入した。
以下が、クラブのオーナー、多数株主または会長の資質条件の例である。
1)ある特定の刑事違反で有罪判決を受けたことがない。
2)プレミアリーグまたは別のサッカーリーグに所属するほかのクラブの日々の運営に関与していない。
3)会社の支払い不能手続に関与したことがない。
上記の「刑事違反」には、ダフ屋などの不正行為も含まれる。09−10シーズン前には、「クラブのオーナー、多数株主または会長の英国入国が拒否されている場合、その者はプレミアリーグのクラブに関与することはできない」というルールも導入された。
プレミアリーグのクラブ買収の前には、クラブのオーナー、多数株主または会長がFPPT宣言書に署名しなければならず、シーズンごとおよび状況変更があった場合に、新宣言書の提出が義務付けられている。
このFPPTが有効的に適用された1つの例が、マンCの前オーナーのケースである。前タイ首相のタクシン・チナワット氏が07年にクラブを買収した時には論争を招いた。数多くの人権擁護団体が彼の首相就任時の人権侵害に言及し、プレミアリーグのクラブの所有が許されるべきではないと抗議したのだ。
06年9月、彼を退陣させたタイ政府はチナワット氏の身辺調査を開始し、検察は彼の国内資産の大部分を凍結した。彼の妻は政府機関から土地を買い、脱税の罪で有罪の判決を受けた。その結果、チナワット氏はFPPTの条件を満たさないということになり、決断が下される前に彼は自分のクラブ所有の持ち株を売却した、というのがこのケースの流れである。
チナワット氏のクラブ買収はそもそも認められるべきではなかったという意見もあるが、プレミアリーグチーフ・エクゼクティブのリチャード・スグダモア氏は最近、マンCの前オーナー、チナワット氏に対するFPPTの適用について次のように答えている。
「FPPTに違反することを悟り、すぐに持ち株をシャイフ・マンスールに売却したことにより、FPPTはその役割を果たしたと言える。いったん彼の妻に有罪判決が出てしまえば、プレミアリーグの規則上、彼女はチナワット氏の共同出資者と定義されてしまう。そうなれば、彼も規則に引っかかっていただろう。彼が極めて速やかにクラブを売ったということは、われわれの規則がうまく働いたからだ。彼は自分たちがFPPTに適合しないことを悟った。実質的に、FPPTに効力があったのだ」
■2つ以上のクラブ所有には注意が必要
先に述べたように、FPPTにはもう1つ、「クラブのオーナー、多数株主または会長は、プレミアリーグまたは別のサッカーリーグに所属するほかのクラブの株主であってはならない」というルールもある。また、UEFAが統括する大会(CLやELなど)には、2つ以上のクラブ所有に関連するルールも存在する。これらのルールが追加されたのは、以下に紹介するENIC社の判例が少なからず影響している。
この判例はENIC社が関与するもので、同社は当時UEFAの大会シーズン中、競合する複数のクラブの所有権を有していた。事の発端は1998年、ENIC社の所有する2つのクラブ(スラビア・プラハとAEKアテネ)が同一のUEFAカップ(当時/現EL)に出場したことである。
UEFAは、企業が同じ競争試合において2つ以上のクラブを所有する、または支配することを禁止するルールを導入した。その導入の理由は、同一企業が所有する2クラブの試合結果がサッカー競技場ではなく、重役会議で決められてしまう可能性があるということだ。
例えば、あるUEFAの国際大会のグループリーグで、スラビア・プラハが次のトーナメントに進出するため、AEKアテネに勝たなければならないと仮定しよう。AEKアテネにはもはやトーナメントに勝ち進む望みはなく、スラビア・プラハ戦で弱いチームを編成しても何ら影響はない。そうなれば(スラビア・プラハを勝たせることになり)、そのような(ENICによる)行為はスポーツマンシップに反し、不適切だと判断されるだろう。
当判例の結果、上記のような事態が発生しないよう、UEFAには新たな規則が追加されたわけだ。現在のUEFA規則では、ある1つの企業が欧州の2つのクラブを所有することは認められているが、ある1つの企業によって所有される2つのクラブがUEFAの同一の国際大会で競技することは禁止されている。
以上のように、プレミアリーグのクラブのオーナー、多数株主または会長には遵守すべきルールおよび規則が整っているのが分かる。よって、将来プレミアリーグのクラブに関与しようとする者は、関連する国内法および国際法について認識しておくことが重要だ。
例えば、会社の支払い不能手続に関与したことのある者がプレミアリーグのクラブの株所有者になろうとする場合、この者がFPPTにパスする見込みはないだろう。クラブの買収後にFPPTに落ちた場合には、プレミアリーグは該当するクラブの大会参加を一時停止させる権限を持つ。同様に、複数クラブの所有に関するUEFA規則も重要である。
仮に、CLの参加資格を持つあるイタリアチームのオーナーが、同リーグの参加資格を持つあるイングランドのチームも所有しているとすれば、UEFAのルールに従い、両チームともCLへの参加が禁止されることになる。サッカーの投資家たちは、欧州の2つ以上のクラブへの投資にあたっては十分慎重でなければならないのだ。
<了>
■チャリティー・ゲーム
フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)が支援する「フットボール・エイド(Football Aid)」は、糖尿病リサーチと糖尿病患者のサポートのために募金活動を続ける慈善団体。コンセプトはシンプルで、サッカーファンなら誰もが夢見る、本物の試合の醍醐味(だいごみ)を体験してもらおうというもの。「フットボール・エイド」が運営するチャリティー・ゲームに参加することで、オールド・トラフォードやアンフィールドといった世界トップクラスのホームグラウンドで、サポートするチームのユニホームを着て90分間サッカーを楽しむ、そんな夢を実現できる可能性も。「Live The Dream」プロジェクトに興味のある方は、『www.footballaid.com』まで
・欧州サッカー界の移籍、外国人選手枠の未来 (2009/11/17)
・フットボール・エイド(英語サイト) (2010/2/10)
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ダニエル・ギーイ/Daniel Geey
ニックネームは「ダニエルG(ジー)」。フィールド・フィッシャー・ウォーターハウスLLP法律事務所(FFW)所属の英国法弁護士で、専門はスポーツ法。リバプール出身。リバプールFCのシーズンチケット保有者。得意なスポーツはサッカー、テニス、クリケット、トライアスロン。FFWはスポーツ法を専門に扱うチームを擁し、スポーツに関する幅広い法律相談を提供している。取扱分野は、テレビおよびメディア権、スポンサーシップ、ブランド保護、スポーツくじ、ゲーミング、マーチャンダイジング、発券業務、コマーシャル契約、訴訟、スポーツビジネスの買収および資金調達、スタジアム開発など。問い合わせは、daniel.geey@ffw.com(日・英可)まで。ツイッターアカウントはDaniel@footballlaw。なお、ダニエル・ギーイがこれまでに執筆したサッカー法に関する論文は公式ウェブサイトで読むことができる(英語のみ)
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