コラム・会見
宇都宮徹壱
スポーツナビ

胴上げか、それとも「世界」か=天皇杯漫遊記 (1/2)
決勝 ガンバ大阪 1−0 柏レイソル

2009年1月2日(金)

■元日・国立をめぐる、それぞれの事情

キックオフを待つ柏のサポーター。前身の日立製作所以来、実に33年ぶりとなる天皇杯優勝を狙う
キックオフを待つ柏のサポーター。前身の日立製作所以来、実に33年ぶりとなる天皇杯優勝を狙う【宇都宮徹壱】

「か〜し〜わ一代、誓った日か〜らぁ〜」

 元日の国立にて「柏バカ一代」が唱和される。濃厚な昭和の香り漂う、この柏レイソルの代表的なチャント(応援歌)は、アニメ「空手バカ一代」の主題歌をオリジナルとしているのだが、梶原一騎原作による漫画は1971年から77年まで『週刊少年マガジン』にて連載されていた。当時、小学生だった私も、歯医者の待合室で何度も熟読した記憶がある。

 柏のサポーターがどれだけ意識しているかは不明だが、「空手バカ一代」が連載されていた6年間は、柏の前身である日立製作所の黄金時代と見事に重なっている。すなわち、JSL(日本サッカーリーグ)優勝1回(72年)、天皇杯優勝2回(72年度、75年度)、そしてJSLカップ優勝1回(76年)。日立時代の主要タイトルのすべては、この時代に獲得したものである。今回の天皇杯決勝進出は、2度目に優勝した75年以来ことで、実に33年ぶりの慶事。もっとも、今回ベンチ入りしたメンバー18人のうち、最年長はフランサの32歳だから、誰も前回の決勝進出を知らないことになる。むしろ彼らにとっては33年分の重みよりも、この試合を最後に柏を去ることになっている「石さん」こと石崎信弘監督を胴上げしたい、という思いの方が、はるかに強いことだろう。

 もう一方のファイナリストであるガンバ大阪は、前回の決勝進出は2年前。ただし、この時は対戦相手の浦和レッズにタイトルを譲っている。試合内容はといえば、G大阪が終始ゲームを支配し、実に21本ものシュートを浴びせたものの、浦和の鉄壁のディフェンスを最後まで崩すことはできず、最後は終了間際の永井雄一郎の決勝ゴールに沈んだ。試合後の会見で、西野朗監督が「悔しいです」と一言発したきり、口を「へ」の字に曲げたまま20秒近く沈黙してしまったのを、昨日のことのように覚えている。

 西野監督といえば、G大阪を率いて7年という長期政権を維持しているが、これまでリーグ(2005年)、ナビスコカップ(07年)、そしてACL(AFCチャンピオンズリーグ/08年)と数々のタイトルを勝ち取っているものの、なぜか天皇杯だけは手にしていない。クラブとしても、松下電器時代の90年度に一度獲得しただけなので、優勝すれば実に18年ぶりの快挙。その最後の対戦相手が、西野監督にとって「古巣」に当たる柏というのも、何やら因縁めいた話である。
 現役時代は日立でプレーし(ただし入団したのは、黄金時代直後の78年)、そして監督としてナビスコカップで優勝(99年。柏にとっては、プロ化してから唯一のタイトル)。いろいろ思うところはあるだろうが、この一戦に勝利しなければ、悲願のタイトルも、09年のACL出場権も、そして何より、ここに至るまでの努力のすべてが水泡に帰することとなる。西野監督にとっては、まさに「絶対に負けられない戦い」。その思いは、きっと選手たちも共有していることだろう。

■「行けるところまで」か「後半に勝負をかけた」か

 あらためて、晴れ舞台に臨む両チームの状況を確認しておこう。今度はG大阪から。 「ロッカールームは野戦病院状態だ」――。3日前の横浜F・マリノスとの準決勝を終えた会見で、西野監督が発したこの一言が、チーム状況を端的に物語っている。遠藤保仁は右足首、そして橋本英郎は右内転筋にそれぞれ痛みを抱えており、いずれも自らの意志でピッチを去っている。加えて先のクラブワールドカップ(W杯)では、二川孝広と佐々木勇人が負傷でリタイアしているため、西野監督は毎試合のように中盤のラインナップに悩まされ続けた。結局、中2日の様子を見た結果、遠藤と橋本はスタメン出場。これに寺田紳一、明神智和を加えた4人が、G大阪の中盤を担うこととなった。

 一方の柏は、G大阪と同じ中2日ながら、こちらはキャプテンの大谷秀和がけがから復帰し、ほぼベストの顔ぶれ。しかも、フランサと李忠成をベンチに温存するという余裕ぶりである。天皇杯ではここ2試合、まずフランサを後半早々に投入し、ボールと相手DFが集中するようになってから李を送り出すという時間差の起用法が的中。準々決勝のサンフレッチェ広島戦、そして準決勝のFC東京戦を、いずれも接戦の末に制している。

 ピッチ上での豪華さでは間違いなくG大阪なのだが、ベンチの充実度では柏のほうが上。ここに、両チームの対照的なゲームプランを見てとることができる。すなわち、主力のコンディション不良にはあえて目をつぶり、とにかく「行けるところまで」(西野監督)というG大阪。逆に、切り札を温存して「後半に勝負をかけた」(石崎監督)という柏。指揮官の発想こそ真逆ながら、試合そのものはきっ抗した展開を見せる。

 ゲーム序盤、最初にスタンドを沸かせたのは柏だった。6分、右サイドバックの村上佑介の折り返しをポポがシュート。これはGK藤ヶ谷陽介が好判断で防いだ。柏は豊富な運動量と縦へのスピードで、両サイドから何度も際どいクロスを放り込んでくる。いつもはポゼッションで勝るG大阪も、前半は押し込まれる時間帯が続いた。15分には、明神が会心のミドルシュートを放つも、反撃ムードを演出するには至らず。遠藤はセットプレーを蹴ることができず、橋本はいかにも体が重そう。2トップの山崎雅人とルーカスも、前線にスペースを与えられず、前半は一度もシュートを打たせてもらえなかった。

 結局、両者とも決定的な場面が少ないまま、スコアレスで45分が終了。いよいよもって後半勝負、それも1点勝負のにおいがピッチ上から漂ってくる。

 <続く>


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