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敗れた札幌が手にしたもの(1/2)
宇都宮徹壱の天皇杯漫遊記2006

2006年12月30日
宇都宮徹壱

エコパのゴール裏に出現した札幌のビッグフラッグ。サポーターは気合十分
エコパのゴール裏に出現した札幌のビッグフラッグ。サポーターは気合十分【 photo by 宇都宮徹壱 】

■「ヤンツーの誕生日を国立で祝おう!」

 東京駅から飛び乗った新幹線こだまの自由席は、思いのほか空いていた。品川駅に到着すると、まなじり決した札幌のサポーター数名が乗り込んでくるのが見える。千歳空港から空路、羽田へ。そこから品川に出て、新幹線に乗り換えて掛川へ。帰省ラッシュの折だけに、札幌サポーターの熱意には頭が下がる思いである。

 暮れも押し迫った29日、天皇杯は静岡エコパスタジアムと東京・国立競技場で準決勝2試合が行われることになっていた。これから向かう静岡エコパのピッチに立つのは、ガンバ大阪とコンサドーレ札幌。札幌はJ2ながら、それでもJ1勢を3チームも撃破しての初の準決勝進出である。この戦績だけでも立派であるが、札幌の場合は雪国ゆえのハンディ(福島、神奈川と合宿地を転々としている)、主力選手の離脱(チーム内得点王のフッキがブラジルに帰国)、そして債務超過(準決勝進出の賞金2000万円で天皇杯は辛うじて黒字になったが)という三重苦を乗り越えて、元日・国立まで「あと一つ」に迫った。

 そんな札幌サポーターの間で合言葉となっているのが「ヤンツーの誕生日を国立で祝おう!」である。「ヤンツー」というのは、柳下正明監督のニックネームなのだが(どういう意味なのかはよく分からない)、この人の生年月日は1960年1月1日。つまり「元日・国立にみんなで行こう」というメッセージが、この合言葉には込められている。
 実は「ヤンツー」は、過去3回、元日・国立の舞台で誕生日を迎えている。一番最近は3年前で、この時はジュビロ磐田の監督として、チームに2度目の天皇杯をもたらした。その前が、元号が「平成」に改まるちょうど1週間前の1989年元日。ヤマハ発動機(現ジュビロ磐田)の主将として迎えたファイナルは、日産自動車(現横浜F・マリノス)に逆転を許してしまい(2−3)涙を飲んだ。さらにさかのぼって1982年、この日のテレビ中継の解説を担当した山本昌邦氏とディフェンスラインを形成して臨んだ大会では、延長戦の末にフジタ工業(現湘南ベルマーレ)を1−0で破って初優勝。ちなみに当時のヤマハはJSL(日本サッカーリーグ)2部に所属しており、この大会を最後に2部のクラブは一度として天皇杯を制してはいない。

「にわかコンササポ」宣言をした者としては、こうした柳下監督が持つ天皇杯へのジンクスに、ついすがりたくなってしまう。準決勝の相手が、地力でも選手層の厚さでもはるかに勝るG大阪であれば、なおさらであろう。加えて今大会のガンバは、ザルツブルクへの移籍が決まった宮本恒靖への手向けの花とするべく、チーム一丸となってタイトルを取りにきている。真っ当に考えるなら、今季J2で6位に終わった札幌に勝ち目はない。
 もっともG大阪には、過去5回も天皇杯でベスト4になりながら、一度として決勝に進出していないという不吉なデータもある。そう、準決勝はG大阪にとって、まさに鬼門であった。こうした奇妙なジンクスが、時として実力差や戦力差を越えて勝敗を左右してしまうのがカップ戦の面白さ。果たしてゲームは、どちらに転ぶのだろうか。


■マグノ・アウベスは封じたものの

鬼門ともいえる準決勝突破を目指して気勢を上げるG大阪のサポーター
鬼門ともいえる準決勝突破を目指して気勢を上げるG大阪のサポーター【 photo by 宇都宮徹壱 】

 底冷えのする静岡エコパ。両ゴール裏は赤黒と青黒にきれいに染め上がり、ちょっとしたミラノダービーの様相を呈している。この日の入場者数は7038人。準決勝にしてはいささか少ない数字だが、それでもサポーターが醸成する熱気は、2時間後に国立で行われた浦和対鹿島にも負けてはいなかったと思う。

 札幌は準々決勝からスタメンが3人代わった。まず右アウトサイド藤田征也の出場停止を受けて、右ストッパーの加賀健一が移動。その穴をキャプテンマークを巻いた西澤淳二が埋める。同じく出場停止となった大塚真司の代役には、金子勇樹を起用。そして右足首などを痛めていた西谷正也(FW登録だが本来はMF)は大事をとって控えに回り、11番を付けた相川進也が中山元気と2トップを組む。トップ下の砂川誠はスタメン出場しているが、左またを痛めていて2日前の練習は別メニュー。まさにギリギリに切り詰めてのスターティングメンバーであった。
 対するG大阪は、神戸で見た5回戦(サンフレッチェ広島戦)のメンバーとほぼ同じ。出場停止の播戸竜二に代わって「J1通算1万ゴール」の前田雅文が、マグノ・アウベスのパートナーにチョイスされた。布陣はシジクレイ不在バージョンの4−4−2。そのシジクレイ、ベンチ入りはしているので、後半での投入はあるかもしれない。

 そんなG大阪のメンバーの中で、札幌が最も警戒すべき選手は、やはり今季26ゴールを挙げてワシントン(浦和)と得点王を分け合ったマグノ・アウベスであろう。だが偶然にも、西澤、曽田雄志、西嶋弘之の3バックは、大分時代のマグノ・アウベスを完封した実績を持っていた。2年前に熊本で行われた天皇杯5回戦、大分の大砲をシュート2本に抑えて1−0で競り勝った札幌は、初のベスト8進出を果たしているのである。
 この日も札幌の守備ラインは有効に機能し、マグノ・アウベスに対して決定的な仕事をさせなかった。シュート数3、得点ゼロ。当人の調子がよくなかったことを差し引いても、とりわけ前半の札幌守備陣の堅守は賞賛に値するといえよう。

 とはいえ警戒すべきは、もちろんマグノ・アウベス1人だけではない。U−21日本代表の家長昭博を含め、新旧の日本代表を7人もそろえたG大阪は、圧倒的なポゼッションで終始ゲームを支配。そして前半18分、ついに試合が動く。
 ペナルティーエリア前でFKのチャンスを得たのは札幌。だが、砂川のキックは壁に当たってはね返り、そのままG大阪が一気呵成(かせい)のカウンターを発動する。前掛かりになっていた札幌は、パワーと勢いと人数に勝るG大阪の攻撃にあらがい切れず、加地亮による先制ゴールを許してしまう。それまで危機的なシーンを許していなかっただけに、札幌にとっては実に悔やまれる失点。結局、G大阪1点リードで前半は終了する。

<続く>


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