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中田徹 スポーツナビ
ギリシャがポルトガルを下し、初の欧州ナンバーワンに輝く
ギリシャがポルトガルを下し、初の欧州ナンバーワンに輝く【 (C)Getty Images/AFLO 】

優勝したギリシャに求められるもの
7.4 ポルトガルvsギリシャ

2004年07月05日

■アウエーの不利をスタジアムの中でばん回

 7月4日、ユーロ2004(欧州選手権)の決勝戦の日。ルス・スタジアムの周りの沿道では、多くのサポーターがポルトガル代表選手の乗るバスを祈りと喜びを込めて待っていた。結局、この道に選手バスは通らなかったのだが、数え切れないほどの車、バイク、バギーが優勝の前祝いをするように、クラクションを鳴らして走り、沿道に立ったサポーターと「ポ・ル・ト・ガル! ポ・ル・ト・ガル!」と叫び合った。
 ポルトガルの老若男女がひとつになっていた。これだけの期待の中、ポルトガルが優勝すればフェリポン(スコラリ監督の愛称)は『神』のごとき存在になること間違いなしだった。

 沿道の勢いはまるで、ポルトガルが30−0のマンモススコアで勝つくらいだった。この雰囲気の中で試合をしなければならないのなら、おそらくギリシャに勝ち目はなかっただろう。実際僕はポルトガルの優勝を確信していた。
 しかしサッカーは沿道の人ごみの中でするスポーツではなく、キャパシティーの限られたスタジアムの中で行われるスポーツ。もしフェアにチケットがアウエーのギリシャにも行き渡れば、応援上の圧倒的な劣勢は避けられる。この日ルス・スタジアムに集まった6万2865人の観衆のうち、おそらく5分の1はギリシャのサポーターだった。つまり1万3000人ものギリシャサポーターが応援席に陣取っていたわけだ。
 リスボンの街中、そしてスタジアムのすぐ外では劣勢だったギリシャだったが、スタジアムの中ではその勢いをばん回していた。もちろんスタンドにはポルトガルサポーターの方が多かった。ポルトガルの応援はすごかった。それでもまだスタジアムの外に比べれば、はるかにましだった。

 逆にポルトガルにとっては、スタジアム外の優勝に浮かれたような雰囲気がスタジアムの中で殺がれてしまっていた。ポルトガルは国全体に広がったスタジアムの外の熱を、スタジアムの中に持ち運んでギリシャを圧倒するまでに至らなかったのだった。
 アウエーの町に来て戦う不利をギリシャがスタジアムの中でばん回した――これは僕にとっても初めての不思議な現象だった。

ギリシャ代表カリステアスがCKから先制点を奪う
ギリシャ代表カリステアスがCKから先制点を奪う【 (C)EMPICS 】

■たった一度のCKで得点を奪い、初戦と同様にサイドにふた

 典型的な決勝戦の戦いとなった。次々とボールを拾っては前に運んだポルトガルだが、ギリシャの固いマークに遭い、なかなかペナルティーエリアの中に入って攻撃ができない。

 今回ギリシャが戦った6試合のうち、5試合を観戦したが、いずれも相手チームが優勢にボールを回しながらも思い切った攻撃をし掛けて来ず、だんだんと相手チームの攻めに慣れてきて後半、セットプレーやカウンターでゴールという試合がほとんどだった。
 ギリシャはユーロの舞台で強豪を相手にし、勝ったり引き分けたりすることで選手個人の守備能力とパスを回す力に、幅ができていった。大会を通じて選手とチームがこれまでの限界を少しずつ伸ばしながら、チーム力を上げていったのだ。
 ポルトガルとの決勝戦はその完成形で、相手がフィーゴだろうと、デコだろうと、そしてロナウドだろうと、ギリシャは決められた戦術通りに戦い、余裕を持って防いだ。ポルトガルは何度もクロスを上げたが、ギリシャの守備組織はまったく動じなかった。

 57分、この試合ただ1回得たコーナーキックから狙い通りにギリシャが先制すると、ポルトガルはリスクを負って攻めに出たが、それでもゴールの枠をとらえたシュートは後半3本だけ。ペナルティーエリア内に進入しての決定機はルイ・コスタがループでラストパスを出し、ロナウドをフリーでシュートさせた75分のチャンス1回だけ。
 ポルトガルは前半、右サイドバックのミゲルがけがをし、ここで1回選手交代を行っていたため使えるカードは後2枚だけだったが、ギリシャはポルトガルの2回の交代の様子を見ながら自分たちの選手交代を行い、最後まで守備に破たんをきたさなかった。
 また守備的ながらも、4−3−3システムでセンターFWと戦術的なウイングプレーヤーを置くことで、しっかりポルトガルのサイドバックにふたをしたのは開幕戦の同カードと同様だった。

■今後の予選をしっかり突破してこそ、今回の優勝が価値あるものに

 今回のユーロを「次のワールドカップのための準備」ととらえていたギリシャ。しかしレーハーゲル監督の下、欧州一という最高の結果を残した。
 ギリシャは94年ワールドカップ・アメリカ大会で惨敗を重ね、アルゼンチンとブルガリアに共に0−4、ナイジェリアに0−2と負けていた。このときの選手の覇気のなさは、今でも僕にとってギリシャに対する悪印象として残っている。選手起用もどこか思い出作り的なものがあった。

 さらに今シーズンのギリシャは、チャンピオンズリーグで3枠をもらっていたが、欧州クラブシーンでの覇気のない戦いも気になっていた。僕自身はAEKアテネとPSVの試合を現地とテレビで見る機会があったが、お粗末という言葉がふさわしい内容だった。
 そんな国の代表を欧州一にしてしまったのだから、レーハーゲル監督の手腕が光る。ギリシャは元々クラブチームに対する熱のわりには、代表チームに対する関心が低かったのだが、今回のユーロでは準決勝からギリシャを応援するサポーターが大挙してポルトガルへ訪れるようになり、今後ギリシャ代表に対する熱がより高まる可能性がある。

 ワールドカップで優勝するより難しいと言われるユーロ。ギリシャはロシアに敗れたものの、優勝候補のポルトガル(2回対戦し2勝)、フランス、チェコに勝ち、同じく優勝候補のスペインに引き分けているのだから、堂々の優勝だ。しかし今後ギリシャに求められるのは、ユーロやワールドカップで今回と同様に優勝するのは難しいとしても、毎大会きっちりと予選を突破することだ。これができてこそ、今回の優勝がより価値あるものになる。イタリアやイングランド、フランスのレピュテーション(評価)が高いのは、毎回と言っていいほどきちんと予選を突破し、その上で優勝候補に名を連ねているからだ。そういう意味でも、これから始まる2006年ドイツワールドカップ予選は、よりギリシャにとって重要なものになる。

主審のホイッスルが鳴ると同時に溢れ出したロナウドの涙。これからのポルトガル代表に期待したい
主審のホイッスルが鳴ると同時に溢れ出したロナウドの涙。これからのポルトガル代表に期待したい【 (C)Getty Images/AFLO 】

■タイトル獲得はならなかったが、ポルトガルは次世代の選手が伸びた

 ポルトガルもギリシャ同様、大会を通じて成長を重ねた好チームだった。初戦のギリシャ戦での敗戦によって、ディフェンスラインをジョルジェ・アンドラーデただ1人残して、3人を入れ替える荒療治。FCポルトの欧州チャンピオンを基盤にしたチームに切り替えて、またスコラリ監督の選手交代もさえ渡り、チームは一気に優勝を狙えるまでになっていった。

 フィーゴ、ルイ・コスタ、フェルナンド・コウトのベテラン3人がチームの中でヒエラルキーを作り、オランダのメディアが「サラサール政権下の独裁政治のよう」と例えたこともあったが、緒戦の敗退が返って新旧交代――というより融合をうまく行い、その後のフィーゴ、ルイ・コスタの活躍はご存じの通り。フィーゴは鬼の形相でドリブルし、ルイ・コスタはスーパーサブとしてチームに貢献。フェルナンド・コートも勝ちゲームを締めるストッパーとして二度出場した。

 ポルトガルは悲願の優勝を逃し、オランダ同様、ゴールデンジェネレーション(黄金世代)の何人かはタイトルなしのまま代表を去る可能性が高いが、それでも今大会で若手選手が成長したことによって、これから始まるワールドカップ予選でも好チームを作るベースはできた。
 ユーロを終えた後、いかにしてワールドカップ予選を戦うかはポルトガルにとって頭の痛い課題だっただけに、2戦目のロシア戦以降の戦いぶりは非常に貴重なものになった。

 最後に、個人的な感想を言えば、ユーロはわずか3週間の大会なので特に準々決勝以降はあっという間に大会が終わってしまう。明日以降も試合を見にポルトガルに残りたいぐらいなのだが、それはかなわない。できることなら、開幕戦のポルトガル対ギリシャからもう一回全試合を見直したいくらいの気持ちだ。
 これからオランダに戻って各クラブのプレシーズンマッチを追い、それからシーズンインになるわけだか、ポルトガルが今回FCポルトの選手を軸に立て直したのを見ていると、やはりユーロやワールドカップのようなお祭りの影には、クラブのサッカーという日々の生活が糧になっていることが分かる。これはジャーナリストやファンにとっても同様のこと。僕自身もまた力を蓄え、レーハーゲルが語った言葉同様、今回のユーロをドイツのワールドカップへの準備にしつつ、クラブシーンを大事にしていきたいと思う。

<了>
熟成に熟成をかさねたギリシャ(中田徹)[7.2]
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■中田徹/Toru NAKATA
 1966年生まれ。転勤族のため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。メキシコワールドカップを23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。オランダには98年に移り住み、当初はオランダリーグのあまりのレベルの低さに絶句しながらも、今となってはFCユトレヒトのシーズンカードホルダー。「にわかオランイェサポ」を自称し、ドイツに敵対心を燃やす。02年ワールドカップ予選ではオランダ代表の戦いぶりをリポート。フェイエノールトに所属する小野伸二を中心にオランダリーグのコラムをリポートしている

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