■項目4:<コーチング学>
“1級取得記念講演”をしてくれた林雅人氏。彼の知識と経験は、日本サッカーの発展にも間違いなく寄与するだろう【 Photo by 中田徹 】
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――<コーチング学>。これも7でした
「項目3と同様、これも実技を筆記にしただけ。例えば練習で考えさせることですよね。ここでは実際の試合でのコーチングを話しましょう。
試合前、監督はあまりしゃべらなくていい。ちゃんと普段から練習で準備していれば『今日は練習でやっている“あれ”をやるぞ』で十分。監督によってはもう1回試合前に説明しないといけないタイプもいますから、それは長くてもいいんでしょうけれど、一般的に試合前にボードを使って長くしゃべる監督は、試合前の準備に自信がないからですね。 試合中、監督はいすに座って見ている。ハーフタイムに『状況は?』『プレーの結果は?』『どうしたらいいか?』って選手に聞く。で、『じゃあ、これでやってみよう』で終わり。
ハーフタイムに監督がガンガン先にしゃべるコーチングでは、後半あまり良くならない。選手は言われたとおりにやります。でも相手は対応してきて、状況が変わりますから。それに対し選手はピッチの上で答えを出さないといけない。だから、練習の時点で選手に考えさせないと。それができていれば、本当はすでに前半の段階で選手が何か変化を作っているはずなんです。いい変化が生まれたら、ハーフタイムで監督は褒めてあげる。さらに『相手は後半どうやってくると思う?』って選手に予想させる。『お、いいこと言うねえ。じゃあこう来たらどうする?』とか。そうすると選手の注意も引けるし、面白くなってくる。 選手が笑っているぐらいの指示がちょうどいいです。練習でやったこと、ミーティングでやったこと、それが試合ではまるのがコーチングの醍醐味です」
■項目5:<フットボールコンディショニング理論>
――最後に<フットボールコンディショニング理論>を。これはなんと8
「シーズン中は毎日1回の練習、週1回の試合、週1回休みだとしましょう。しかし、シーズン前のキャンプで毎日2回の練習、週1回の練習試合を組むと、5回練習1試合のペースが、10回練習1試合のペースになる。時間が増えているのに、練習の質を落とさないと負荷も増え、けがと疲労の可能性を増やしている。その辺はちゃんと調整しないといけないけれど、負荷と時間の関係が分かっていない指導者が多い。
けがには仕方のないものもありますが、たくさん同じ例があれば何か理由がある。例えば、2部リーグの選手が1部リーグのクラブ、しかもトップクラブに移籍したらけがが多い。それには疑いの余地がある。同じチームで2軍から1軍に上がった選手もそう。プロになったばかりの選手もそう。やはり今までより能力の高い選手の中で練習をするわけだから、テンポが上がる。それに慣れるまで彼らは同じ量の練習をしてはいけない。若いからいいというわけではない。慣れるまでに8回練習があるなら、例えば5回に減らしてやるとかしないといけない。
練習時間については、『超回復』という理論を持っているヘルハイネンは、『ナイターのある週は練習もその時間に合わせるべき』と言っている。普段朝7時に起きている人が、仕事を朝3時までやってそれから就寝、昼の12時に起きたら気分はどうです? 悪いでしょう? ナイターで試合をする予定が決まっているのに、練習は午前中というのはおかしいのでは、という考え方です。
いまサッカーは進化している。ワールドカップのグループリーグでフランスが負けたり、ユーロ(欧州選手権)でギリシャがチャンピオンになる時代。プロならば、勝つ可能性を増やすことは、すべてやらないといけない。練習もナイターのある週は夜にして、試合と同じように夕方に炭水化物中心のスポーツ食を取るようにしないといけない。それをしないで、それでもプロか? とヘルハイネンは言うんですけど、受講者は実際にプロのクラブで働いている人もいますからね。『お金があればそうするよ』って反論しています。ナイターですと人件費や光熱費がかかりますから。そんな話が講習会ではありましたね。
サッカーの練習の中でコンディションを上げる。走るだけという練習はあり得ない。サッカーのコンディションとは、サッカーのアクションを90分間続けられるかということ。そのアクションはヘッド、スライディング、シュートなどです。人間の体というのは負荷を与えて休ませると、その次にさらに大きな負荷を与えることによって大きくなっていく――というのは知られている。サッカーでの『超回復』という理論は、すべてボールを使った練習で負荷と休息を繰り返しながら、サッカーで使うアクションにおける選手の限界点を上げていくわけです」
■チームプレーのできる選手は成功する
――これでオランダで監督の資格を取るために必要な5要素が終わったわけですが、それにしてもテクニックの話がほとんど出ませんでした
「ええ、出てこないですね。オランダでは11対11からサッカーを考えていて、そこが出発点。11対11の下にテクニック(パス、ドリブル、シュートなど)、戦術、そしてコンディショニングなど、もっともっと枝葉が分かれている。
あえてぼかしますけど“他の国”ではテクニックを重要視し過ぎてしまっている。テクニックから11対11という考え方。パスの練習では極端な場合2人1組で練習している。A君はなぜB君にパスを出すか。それはB君がフリーだから。B君はA君にパスを戻す。それはフリーだから。なぜフリーか。敵がいないから。こういうオープンな練習では、見て、考えて、選択して、行動……という大事な要素が入っていない。 オランダ的な考えだと、例えば5対3にして3人の敵を作るけれど、味方にフリーになる選手も置く。A君がB君にパスを出すのは、B君がフリーである上に、その向こうにC君への視野もあるから。だからパスを出す。でもそれは正確なインサイドキックでなくていい。要はパスが通ればいい。その通る感覚が分かっていれば、どんなキックでもいいんです。こうやって無意識にテクニックとパスの練習をしている。
1対1の練習は必要ない。ゲーム形式で味方がいて、相手がいて、考えることの方が優先。5対3は、11対11で通用する“機能テクニック”なんです。 オランダではこういうことを繰り返して、見ること、判断を養うことを伴って、テクニックを挙げてきた。“他の国”ではテクニックだけを磨くために、1対1や三角パスのような練習をしている。見て考えて判断してパスしていないから、将来プレーの選択肢に雲泥の差が出てくる。 テクニックを重視し過ぎると11対11に穴が開き、将来トップに行ったときに穴が埋められない」
――でも最初にテクニックをやって、後から戦術をつける考え方もあるのでは
「それはもう小さいころですね。ボールと友達にならないといけない年代の話です。小さいときなら1対1のパスもいいのでしょうけれど、もうちょっと工夫してほしい。例えば2人の前に小さなゴールを作る。パスがそこを通ったら勝ち。こうして競争させる。 勝った子は1歩下がる。もしくはゴールを狭くする。こうして難しくしてやる。うまい子はよりうまくなるような環境を作ってやり、さらに勝負というサッカーの要素を取り入れる。そういう小さな指導テクニックもオランダで学びました」
――最近オランダのユース代表は、試合内容が悪くても勝つようになってきた。かつては内容がよくても負けていた。“勝つ”ということに、だいぶオランダ人がこだわり始めてきた印象があるが、指導者の現場では?
「はい、オランダは“勝ち”にこだわってきましたね。すべての練習は勝つことにつながらないといけない。これまでのオランダはきれいなサッカー、トータルフットボールを追求し過ぎてしまった。でも、結果を残せていなかった。これからは、シュートは入ればいい、ロングボール、カウンターサッカーも勝つために必要なときもある。 でも、なにより最近のユースの成功の秘密は、チームプレーがあって、選手が考え、プレーの選択を決められること。もちろんとてつもない選手もいるけれど、個人の能力はそれほど日本と変わらない。戦術の理解と対応、ピッチで何が起きたか、そしてそれに対する反応の速さ。13歳くらいから考えてプレーすることを要求される。ユースなら日本のチームとやっても技術的に5分5分の試合になるでしょう。でもその先、選択肢を求められる年代になると大きな差が出る。これはとても学びました。 どんなにうまくても、チームプレーができない選手は成功しない。トップの技術でなくても、ある程度のうまさがあれば、チームプレーのできる選手は成功するんです」
<この項、了>
中田徹/Toru NAKATA 1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。メキシコワールドカップを23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。2002年ワールドカップ、ユーロ2004をはじめ、ヘラクレスの平山相太を中心にオランダリーグのコラムなどをリポートしている
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