第82回天皇杯 THE 82nd EMPEROR'S CUP

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第81回天皇杯


sportsnavi 岩本義和



川崎フロンターレと石崎監督の「正当なる敗北」
(天皇杯準々決勝 鹿島vs川崎)



鹿島―川崎 前半、川崎・渡辺(左)と競り合う柳沢=国立競技場【共同】

■川崎フロンターレの「勝ちたい気持ち」


「準々決勝まで来られてよかった。選手たちのプレーにも、勝ちたい気持ちが表れていた」

 試合後の川崎フロンターレ・石崎信弘監督の談である。
「勝ちたい気持ち」――遠く記者席から見ていても、勝利への執念は強く伝わってきた。しかしその一方で、格上相手に勝つための“特別な手段”は、最後まで見えなかった。むしろこの日の川崎は、Jリーグ屈指の強豪・鹿島アントラーズを相手に、今あるがままの力で、あえて真っ向勝負を挑んでいたように、私の目には映ったのである。

 試合序盤、川崎は3−5−2の右ウイングの林を上がり目に保つ、実質「変形3−4−3」システムを軸に、プレッシングサッカーを展開する。中盤とディフェンスラインの選手がピッチ上を駆けめぐり、鹿島の攻撃の芽を摘み取っていった。
 対する鹿島は、サイドにうまくボールが展開できないと見るや、すぐに最終ラインからロングボールを放り込む手法にチェンジ。川崎の最終ラインを揺さぶりながらセカンドボールを拾い、中央からの本山のドリブル、小笠原のスルーパス、青木のロングシュートなどで、次第に試合のペースを握る。しかし、若干のミスを除けば、序盤の川崎は鹿島の揺さぶりにしっかりと対応できていた。

 逆に川崎は、ボールを奪えば即座にカウンターを仕掛ける。速いパス回しからトップの我那覇にいったん当てて、両サイドの長橋、塩川がクロスを供給。あるいは、FWの林と黒津が、引き気味の位置から我那覇とのワンツーを使って鹿島の最終ラインを突破しようとする。下馬評では圧倒的不利と思われていた川崎。しかし、彼らが見せる予想外の健闘に、スタジアムにも期待感がわき上がっていく。


■健闘する川崎に足りなかったもの


 26分、小笠原のスルーパスが、ペナルティエリア内に走り込んだ柳沢の前に抜け出る。絶体絶命かと思われたが、GK吉原が決死の飛び出しでセーブ。鹿島に傾きかけていた流れに歯止めをかける。
 そして42分、今度は川崎がカウンターから我那覇が黒津とのワンツー。さらに我那覇のスルーパス! 鹿島の最終ラインを破るかと思われたが、名良橋がすんでのところでスライディングカット。一進一退のまま前半を終えた。

「川崎やるじゃないか」
 ハーフタイムになると、そんな声がスタジアム中から聞こえてくるようだった。
 確かに守備はいい。ボランチのキャプテン鬼木を中心とする気迫溢れるプレーで、ぎりぎり食い止めている。しかし、攻撃はあと一歩、何かが足りない。ほんの数メートル踏み込めない。クロスの精度は言うまでもなく、トップの我那覇がボールをもらってから振り向いてプレーすることがない。1対1になると、“引く”フェイントはできても、“抜く”フェイントができない。

 そして後半。疲れを見せ始めた川崎は、鹿島の指揮官、トニーニョ・セレ―ゾの仕掛けた巧妙な罠(わな)にはまっていくことになる。


■トニーニョ・セレ―ゾが仕掛けた罠


「前半怖かったのは、ボランチの裏でディフェンスとの間を川崎のFWが狙っていたことだ。だが、それはハーフタイムで修正した。1人をバックの前に置いて、あえてその間に(相手のパスを)送り込ませてカットした」

 このセレーゾ監督の策略は、見事に奏効した。我那覇は、後半9分に右サイドを走る長橋へのポストプレーを最後に、このスペースでの自由な行動を奪われてしまう。黒津と交代で後半開始から投入された黄川田も、強引にパスやドリブルを仕掛けてはボールを略奪された。前半、攻撃基点として成立していた川崎のポイントを崩した鹿島は、一気に試合のリズムを引き寄せる。

 さらにセレーゾ監督は、攻撃においても的確な指示を出していた。
「(味方の)センターリングに対しては、正面ではなく斜めに突っ込んでいけ。ファーサイドを空けろ!」

 後半19分、中盤で柳沢とスイッチした小笠原が、左サイドを駆け上がるアウグストにスルーパス。そのアウグストから放たれた柔らかいクロスに、ファーサイドに詰めた本山が難しい角度からボレーをたたき込んだ。
 1−0。待望の先制点は、鹿島に生まれた。

 後半24分。どうしても点が欲しい川崎は、アウグストをケアしていた林に代えて、高さのあるFW小林をポストプレーヤーとして投入。そして、我那覇を林のいた右ウイングの位置に移動させる。
 依然として鹿島の猛攻は続いたが、川崎の守備陣は体を投げ出してこれ以上の失点を許さなかった。だが、中央を押さえ込まれた川崎は、遠めから正確性に欠くアーリークロスを放り込むのが精いっぱい。

 さらに後半38分には、今野に代えて木村をピッチに送り込む。最終ラインの渡邊を中盤に上げ、システムを4−3−3(実質的な狙いは2−5−3)の形にして勝負をかけようとするが、鹿島のプレッシャーに、川崎は前掛かりになることも許されなかった。空中戦に長けた岡山も、横浜M時代やC大阪時代に見せた“トップ張り”が見られない。

 後半41分のFKのラストチャンスを逃すと、もはや川崎には、老獪(ろうかい)な鹿島ディフェンスを崩す術(すべ)もなく、ほどなくしてタイムアップの笛を聞いた。


■「正当な敗北」が川崎にもたらすもの


 ナビスコカップがJ1クラブのみの大会となった今年から、J2のクラブがJ1クラブと対戦できる大会は、この天皇杯のみとなってしまった。J1勢の神戸(3−1)とG大阪(1−0)に連勝した川崎。その力が偽りではないと必死に証明するかのごとく、そして、だれしもが認める“強豪”鹿島との差を明らかにすべく、彼らはひたすら真っすぐに挑んでいった。それは、たとえ負けても「フロックの勝利はいらない」とばかりに、自分たちのサッカーを崩すことなく貫き通していたように、私には思える。

「鹿島と比べると、やはり技術、戦術が足りない。反省して、この経験を来年のJ2に生かしたい」
 そう語った石崎監督は、「J2屈指の名将」とうたわれながらも、これまでに3回、あと一歩のところでJ1昇格を逃している。大分で3位が2回、そして川崎で4位が1回。
 J2からJ1までの「距離」――目前までたどり着き、しかし越えられなかったその距離は、石崎監督にとって、すぐ手に届きそうな近いものだったのか、それとも絶望的なまでに遠いものだったのか。

 今ひとつだけ言えることは、川崎フロンターレと石崎監督が享受した、今回の天皇杯での経験、とりわけ今日の試合での「正当なる敗北」こそが、来季のJ2リーグを戦い、さらにJ1リーグに挑むための“明確な指標”となる、ということである。そしてそれは、きっと新たな力を生み出す糧(かて)となるはずだ。

<了>



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