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ギジェム・バラゲ スポーツナビ

プレミアシップ、優勝の行方と海外進出(2/2)


2008年03月07日

■海外開催のもたらした波紋と影響

オーナへの不満をプラカードで訴えるリバプールのファン。クラブは誰のためにあるのか オーナへの不満をプラカードで訴えるリバプールのファン。クラブは誰のためにあるのか【 (C)Getty Images/AFLO 】
「海外開催のどこが悪いんだ?」
 そんな声が聞こえてきそうだ。結論から言ってしまえば、何も悪くはない。例えば、マンチェスター・ユナイテッドやリバプールが好きで、オールド・トラフォードやアンフィールドに行くチャンスのない東アジアのファンは、地元のスタジアムで生のスター選手たちを見ることができる。しかし、コインの裏を返せば、ユナイテッドやリバプールのイングランド国内のファンが、今度は試合に行けなくなるのだ。

 FIFA(国際サッカー連盟)のジョゼフ・ブラッター会長はこの計画を聞いて激昂し、UEFA(欧州サッカー連盟)会長のミシェル・プラティニも痛烈な批判を展開した。アジアサッカー連盟などホスト国の候補として挙がっている各大陸の連盟も、プレミアシップの上陸で国内のリーグが弱体化する可能性があることに不安を隠そうとはしない。

「イングランドのファンが、おれたちのために1試合観戦するのをあきらめることは、そんなに問題なのか?」
 海外のファンはそう考えるかもしれない。私の答えはこうだ。海外開催の実施によって、現在プレミアシップが保っている“唯一無二なもの”が破壊されるかもしれないことを認識すべきということである。ただでさえ、100年を超える伝統を持つ各クラブやそのファンたちから成るイングランドのリーグは近年、テレビ放映権から得られる多額の資金にまみれている。主となるスカイTVはクラブの資金源と化しており、プレミアシップという“商品”はいまや、世界中でライブ放送が見られるほどに流通している。

 それでも、このリーグが地元の熱狂的なサポーターに支えられて、現在の地位を築き上げてきたこともまた、紛れのない事実なのだ。今日では外国人選手が増えたとはいえ、彼らは自分たちのチームの動向に一喜一憂している。もしかしたら、伝統とエキゾチックなものが融合し、EPLの海外計画がうまく進むかもしれない。だがその一方で、これまで築いてきたすべてを壊してしまう可能性も否定できないのだ。

■伝統と新しいクラブ運営の形

 すでに、ビッグクラブなどがプレシーズンの海外遠征に力を入れていることからも分かるように、“ブランド”の国際化とイメージ戦略は無視できないものとなりつつある。いくつかのクラブにとっては、世界中でユニホームの売上を伸ばすことは重要なことである。
 しかし、もう一度考えてみてほしい。例えば、「ミュンヘンの悲劇」(飛行機事故で“バズビー・ベイブ”と呼ばれた伝説のユナイテッドの選手8人の命が奪われた)から50年経った2月6日、オールド・トラフォードなどでは追悼の記念式典が行われたが、こうした地元と密接に結びついた歴史や伝統といったものがどれだけ大事かということを。そうした1つ1つの出来事の積み重ねが、チームのカラーを織り成しているのだ。EPLの計画は、既存の忠誠心に溢れたファンをないがしろにしてはいないだろうか。
 結局、EPLに対するファンからの強い反発、またユナイテッドのサー・アレックス・ファーガソンやリバプールのラファエル・ベニテスら一部監督の反対もあり、プレミアシップのグローバリゼーション案は事実上の棚上げとなった。

 興味深いことに、リーガ・エスパニョーラの二大巨頭、レアル・マドリーとバルセロナは、海外資本の流入によってむしばまれつつあるイングランドのビッグクラブとは、組織的に選を異にする。ロシア人の億万長者アブラモビッチに牛耳られているチェルシーなどとは違って、リーガのいくつかのクラブは“ソシオ”と呼ばれるメンバーの出資によってクラブが成り立っている。よって、タイの前首相であるタクシン・シナワトラやトム・ヒックスといった実業家がクラブを買収することは不可能なのだ。

 リバプールの一部のファンは最近、有志を募って米国人オーナーから“レッズ”(リバプールの愛称)を買い戻し、クラブの伝統と精神を再建しようというアイデアを持ち上げた。彼らの行動の裏にある心情には共感する。だが実際には、1万人のファンを集めて、各5000ポンド(約100万円)出したとしても、クラブ買収は現実的ではないだろう。
 その一方で、イングランド5部に相当するエブスフリート・ユナイテッドでは、インターネットサイトの会員2万8000人がそれぞれ35ポンド(約8000円)を出資して株式の過半数を取得し、新しい形のクラブ運営に乗り出すこととなった。今後は、選手の移籍やチームマネジメントなどを、投票によって決めていくという。

 プレミアシップはこの先、どこへ向かっていくのだろうか。

<了>

ギジェム・バラゲ/Guillem Balague
スペイン・バルセロナ生まれ。イギリス『スカイ・スポーツ』のレギュラー・コメンテーターとして、スペインのリーガ・エスパニョーラを中心に取材・試合分析を行う。また、イギリスの『タイムズ』紙でイングランド・プレミアリーグやリーガについて執筆しているほか、同紙のポッドキャストで『The Game』というコーナーを持つ。スペインの『アス』紙では、イングランド特派員として寄稿。スペインラジオ局のフットボール番組『エル・ラルゲーロ』にも出演している。2005年にリバプールがチャンピオンズリーグで劇的な優勝を飾った“イスタンブールの奇跡”を追った著書『崖っぷちのシーズン』はイギリスでベストセラーに


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