■延期されたホームでのリーグ戦
ナンシー対フェイエノールト戦では、試合中にスタジアム内で暴動が起きた【 Photo:For Picture/AFLO 】
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今回の事件を受け、PSGが「新たな命令が下るまで、閉鎖する」と発表したブローニュのR1、R2ゾーンは、確かにアンデパンダンが多いと言われる場所だった。イスラエルのサポーターを追いかけ、黒人の警官を襲うような人種差別主義者たちは、ここから出てきていると、クラブは判断したのである。 そういうわけで、あの悲劇以降初めてのホームゲーム、対トゥールーズ戦は、ブローニュの下層が空っぽの状態で行われるはずだった。売れ残っていたチケットもすべて発売停止し、入り損ねたアンデパンダンたちが別ルートでパルクに入れないようにした。試合開始時間も当初予定されていた18時から17時、さらには15時とくるくると変更され、キックオフ前にはキャプテンのパウレタが、人種差別反対の宣言文を読み上げる予定だった。ところが、土壇場になって試合は延期される。警視庁が発表した理由は、「充分な警備体制が整っていないから」であった。
あまりにも急速に取られた延期の措置に、さまざまな憶測が飛んだ。くだんの警官は「正当防衛」を認められて早々と釈放されたが、サポーターたちはこれに納得していない。加えて、亡くなったジュリアンのために、試合前に黙とうを捧げたいという希望も、選手たちに喪章をつけてプレーしてほしいという願いも、共にクラブに却下された。悲劇的な事件だが「正当防衛」が認められた以上、暴力問題、人種差別問題を起こしたグループの一員が必要以上に英雄扱いされることをクラブは恐れたのだろう。さらに『レキップ』紙の「内部情報」によれば、試合延期への決め手となったのは、この警官が「義理の父親のカードを不正使用し、それを隠すために嘘をついていたという過去があり、軽罪裁判所に出頭する予定」というニュースが流れたことだったという。すでに警察に不信感を持っているサポーターたちにとって、この情報は確かに爆発のきっかけになり得たかもしれない。「警察は恐れたんだよ。今度は自分たちが狩られるのを(『レキップ』紙)」
とはいえ、そもそもサポーターの暴走に端を発したのが今回の事件。差別的言動、行動があったのも事実だ。サポーター・グループの代表者たちも、「現時点では、ベストの解決法だ」と延期を受け入れた。この試合は、現在のところリーグカップの日程に合わせて行われる予定だという。幸か不幸か、PSGもトゥールーズもすでにリーグカップで敗退しており、スケジュールが空いているのである。ただ、13日に予定されているパルクでの対パナシナイコス戦(UEFAカップ)は、UEFAから「延期はできない」とくぎを刺されている。クラブもサポーターも、残された時間で今度こそ本当にベストの方法を模索しなくてはならない。
■ナンシー対フェイエノールト戦でも暴動が……
今週末、リヨンとのアウエー戦に臨むPSGの選手たちは、木曜からエクスレバンで合宿に入った。多くのことが起こり過ぎたパリから離れて、練習に集中するために完全非公開。ジャーナリストも、カメラマンも、公式サイトの記者さえも入れないという徹底ぶりである。この試合に関しては、延期の予定も開始時間(21時)を変更する予定もない。リーグ協会も「リヨンはビッグマッチの運営に慣れているだろうから」と、欧州チャンピオンズリーグの常連に信頼を寄せている。 11月30日には、ナンシーでのUEFAカップ、対フェイエノールト戦で、フェイエノールトのサポーターたちがスタジアムで暴動を起こしたが、「オランダではスタジアム出入り禁止の彼らをなぜ入場させたんだ」と、ナンシーの警備の甘さも指摘された。3−0で勝利し、クラブ史上初のUEFAカップ決勝トーナメント進出を決めたが、終了まで残り10分というところで機動隊が暴動を鎮めるために催涙ガスをまき、30分の試合中断を余儀なくされたナンシー。試合は続けられ、GKソリンの素晴らしいPKストップもあったのだが、残念ながらナンシーのサポーターたちは帰路についてしまっていた。フーリガンの対応など、できればしたくない部類だが、これもある意味、よくフランスのクラブに足りないと言われる「欧州の経験」か……。
『ル・モンド』紙のインタビューに答えたPSGのアンデパンダンの1人は、「刑務所に入れられることよりも、パルクがブルジョワ化してしまう方が、おれたちにとっては嫌なことだ」と語る。例えば入場料が上がったりすれば、「確かにおれたちには打撃だろう」とのことだ。貴重な意見かもしれないが、スタジアムから放り出されたサポーターたちがとる行動にも、もはや無関心ではいられない。なんといっても悲劇は、スタジアムの外で起きたのだ。「フットボールは生死に関わる問題ではない。それ以上だ」とは、リヨンのウリエ監督の言葉だが、PSGのフットボールは生死に関わる問題を呼び、それ以上に発展してしまった。
そんな中、ボルドーのウルトラスの1つである「デビルス」が解散するという。デビルスは、「田舎者! 田舎者!」とやじを飛ばしてくるPSGサポーターに「田舎者であることを誇れ」と書かれた横断幕で対抗するようなグループだった。しかも、翌シーズンには「田舎者パート2:リターンズ」という新作を持ってくるという芸の細かさだった。15年の活動史に終止符を打つ理由は、「古株と新メンバーの考えが合わなくなってきたから」とのこと。時代とともにフットボールは変わり、サポーターも、フーリガンの定義も変わっていく。PSGも変わらねばならない。
<この項、了>
横尾愛/Kana Yokoo
1976年生まれ。大阪府出身。大阪外国語大学フランス語学科卒業。在学中にパリへ留学、そこで98年フランス代表の優勝を目の当たりにする。帰国後1年半のメーカー勤務を経て、現在東京のTV番組制作会社でサッカードキュメンタリーなどの番組制作に携わる。「サッカーをよく知らなくても面白い、サッカーファンならなおさら面白い」ものを書くのが信条
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