ベンハミン・アグエロは父と祖父の才能を受け継ぐか? (2/2)
サッカー選手の2世たち
■偉大なるサッカー選手の息子たち
確かに、サッカー界には偉大なサッカー選手の子孫たちの物語がそこらじゅうに転がっている。アヤックスやバルセロナで一時代を築き、オランダ代表としても後世に多大な影響を与えたヨハン・クライフにも、サッカー選手の息子がいる。バルセロナ生まれのジョルディ・クライフは、父が監督を務めていたバルセロナをはじめ、マンチェスター・ユナイテッド、セルタなどのユニホームに袖を通す機会に恵まれたが、父の才能の片りんを見せることはできずにいる。
サッカー史上最高の選手とも評されるブラジルが生んだ天才ペレの息子、エジーニョは、かつて父親が数々の栄光を手にしたサントスでGKを務めていた。だが、偉大なる背番号10の遺伝子は1グラムも受け継がなかったようで、たびたび逮捕される事件を起こしている。
一方で、経験を積んでキャリアが好転したケースもある。例えば、アルゼンチン代表のファン・セバスティアン・ベロンは現在、エストゥディアンテスで再び輝きを放っている。これまでもボカ、サンプドリア、パルマ、ラツィオ、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、インテルなど名門クラブを渡り歩いてきた。
彼の父親ファン・ラモンもまた、60年代に活躍した左ウイングの名選手だった。キャリアのほとんどをエストゥディアンテスで過ごし、コパ・リベルタドーレスで3度、南米王者となった。68年のインターコンチネンタルカップ(現クラブワールドカップ)でも、ボビー・チャールトンらを擁したマンチェスター・ユナイテッドに勝利している。
ラモンはファンから“ブルッハ”(魔法使い)の愛称で親しまれ、その息子セバスティアンも“ブルヒータ”(小さな魔法使い)と呼ばれる。父親がウイングならば、息子はクリエーティブなMFだが、どちらも才能溢れる選手と言える。
■未来を担うスターの原石
将来のスター候補といえば、80〜90年代に活躍し、バルセロナやレアル・マドリーでもプレーした元デンマーク代表のミカエル・ラウドルップの次男、アンドレアスは、かつて前述の2クラブがこぞって獲得を希望した有望株である。最終的にレアル・マドリーのカンテラ(下部組織)を選んだアンドレアスだが、今年から母国のノアシュランでプレーしている。
また、エンツォ・ジダンは、元フランス代表で90年代以降のサッカー界において世界最高とも言われるジネディーヌ・ジダンの息子である。彼は父の遺伝子のみならず、元ウルグアイ代表のエンツォ・フランチェスコリのファーストネームをその名に抱いている。ジダンが子供のころ、マルセイユでプレーしていたフランチェスコリが大好きだったため、尊敬する人の名を息子につけたのだ。
ミランの象徴であり、40歳を迎えた今も現役を続けているパオロ・マルディーニは、60年代に選手として活躍した後、イタリア代表などの監督も務めたチェーザレの息子だが、自らの息子クリスティアンもまた、現在ミランの下部組織でプレーしている。マルディーニ一家の物語は、3代にわたって続いているわけだ。
“才能の相続”という問題は一筋縄ではいかないが、これはサッカーの世界だけに限ったものでもない。“親の七光り”という言葉もあるが、後から続く者が背負うプレッシャーは並大抵のものではない。偉大なる名前であればなおさらだ。常に親との比較にさらされなければならないのだから。
だからこそ、ベンハミン・アグエロが幸せをつかむために大切なことは、父親や祖父のプレッシャーから解放し、自らの将来を自分で決める選択肢を与えることだ。無理にサッカー選手にしようとするのではなく、彼の人生においてやりたいことを選ばせればいい。それでもベンハミンが、父親が熱中するクンビア(ラテン音楽)のバンド、“ロス・レアレス”の曲の中で「僕の血にはサッカーが流れている」と歌ったように、サッカー選手になりたいと言ったなら、その時は新たなる道が開けるだろう。
そうなることは驚きでも何でもない。生まれた時からサッカーを取り巻く環境がすぐそばにあり、間違いなくサッカーボールを蹴りながら成長するのだから。いつか彼がサッカー選手になりたいと望むのはごく自然なことだろう。
<了>
セルヒオ・レビンスキー/Sergio Levinsky
アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿
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