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木村浩嗣 スポーツナビ

ライターで学び、監督で修行する(1/2)
木村浩嗣の「誘惑と憂鬱のスペインサッカー」


2006年01月27日

一つ一つのプレーの解釈において、グラウンドでの実践が持つ意味は大きい 一つ一つのプレーの解釈において、グラウンドでの実践が持つ意味は大きい【 (C)Getty Images/AFLO 】
「どうやってサッカーの仕事を始めたんですか?」と最近よく聞かれる。外国でサッカーを仕事にしながら、生活をすることにあこがれる人は多いようだ。今回はまたもや趣向を変えて、そんな問いに答えるためにちょっと私的になるが、ライター業と監督業のかかわりについて書いてみたい。

■グラウンドでの実践がライター業に活きる

 どうやってライターになったか、には何も秘密もマジックもない。私は日本で編集者として働いていたので、そのつてで仕事が来たのがきっかけ。ただ、選手の経験もなく、スポーツとはまったく無関係の分野――経済、就職、女性、広告など――で書いていたので、やはり監督ライセンスを取得しチームを率いたことが、大きかった。監督業がサッカーライターとしての道を開いてくれたのだと思う。

 一つ一つのプレーの解釈において、グラウンドでの実践が持つ意味は大きい。例えば、先週末のレアル・マドリー対カディス戦でのベッカムのゴール。ベッカムがちょんと出したボールをロベルト・カルロスが止め、助走をつけたベッカムが見事に蹴り込んだものだ。
 あのトリックプレー(といっても2人が介入するだけのごく初歩的なものだが)、実は、先週の練習でうちのチームで試していた。が、うまくいかない。キッカーの技術うんぬん以前に、あんな短い助走では子供(13歳)の力では、強く蹴れないのだ。かと言って、助走を長くすれば「壁」に足元に走り込まれてしまう。そこで、もう1人入れて、ボールに触る前の段階にフェイクを一つ加え、相手をひとだましすることで助走の時間を稼ぐことにした。今週の練習では、このトリックプレーをおさらいする予定だ。

 さらにもう一つ、ボールを踏んでいる選手が前に出すフリをして後ろに流して壁を避け、走り込んだ選手が蹴るというトリックも用意している。これは何年か前のチャンピオンズリーグでデポルティーボ・デ・ラ・コルーニャが、バイエルン・ミュンヘン相手に披露し、見事にゴールして見せたもの。介入する選手も2人で簡単だし、「後ろに流す」というフェイクがあるから助走もたっぷり取れる。中学生年代には理想的なセットプレーだ。以上2種類のプレーは、最初の見た目が同じで、ボールを出す方向が「前」と「後」と対照的なので、セットで仕込んでおくと相乗効果がある。今シーズンはこの二つで十分戦えるだろうと思う。

■バルセロナとマドリーのやり方をまねる

 例が長くなってしまったが、つまりチームを率いるということは、目で見たプレーをグラウンドで実践してみる機会があるということ。「やってみる」「やらせてみること」はサッカーライターとして、分析や解説する際に大きな財産になる。

 もう一つ例を挙げる。
 今、うちのチームをバルセロナ化する計画を進めている。この詳細は別の媒体で書いているので繰り返さないが、バルセロナのプレースタイル=楽しく美しく強いサッカーを、育成のために用いてみようものだ。となると、守り方は当然、高いラインディフェンスである。
 この守備戦略を中学1年生に教えるための説明の仕方(平易な言葉と図説)、実践するための練習方法(基本的な動き方から実戦へ)とその成果と評価(機能したかどうか。問題点と改良点)は、そのままライターとしての力になる。かみ砕いた言葉で説明する能力、ポイントを要約する能力、理論を実践へ橋渡しする能力、メリットと欠点を見抜く能力、誤りを修正する能力が、身につかざるを得ないからだ。

 実際、芝生の上でやってみると、高いラインディフェンスの美点を生かすために大切なのは、オフサイドトラップを磨くことではなく、裏へパスを出せないための「寄せ」と「プレス」、ラインブレイク後の対応であることが分かった。逆に、プレスが存在しない横並びに静止したオフサイドトラップ重視(?)のやり方では、リスクが大き過ぎて実戦では使えない。こう感じた後にバルセロナの試合を見ると、やはりプレスと崩壊で対応し、トラップを実質的に捨てている。「そうだよなー」と納得し共感してしまうのだ。だから、これを文章にする。
 最近の試合では国王杯のバルセロナ対サモーラ戦(6−0)で、サモーラが披露したのが最悪の例。最終ラインの横並びに執着するあまり、ラインにわざと入らないエスケーロをフリーにし(追いかけてマークせず)、ラインの前のスペースを使われて裏へどんどんパスを送られていた。ラインを崩して(マーカー抜きの1人少ない人数で、オフサイドラインは十分維持できる)エスケーロを追うのが正解。ミスを放置した監督の責任は極めて大きい。ライターとして、その点を指摘する。

 さらにもう一例。
 レアル・マドリーはロペス・カロになってから、コーナーキックをマンツーマンではなくゾーンで守っている。カディス戦では、試合開始後5分で3本立て続けにカディスがコーナーを蹴った。その最初の1本目が一番明らかだったのだが、4人がゴールエリアのライン上に並び、残りがマンツーマンで並んでいた。対照的にカディスはニアポストの1人を除けば、全員がマンツーマンで付く。カディスの守備者はレアル・マドリーの選手に引きずられて動くのに対し、レアル・マドリーのそれは必ず流れの中で止まっている選手がいた。
 うちのチームはマンツーマンだ。理由は子供でも覚えやすいから。ただし相手本位で動かされるから、おとりを使ったトリックプレーにだまされやすい。逆にゾーンは、トリックに強いものの受け渡しミス(誰がボールに行き、誰がマークに行くかの判断)の危険性がある。要は一長一短で、選手の特徴に合わせて選ぶしかないのだ。コーナーキックをゾーンで守るチームは、スペイン1部リーグでもめったにない。これもロペス・カロによる変化だろう。

 わがチームの高いラインディフェンスは機能しているが、セットプレーに弱いので、今後鍛えて行きたいと考えている。その際マンツーマンを徹底させるつもりだが、レアル・マドリー対カディスを見てゾーンを試したくなった。伝統的に高さに弱かったレアル・マドリーの守備がカディスのそれに比べ堅実だったからだ。
 コーナーキック時のマンツーマン、ゾーンディフェンスの有利不利、練習方法などは、サッカー連盟が定期的に主催する講習会で学んだことがあった。私は講習会のたぐいには必ず参加することにしている。で、それを自分のチームで試してみて評価する。こうして戦略・戦術について勉強することは、いずれは文章に反映されることになる。

<続く>


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