コラム・会見

親和性と必然性(1/2)
天皇杯漫遊記 <準決勝 ガンバ大阪対サンフレッチェ広島>

2007年12月30日
宇都宮徹壱

準決勝第1試合は、エコパでのG大阪対広島。両者は昨年5回戦で対戦し、G大阪が4−2で勝利している

準決勝第1試合は、エコパでのG大阪対広島。両者は昨年5回戦で対戦し、G大阪が4−2で勝利している 【 photo by 宇都宮徹壱 】

■降格決定の広島、快進撃の謎

 帰省客でごった返す新幹線「こだま」に乗って、掛川駅で下車。北日本は大荒れの天気らしいが、幸い静岡の空は前日の雨模様から回復に向かっているようだ。ありがたい。やはりこの季節のサッカー観戦は、穏やかな天気が一番だ。

 掛川から在来線に乗り換えて、愛野駅から準決勝の会場、エコパスタジアムを目指す。正面玄関には大きな門松が飾ってあって、いささか感慨深い。日本中のほとんどの働く人々が仕事収めを終えた現在、天皇杯を戦い続けているチームは4つに絞られた。鹿島アントラーズ、川崎フロンターレ、ガンバ大阪、そしてサンフレッチェ広島。この準決勝では、東のチーム同士、西のチーム同士が対戦し、決勝は東西のクラブが対決することになっている。ここエコパで行われるのは、西のチーム同士、すなわちG大阪対広島である。

 さて、この4強を見渡してみたときに、何とも異彩を放っているのが、広島であることは衆目の一致するところであろう。今季2冠目を目指す鹿島とG大阪、そしてナビスコカップを逃した悔しさをバネにクラブ史上初の決勝進出を目指す川崎。そんな中にあって、すでに来季のJ2降格が決まっている広島の存在は、いささか場違いのようであり、それゆえ対戦相手にとっても不気味に映るのではないだろうか。

 なにしろリーグ戦では、9月1日の横浜FC戦以降、10試合勝利なし。京都サンガFCとの入れ替え戦でも1分け1敗で終了。この時点でチームは、刀折れ矢が尽きたかと思われていた。ところが天皇杯での広島は、リーグとは打って変わって絶好調。4回戦では湘南ベルマーレに3−0、5回戦ではジュビロ磐田に2−0、そして熊本で行われた準々決勝ではFC東京を2−0の点差以上に圧倒し、一躍4強に駒を進めた。

「なぜシーズン中にそういうプレーを見せなかったのか?」
「なぜ入れ替え戦でそういう戦い方ができなかったのか?」

 そんな広島サポーターの、憤まんやるかたない恨み節が聞こえてきそうな勢いである。
 今季、リーグでは1度も3連勝していないチームが、スタメンもフォーメーションも戦術もほとんど変えていないにもかかわらず、トーナメント戦3試合を無失点で勝ち上がる――この不思議さを考えたとき、私はどうしても広島のチーム事情よりも先に、この天皇杯との親和性について考えが及んでしまうのである。


■天皇杯出場56回、決勝進出12回

すでにJ2降格が決まっている広島だが、天皇杯では絶好調。サポーターの心境も少し複雑?

すでにJ2降格が決まっている広島だが、天皇杯では絶好調。サポーターの心境も少し複雑? 【 photo by 宇都宮徹壱 】

 いささか奇妙な表現だが、広島ほど天皇杯が似合うチームもほかにないだろう。
 まず、出場回数が半端ではない。前身の東洋工業時代から数えて、実に56回。今大会は第87回大会だが、戦争などの影響で9大会が中止になっているので、実際に行われたのは78大会。つまり7割以上に出場していることになる(ちなみに出場回数2位は、浦和レッズとジェフ千葉の43回)。初出場は、戦後間もない1949年の第29回大会。記録によると、この大会では6月4日と5日の2日間のみ、早稲田大学東伏見運動場で行われたという。出場チームは東洋工業を含めて、わずかに5チームだった。

 その後、54年には実業団チームとして初めて天皇杯決勝に進出するも、慶応BRBに延長戦の末に3−5で惜敗。決勝進出3度目となる66年、八幡製鉄を3−2で下して、ようやく悲願の初優勝を果たしている。数えてみると、東洋工業時代からマツダSC時代をはさんで現在のサンフレッチェ広島時代に至るまで、天皇杯決勝に進出したのは12回。これまた最多記録だ。いかに広島が天皇杯と親和性があるか、これで理解できよう。

 しかし、である。それでは優勝は? となると、実は3回を数えるのみ。決勝進出の回数に比べると、かなり寂しい数字だ。しかも、最後に広島が優勝したのは、東洋工業時代の69年。今から38年前の話である。以降はずっと、決勝で涙を飲み続けた。記憶に新しいところでは、ストイコビッチのドリブルに翻弄(ほんろう)された99年の名古屋グランパスエイト戦(0−2)、96年のヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)戦(0−3)、そして95年の名古屋戦(0−3)と、いずれも見事な負けっぷり。天皇杯における広島は、大会の常連にして、サッカー界随一の“斬られ役”であったと言えなくもない。

 そんな広島に、8年ぶり13回目のファイナル進出の可能性は、いかほどあるのだろうか。相手はJ1屈指の攻撃力を誇る、あのG大阪である。今季は、リーグとナビスコカップで4回対戦して、結果は広島の1勝1分け2敗。2敗はいずれも0−3の完敗である。いくら現在のチームに勢いがあるとはいえ、地力は明らかに向こうの方が上だ。
 そこで、過去の天皇杯の対戦記録をひっくり返してみると、ひとつだけ広島有利のデータを見つけることができた。彼らが決勝に進出した95年と96年の大会では、いずれも準決勝の相手がG大阪だったのである。まあ、やや説得力に欠けるデータだが、伝統あるカップ戦では、こうしたジンクスが往々にして重要な意味を持つこともある。換言するなら、リーグ戦での常識が100パーセント通用するわけでは決してない。それがカップ戦の不条理であり、かつ天皇杯の面白さであるといえよう。

<続く>

◆前後のページ |

関連リンク
王者の安堵 07/12/23
決別の季節 07/12/09
サッカー天皇杯 スタジアム周辺マップ(Yahoo!)

コラム・会見一覧

サイト内検索:  携帯版スポーツナビブログ