原石の見つけ方 イングランド(アーセナル)編 (1/2)
若き才能を発掘する欧州クラブのスカウト術に迫る
過熱する「青田買い」を危惧(きぐ)する声などどこ吹く風で、才能の発掘に執念を燃やすクラブは、そのスカウト網を全世界に広げている。原石を求め、彼らは日夜、目を光らせている。イングランドとフランス、2つのケースからスカウト成功の秘訣(ひけつ)に迫りたい。まずは若手育成に定評のあるアーセナルの内情を探ろう。
■優秀な若手を輩出する明暗2つの理由
確かにアーセナルは2003−04シーズンの無敗優勝を頂点として、その後は5シーズンにわたり、モリーニョのチェルシー、そしてクリスティアーノ・ロナウドが頭角を現してきた後のマンチェスター・ユナイテッド(マンU)の後塵を拝している。
しかし、プレミアで優勝争いを演じる4強(この数年はアーセナルを含むマンU、チェルシー、リバプールの4クラブが『ビッグ4』と呼ばれ、現実的なリーグ優勝のチャンスがあるチームとされている)の中で、アーセナルほど若手選手がコンスタントに1軍選手(ファースト・チョイス)として才能を開花させるクラブはない。
現在のレギュラーを見ても、5年前に17歳でデビューし、今は主将を張る22歳のセスク・ファブレガスを筆頭に、レフトバックのクリシーは24歳、ボランチのディアビ23歳、攻撃的MFナスリ22歳、ウォルコット20歳。今季台頭してきたソングは22歳、デニウソンは21歳。また準レギュラー陣にはベントナー22歳、ギブス20歳、ベラ20歳、ラムジー19歳、ウィルシャー18歳という、10代後半の選手も混じって、26歳のファン・ペルシがベテランに見えるほど、アーセナルのダッグアウトは若手でひしめいている。
ではなぜアーセナルだけが、プレミアのシビアな優勝戦線をにぎわせながら、これだけ若手を輩出できるのか。その理由は明暗2つある。
まずは「暗」、ネガティブな理由。それは、皮肉にもクラブの健全な経営姿勢がその要因となっている。
プレミアでは2003年にロシアの大富豪に買収されたチェルシー、そして最近では昨年アラブの大富豪が買収し、過去16カ月で300億円以上の補強予算を費やしたマンチェスター・シティ(マンC)のように、まさに金に糸目をつけないやり方でチームを強くするのがトレンドだ。
ところがアーセナルは、赤字を出さない“普通の経営”を貫いているため、チェルシーやマンCのように、金満オーナーが提供する資金を湯水のように使い、大物獲得はおろか、途方もない年俸を掲示して中心選手を確保することすらできない。
そのため、2005年にビエイラがまず離脱。そして30歳以上の選手には複数年契約をしないクラブの方針(真逆の例を挙げると、昨季の開幕直前、チェルシーのイングランド代表MFランパードは30歳で年俸750万ポンド=約15億円の5年契約を勝ち取っている)を嫌い、ピレスもアーセナルを去った。
翌06年にはベルカンプが引退。そしてアシュリー・コールが高年俸につられチェルシーへ移籍。さらに2007年には大黒柱のアンリがバルセロナに移籍。そのうえ今季はFWアデバヨルとDFコロ・トゥーレの攻守の要2人がマンCにさらわれた。
それでもクラブはあえて大物補強をしない。近年獲得した選手でビッグネームと言えるのは、2009年2月のアルシャービンくらい。そうなれば若手を使うしかなく、彼らの出場機会が増えるのも当然の成り行きと言える。ビエイラの離脱でセスクがレギュラーに定着。ピレスやリュングベリが抜けてもウォルコット、ナスリ等が登場。アシュリー・コールの後はクリシー。そしてアンリ離脱後には、ファン・ペルシ、アデバヨルが一本立ち。昨季はディアビが、そして今季はソング、デニウソンが頭角を現した。
とにかく、次々と若手が台頭し、不可能と思えたスター選手離脱の穴をことごとく埋めている。
・『欧州サッカー批評 』(双葉社) (2010/1/29)
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